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66 できること


 ココアを淹れるだけのはずが、なぜか友人の母と会話が弾んでしまってつい佳奈美(かなみ)のことを忘れてしまっていた。いや話の内容は佳奈美のことだからずっと考えてはいたけど。でも今ベッドで寝込んでいる現実の佳奈美のことは頭から抜けていたので、それに気づいた瞬間すぐに佳奈美の部屋に向かった。

 そして緊張しつつ部屋の扉を開け、佳奈美と対峙した。


「あれ、遅かったね」

「ちょっと(かえで)さんと話してて」

「へ〜。何を話してたの?」

「それは…」


 あなたのことについてだよ。なんて言えるはずもないので適当に誤魔化しておく。


「どうでもいい話だよ。それよりほら、ココア淹れてきたよ」

「あ、ありがとうっ」


 ベッドで座っている佳奈美にココアを渡し、彼女が味わっている姿を凝視する。


「ん〜!美味しいねっ」

「そっか…。ならよかったよ…」


 不味いなんて言われたらどうしようかと考えたが、佳奈美は美味しいと言って笑みを向けてくれた。まあ市販のココアだから特に心配する必要はないのだろうが、思春期男子はそんな簡単なものではない。


 でもまあ、結局美味しそうに飲んでくれてるから何でもいいんだけど。それよりも今は、一つ確認しておきたいことがある。なので柊は佳奈美が一通りココアを飲んだ頃を見計らって佳奈美に話しかけた。


「ねぇ佳奈美さん。一つ、訊いてもいいかな?」

「うん、いいよ」

「ありがとう。あ、でもちょっと…いや場合によっちゃ結構失礼なことかもしれないんだけど…」

「…???」


 今柊が言おうとしている内容は、人によってはかなり言いたくないような質問だ。でも柊としてはある程度把握しておきたいことであるので、どうしても訊きたいのである。


「あの…佳奈美さんはさ、もしかして毎月こんな感じになってるの…?」

「…なるほど。そういうことですか」


 失礼な内容に少し遠回しな質問をすると、そこで姉の花音(かのん)は何かを察してくれたようで、小さく頷いてくれた。


「何を言うのかとビックリしましたよ。もし本当に失礼すぎることでしたら躾の必要がありますからね」

「あはは…。まあでも、その必要はありませんよ。多分柊はくんは、私のことを心配してくれてるんだよね?」

「まあな」


 一旦花音の躾を回避し、佳奈美の言葉に耳を傾ける。


「ありがとう。やっぱり柊くんは優しいね」

「そんなことないよ。ただやっぱり佳奈美さんには辛い思いをしてほしくないから、力になりたいと思っているだけだよ」

「…そっか。じゃあお言葉に甘えて、これからも少しだけ力を貸してもらおうかな」

「ああ、任せてくれ」


 どうやら少しぐらいは頼ってもいいと思われているらしい。佳奈美から信頼され始めたのなら、それ以上は望まない。


「それで、さっきの質問の答えだけど…。まあ、毎月こうってわけではないんだ。普段は熱が出ることもないしお腹も痛いけど全然我慢できるぐらいだし。でも、たまに今日みたいに重い時もあってね…。そういう時は今日みたいに学校を休んでずっとベッドにいるね」

「…なるほどな」


 佳奈美は何も包み隠さず全てを話してくれた。多分、異性にこういう話をするのは簡単なことではないだろう。でも佳奈美はちゃんと話してくれて、柊の心は感謝の気持ちで埋まった。


「話してくれてありがとな。友達とはいえ、男に話すのは抵抗があるはずなのに」

「うん、まあ…そうだね。あんまり男の人に知られたい話ではないね…」


 …いや、やはり話したくない内容だったか。そう思っているのならかなり申し訳ないことをしてしまった。そんな風に今度は申し訳なさで頭がいっぱいになったのだが、佳奈美の言葉には続きがあった。


「でも、柊くんは大切な友達だから…。君になら、知られてもいいかなって思って…。だから恥ずかしいけど話したんだよ…?」

「っ…!?」


 ああもう、その顔は反則だ。そうやって恥ずかしそうに上目遣いをしてくるのはマジで心臓に悪い。でも別に嫌ではなくて、むしろ最高に嬉しかった。


「あ、ありがとう…?俺も、佳奈美さんだから力になりたいって思ってるからな…?」

「〜〜っ!」


 もう本当、何してるんだろうな。マジで他人から見ればただのバカップルだぞ。いやそう見られるのも悪くはないんだが。でも佳奈美は嫌がる可能性があるからこれ以上会話を進めようとはしない。


 するとそこで何かを察した花音がニコニコと笑いながら話に入ってきて場を和ませてくれる。


「さて!私たちはそろそろお暇しましょうか!」

「そ、そうだな!そろそろ遅くなってきたし帰るか!」


 長々と居るとゆっくり眠れないだろうから、二人はササッと立ち上がって帰る支度をした。


「じゃあ、また明日。今度はできれば家の前で会いましょうね」

「はいっ。ありがとうございました」

「俺にできることがあるならマジでいつでも連絡してくれていいからな」

「うん、わかった」


 花音が部屋の扉に手をかけ、そこで柊は佳奈美と小さく手を振り合った。


「また明日な。バイバイ」

「今日はありがとうね。また明日」


 佳奈美はいつものような優しい笑みを向けてくれ、それを最後まで眺めながら部屋を後にした。


 そして二人は隣にある家に帰り、いつものような生活を送ったのだった。


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