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65 感謝の気持ち


 その後も少しずつ会話は弾んでいき、部屋にはいい感じの空気が流れていた。


「あ、そういえば、薬局で色々買ってきたんですけど、何か食べますか?」


 その会話の途中で花音(かのん)が思い出したように買い物袋を漁りだし、中から様々な食べ物などを取り出した。プリン、ゼリー、洋菓子などなど。とりあえず何かを食べることが大事だからと、様々な物を買ってみた。それを食べることが大好きな佳奈美(かなみ)に見せびらかすと、すごく嬉しそうに笑ってくれた。


「え!?いいんですか!?」

「もちろんです。佳奈美ちゃんには早く元気になってほしいですから」

「ありがとうございますっ!!」


 たくさんの食べ物を見た佳奈美は文字通り目を輝かせ、何を食べるか考え始めた。


「どれにしようかなぁ…あ、プリンある!!いや、こっちのゼリーも…」


 その姿はまるで子供のようで、それを側で見ていた(しゅう)の心には愛着のようなものが湧いていた。


(可愛いな…)


 いつも感じている可愛さとはまた少し違う可愛さに直面し、柊の心は今までよりも佳奈美のことでいっぱいになる。でも流石に病人に対してそんな気持ちを抱くのは気が引けるので、頭を振って気持ちを切り替える。


(いや、そんなことよりも看病しねぇと…!!佳奈美さんは今も苦しんでるんだぞ…!!)



 男にはわからない苦しみだかこそ、出来るだけ理解する努力をしたい。それは前世からの取り組みでもあるので、今世でもしっかりとやっていこう。


「よし、じゃあプリンいただきます!」

「あ、スプーンこれね」

「ありがとうっ」

「もし良かったら温かい飲み物でも淹れてこようか?一応ココア買ってきたんだけど」

「え、いいの!?」

「もちろん。そのために買ってきたんだからな」

「じゃあお願い!!」

「わかった」


 よし、これで何とか佳奈美の役に立てそうだ。もしかしたら花音に全部持っていかれるんじゃないかって気が気じゃなかったぞ…。でもちゃんと佳奈美が喜んでくれそうなことを出来るので、柊は内心張り切って一階に降りていった。


 そしてリビングにお邪魔し、佳奈美の母の(かえで)と対峙した。


「あれ、どうしたの?」


 楓は頭の上に疑問符を浮かべながこちらに質問をしてくる。それに対し柊は冷静に自分の手にある物を見せつけて説明をする。


「佳奈美がココアを飲みたいらしくて。申し訳ないんですけど、少しだけキッチンを借りてもいいですか?」

「そうなんだ。そういうことなら遠慮せず使ってくれていいよ」

「ありがとうございます」


 楓の了承も得たことだし、早速お湯を沸かし__


「………」

「…あの、どうかしましたか…?」

「ううん、何もないよ?」

「そうですか…?」


 いや、そんなに近くで見られると緊張するんですけど。


 楓はなぜか間近でこちらのことを見つめていて、少しだけ圧のようなものを感じさせられた。いくら話したことがあるといえど楓は友達の母なのでとても緊張し、柊は胸の中で心臓をバクバクさせていた。


(いや何!?なんでそんなに見てくんの!?流石に気まずすぎるんですけど!?)


 そんな風な文句を胸の内で考えていると、とうとう楓が口を開いてきた。


「柊くん…ありがとね」

「え…?何がですか…?」

「佳奈美と…お友達になってくれて」

「はあ…」


 一体何を感謝されているのかわからず、頭は疑問符で詰め尽くされていた。でも楓はそれを察してくれ、こちらにも分かるように説明を始めた。


「あの子、昔から本当に男の人が嫌いでね。幼稚園とかでも、話しかけられるたびに嫌な顔してたんだ。だからもしかしたら何か理由があって男性不信になってるんじゃないかと思っていたの。でもね、それは君が現れてから変わったの」


 楓は少し虚な表情のまま話を続ける。


「高校生になってから、佳奈美の表情は明らかに変わった。よく笑うようになったし、よく照れるようにもなった。これは多分、君のおかげでなんだ。佳奈美は君のことを話す時はすごく嬉しそうで、そしてどこか恥ずかしそうに__って、これ以上はやめておこっか」

「え?」

「まあとにかく、佳奈美は君のおかげで変われたの。だから親としては、感謝しかないんだ。だから、ありがとう」


 意外だった。まさか自分が佳奈美にそこまで影響を与えることができていたなんて。この気持ちをどう表していいかわからないが、とにかく嬉しい気がする。自分がきっかけで人生をいい方向に変えてくれたのなら、それは恋愛感情抜きにしても普通に嬉しい。


 だって佳奈美にとって、こちらは永遠に忘れることができない人として刻まれている…はずだから。好きな人に忘れられないなんて、考えただけで胸が昂る。


 いやでも、楓がそういうつもりで言ったわけじゃないことはわかっている。これは単純に娘をいい方向に導いてくれたから感謝しているみたいな感じだろう。だからこちらとしても、慢心せずに佳奈美に沢山の物を貰っていることを教えてあげる。


「いえ。どちらかといえば、俺の方が佳奈美さんに沢山助けてもらっているので。だから、ありがとうございます」

「ふふ、やっぱり君は優しいね」

「そんなことありませんよ。それを言うなら、お宅の佳奈美さんの方が__」


 二人は笑みを交わしながら佳奈美について語り合った。その中で佳奈美への気持ちがバレないか不安になったりもしたが、どうやら楓は鈍感なようなので大丈夫だった。でも当然柊も鈍感であるため、割と危ない発言をしていることには気付かなかった。


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