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7 最初の友達


あれからも花音(かのん)との会話は数分間続き、その間もしっかりと佳奈美(かなみ)に渇いた笑みを向けられたが、花音は躊躇うことなくニコニコと会話を振ってくる。


「で、その時なんて言ったんでしたっけ?」

「俺は何も言っていない」

「ふふ、照れてるんですね♪」


花音は佳奈美に(しゅう)の昔の話をしていて、勿論そばにいる柊は話を止めにかかる。


「そんなのどうでもいいから、いい加減帰らないか?もう教室誰もいないぞ」

「え〜?でも私たちはお父さんとお母さんをここで待たないといけないからどの道まだ帰れませんよ?」


花音の言う通り、柊たち姉弟は両親がここにくるまで待たないといけない為、仮に会話が途切れたとしても帰ることはない。


そしてそこで気になることが柊の頭に浮かび上がり、佳奈美に対して質問を投げつけた。


「まあ俺たちはそうだけど、香賀(かが)さんは時間とか大丈夫なのか?なんか姉さんのせいで無理やり話に付き合わされてる感じがするけど、普通に帰ってもらって大丈夫だからな?」


柊は佳奈美のこれからの予定などのことを心配してそのような質問をしてみたのだが、佳奈美の反応は思いの外良好的なもので。


「ううん、私は好きで二人の話を聞いてるから大丈夫だよ。時間だって全然余裕だから心配しなくて平気だよっ」


佳奈美は笑顔でそのように答えてくれたのだが、姉弟二人はその笑顔を見てなんとなく申し訳なさが湧き上がり、なんとかこの状況を変化させようと一つの提案を出し始めた。


「じゃあここでずっと話すのもあれですし三人でお昼ご飯でも食べながらお話ししませんか?私、お腹ペコペコなんです」

「確かに、こんなところで立ち話するより昼ご飯でも食べながらゆっくり話したいな。香賀さんはどう?」

「うんっ!それすごく良いと思う!入学初日からお友達とご飯に行くなんて、青春みたいで楽しそう!」


二人の提案に一瞬で乗っかった佳奈美はまるで高校生活に憧れている小さな子供のようで、二人はそんな佳奈美の青春のために様々な楽しい話をしてあげようという決意を固め、早速荷物を持って行き先を決め始めた。


「じゃあ行きましょうか、お昼ご飯。どこにしますか?」

「香賀さんって家どの辺?」

「えっと、最近引っ越して来たのであんまりわからないんだけど…確かあっちの方だったかな」


佳奈美は指を指して自分の家の方角を示し、それを見た柊は少し驚きつつも考えを巡らせた。


「お、一緒の方角じゃん。ならこの前できたばかりのファミレスにでも行くか?」

「いいですね。ジュースでも飲みながら楽しくお話ししましょうか」

「香賀さんはそれでいい?」

「うん、大丈夫」

「おっけー。じゃあ行くか」


という感じで三人がこれから向かう店は決定し、三人は教室を出て__


「いやじゃあ行くかじゃねぇよ。親待たねぇとだろ」


そういえば柊と花音は一度親が来るのを待たないといけないため、柊は先程の自分の発言にしっかりとツッコミを入れた。


すると花音はおかしそうに笑い、こちらに対して可愛いものを見る目を向けてくる。


「ふふ、ようやく気づいたんですねっ。このまま気づかなかったらどうしようかと思いましたよ」

「クソ…まさかここに来て親に俺らの青春を阻まれることになるなんてな…」


柊は自分の記憶力の低さに落胆してあからさまに気を落とすが、そんな反応をする必要はないと言いたがな花音が背中を軽く叩いて励ましてくれる。


「まあまあ、そんなに下を向いていると幸せが落ちていっちゃいますよ?別にそこまで落ち込まなくても良いと思いますけど」

「いやでももう行く流れだったじゃん…なんか香賀さんに申し訳なくて」

「いや!別に私のことは気にしなくて大丈夫だよっ!」

「そもそも、この問題は今すぐに解決できますしね」

「??」


そこで花音が意味深な発言をしながら教室の扉の方を向いたため柊の脳内は困惑で埋め尽くされるが、花音はそれに構わず扉に向かって話しかけ始めた。


「そろそろ出て来てくれると嬉しいんですけどね?でないとお昼ご飯を食べにいけないのですが」


花音が少し挑発するような口調で扉の方に言葉をかけるとそこから物音がし始め、ついには二人の人間が教室の中に入って来た。


「あらら、バレてたか」

「何だか楽しそうに話していたからつい…ね?子供の青春を邪魔するのはどうかと思ったの」

「全く…余計なお世話ですね」

「いたのかよ二人とも…ならさっさと入って来てくれよな。ずっと待ってたんだからな?」


柊と花音は教室に入って来た二人の人物と何気なく話を進めているが、何も知らない佳奈美にとってその状況は理解不能であって、彼女は頭を混乱させながら質問をしてくる。


「えっと…このお二人は君たちと一体どういう関係…?」

「この二人が私たちの両親です」

「…え?」

「聞こえませんでしたか?この二人が私たちの両親ですっ!!」

「いやそういうわけではないんですけど…」


佳奈美は花音から答え合わせを受けたが、それでも脳が理解を拒んでいるようで、今も目を見開いてポカンとしている。


「え、こちらの若い二人が神庭(かんば)くんと花音さんのご両親…?信じられないんだけど…」


どうやら佳奈美は柊たちの両親の容姿の若さに驚愕しているらしく、彼女は口元を押さえながら驚きをあらわにしている。


するとご両親である二人が嬉しそうに笑い、特に母の方はかなり上機嫌になってきて。


「あら♪嬉しいことを言ってくれるお嬢さんね♪」

「別に俺たちそんなに若くないよ。多分ここのクラスメイトのご両親とほぼ同年代だろうし」

「え、そうなんですか…?」

「まあ驚くのも無理はありませんよね」

「見た目だけは若いからなぁ」


両親の見た目の若さは子供である柊と花音のお墨付きもしっかり得ていて、正直言って少し年上の学生と言われても納得できるほどである。


なのでそんな二人が親という事実を知った人間は例外なく驚きを見せて来て、勿論それは佳奈美も例外ではない。


「すごいですね…私もそうなれるように頑張らないとっ」

「向上心があっていいわね〜」

「俺はあんま努力とかしたわけじゃないから、正直何もしなくてもどうにかなると思うよ。君顔整ってるし」

「そ、そうですか…」


佳奈美は急に褒められて頬を赤く染めたが、そこで首を横に振って邪念を取り払った。


そして胸に手を当てて何かを決意し、そして開き直ったように二人の目を見て話し始めた。


「申し遅れました。私、香賀佳奈美と言います。こちらにいる神庭くんと花音さんとは、お友達をさせてもらっています」

「!?」


佳奈美が自己紹介を終えた頃、柊の心臓は大きく跳ね、心が躍るような感覚に襲われる。


(友達…?俺と香賀さんが?まだ今日会ったばかりだからてっきりまだ友達じゃないと思っていたが…)


どうやら佳奈美はこちらのことを友達として認識してくれていたらしく、柊はその気持ちに応えたいと考え始める。


(まぁ俺も友達は欲しいって思ってたし、ここは香賀さんの言葉に乗っかろうかな)


といった感じで柊も佳奈美のことを友達として認識するようにし、これから少しだけ親しい態度になろうと考えた。


「じゃああとは若い三人でごゆっくり〜」

「柊、ちゃんと香賀さんのことを送って行くんだぞ」


柊が考え事をしている間に自己紹介などは終わったようで、もう高校生三人で昼食を食べに行くという話に変わっていた。


「わかってるよ」

「なら、お友達同士仲良くな」

「行ってきま〜す」

「「いってらっしゃい」」


全員が互いに手を振り合い、そして柊たちは目的にであるファミレスに向けて歩き始めた。


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