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67 姉弟ですよ?


 ミンミンとうるさい蝉の鳴き声に、暑苦しい夏の風。そして、長すぎる校長の話。


「いよいよ明日から夏休みが始まりますが、皆さん気を緩めず…」


 全校生徒が体育館に集められてから三十分が経とうとした頃、ようやく校長の話は終わりに向かって__


「ここで私の知人の話を聞いていただきたいのですが__」


 いや話始めんな。


 そんなことを全員が感じたが、それを口にできるはずがなくて結局一時間は暑苦しい体育館に閉じ込めれていた。

 そしてその後一同は教室に戻り、今学期最後の方ホームルームの時間を過ごした。


「それではみなさん、また二学期に元気な顔で会いましょう」

「「「「「「はい!!!!!!」」」」」」


 希望に満ちたクラスメイトの返事はいつもの三倍ぐらい大きくて、それには隣の佳奈美(かなみ)の声も含まれていた。


「はは、佳奈美さん嬉しそうだな」

「ん〜?ふふ、だって夏休みだよ?すごく楽しみだよね!」

「まあ気持ちはめちゃくちゃわかる」


 佳奈美の笑顔はいつも以上に眩しくて、(しゅう)の期待は今まで以上に膨らんでいた。


「その感じだと夏休みは何か予定があるのか?」

「う〜ん、実はこれといった予定はないんだよね」

「そうなのか?てっきり新しい趣味でも見つけたのかと」

「ううん、全然だよ。今の所家でゴロゴロしたりするぐらいしか予定ないし…あ、そうだ!」

「?」


 佳奈美は何かを思いついたように手を叩いた。


「柊くん!もし予定空いてたら、一緒に遊ばない?」

「俺と?」

「うんっ!」

「二人で?」

「うんっ!あ、花音(かのん)さんが一緒でも大丈夫だよ?」

「そっか。なら日によって分けるか。二人で遊ぶ日と、姉さんも交えて三人で遊ぶ日で」

「そうだねっ!」


 なんかさりげなくデートの予定を取り付けてしまった気もするが、今はとにかく夏休みというワードに心が昂っているのでそんなのはどうでもいい。


 と、そんな風に佳奈美との夏休みの予定について話し込んでいると、ある人物が軽く鼻歌を歌いながらこちらにやってきた。


「二人とも♪何を話しているんですか?♪」

「あ、花音さん」

「夏休み一緒に遊ばないかって話」

「おお!それはいいですね!」


 一つ学年が上の花音もこちらのクラスにやってきて、テンション高めに会話を弾ませる。


「どこに行きますか!?」

「そうですね…例えば、海とか?」

「海!!!」

「夏なら祭りとかもありそうだよな」

「お祭り!!!」

「あとは…いつもみたいにカフェとか?」

「カフェ!!!」


 なんかうるさいなこの人。

 多分花音も夏休み目前でテンションが上がっていて、目を輝かせながらニコニコと笑っている。


「あとは柊と毎日デートとか!!!」

「しねぇよ?」

「一緒にお風呂に入ったり__」

「しねぇよ!?」


 友達、いや好きな人がいる前でそういうことを言わないでほしい。だって今佳奈美に引いたような目を向けられてるから…。


「柊くん…」

「いやしないからな!?これはいつもみたいに姉さんが勝手に言ってるだけだから!!」

「ううん、私は別にいいと思うよ…?世界には色んな姉弟の形があるからね…」

「誤解しないでくれ!!??」


 何ちょっと哲学的なこと言ってんの?そんなことを言われても明らかに苦笑い向けられてるから心に響かないよ?


「ふふ、佳奈美ちゃんはやっぱりわかってますね♡」


 いやごめん。響いてる人いたわ。


 なぜか花音は自分の理解者に会えた時のように嬉しそうで、いつもより声を大きくして自分の考えについて話し始める。


「私たちは運命に導かれて姉弟になった二人ですから普通のご家庭より仲がいいのは当然なんです♡」

「そ、そうなんですね…」

「なので私たちがいくつになってもお風呂に一緒に入るのも当たり前ですし、一緒にベッドで寝ることも当たり前なんです♡」

「んな当たり前はねぇ!!」


 あまり好きな人がいる前でそういうことを言うのはやめてほしい。だって誤解されてしまうから。


「あはは…やっぱり二人は仲がいいんですね…。二人にそういう予定があるなら私はお邪魔しないように一人で過ごしていますね…?」


 ほら、せっかくのデートチャンスがなくなりそうになってるじゃん。


 いや、それヤバくね!?


「いやいや!そんなことしなくていいって!俺は普通に佳奈美さんと遊びたいから!!」

「いやでも花音さんとの予定が…」

「それは姉さんが勝手に言ってるだけだから!俺毎年家で暇してるからマジで一緒に遊んでくれ頼む!」

「そ、そうなんだ…?」


 なんかそれっぽいこと言ってるけど、結局デートしてくださいって死ぬ気でお願いしているだけなんだよね。でもその言葉も佳奈美の心には届かず、彼女から苦笑いを向けられてしまう。


「でも結局家で花音さんと楽しく過ごしていたんじゃない…?全然私は邪魔するつもりないよ…?」

「いやマジで暇してたから!!」

「いえ、私と毎日一緒に過ごしていましたからね」

「それは姉弟だから当たり前なんだよ!!!」


 二人が姉弟だと知らない人からすれば毎日一緒に過ごしているバカップルような発言だが、二人は実際に姉弟なので同じ家で過ごしている。なので毎日一緒にいることは当たり前なのだが、佳奈美はなぜか誤解してしまっていて。


「そ、そうですよね…。ごめんなさい。私は家で一人寂しく過ごしていますね…」

「だから違うってぇぇぇぇ!!!」


 この後誤解を解くのに一時間かかった。


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