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62 会長として


 状況は三対一。相手は大柄な運動部の男三人。対してこちらは帰宅部の一般人で、さらに後ろにはか弱い姉がいる。


 そんな圧倒的不利な状況でも(しゅう)は怯まず前に立っていて、男たちに対抗しようとしていた。でも結局その必要はなかった。なぜなら、学内で一番権力のある生徒がここに駆けつけてきたから。


「あなたたち、何をしているの!?」


 声を荒げながらこちらに向かってきているのは、生徒会長でもあり、姉の花音(かのん)の友人である麗沙(れいさ)だった。

 彼女は男たちを静止するように大声を上げ、柊の隣に立った。


「二人とも大丈夫!?」

「ええ、なんとか」

「あの、えっと…」


 麗沙は焦ったように心配の言葉をかけてくれて、柊は平然とした表情で大丈夫であることを伝えた。でもそれとは対照的に、花音は未だ不安そうな表情をしていて、それを見た麗沙の怒りは増していった。


「ふ〜ん…どうやら花音のことをいじめていたみたいですね」

「いやいや、いじめてたわけじゃないって」

「ただちょっとだけ話さない?って言ってただけだ」

「俺らわ悪くない」


 やはり彼らは他責思考で、この状況でも言い逃れしようとしている。でもそんなことを麗沙が許すはずがなくて、彼女は目力を強くして男に語りかけた。


「まあ何とでも言ってください。いずれにしろ必ず処罰は受けていただくので」

「処罰?俺ら罰を受けるほどのことはしてないけど?」

「はぁ…どうやらわかっていないようですね」

「はぁ?何がだ?」


 麗沙が呆れたようにため息を吐くと、男たちは頭に疑問符を浮かべ始めた。


「ここの生徒と少し話していただけで処罰?生徒会長サン、それはやりすぎじゃありませんかぁ?」

「ははw確かに」

「その通りだな」


 男たちは麗沙を挑発するように笑みを浮かべる。でも麗沙は依然として冷静であって、彼らにゴミを見るような目を向けながら説明をし始めた。


「あなたたちの言う通り、今回の件だけで処罰するのは難しいでしょう。よくて注意程度でしょうか」

「な?無理だろ?」

「でもあなた達には前科がありますよね?既に数名の生徒から相談を受けています」

「はぁ?」


 麗沙の言葉を聞いて焦ったのか、男たちは声を荒げていく。


「そんなのいくらでも嘘がつけるだろ?証拠があるわけでもないし」

「ふふ、そうですね」


 なぜか麗沙は余裕そうに笑っていて、この場にいる全員が?を浮かべる。


「何がおかしいんだ?」

「いえ…ただ、無知とは恐ろしいものだなと思っただけです」

「はぁ…いい加減ハッキリ言ったらどう?」


 そこで男の一人が痺れを切らし、麗沙に何が言いたいのかと問うた。すると麗沙は得意そうな表情になり、何なら不敵な笑みまで浮かべ始めた。


「…そうですね。では、皆さんに最近導入されたモノについて話して差し上げましょうか」

「「「最近導入された…」」」

「「モノ…??」」


 この場にいる全員が何を言っているのか理解できていなかったが、麗沙は話をやめない。


「実は最近、我が校でもカメラを設置するようになったんですよね」

「カメラ…?」

「はい。あ、あそこにもありますよ」


 そう言いながら麗沙は校門の上の方を指差し、全員の視線をそちらに集めた。するとそこには麗沙の言った通りカメラがあって、一同は驚いて目を見開いた。


「んだよあれ!?聞いてねぇぞ!?」

「一応二ヶ月前に全校生徒の前で発言はしましたが、やはり聞いていなかったんですね」

「全然気づかなかった…」


 カメラは絶妙に見えづらいところに配置されていて、大きさもそこそこ小型であった。なのでその話とやらを聞いていなければ普通に気づかないので、その男たちは一気に焦りを見せ始めた。


「ま、まさか…っ!全部カメラで…!?」

「ご明察。あなたたちがクラスメイトを殴ったり蹴ったりしている姿も、こっそり財布からお札を盗んでいるところもバッチリ映っています」

「な!?」

「おま、ふざけんな!!」


 ここにきて犯行の全てに証拠があると言われて男たちは焦りを見せ始め、一気に声を荒げ始めた。でもそれでも隣にいる麗沙は堂々としていて、芯のある言葉を彼らは授けた。


「ふざけているのはどちらでしょうか?これらの犯行の全ては、学外なら犯罪ですよ?それをいいことにバレないだろうと悪行の限りを尽くしたあなたたちの方がよっぽどふざけていると私は思いますけど」


 大男を相手にしても怯まない強い女性。こんな人間は中々いないし、その人が生徒会長ならこれ以上頼もしい事はない。

 そんなことを考えながら柊は麗沙に最大限の敬意を表しつつ、警戒心を高める。なぜなら、素晴らしい生徒会長に対して鬼のような目を向けてきているから。


(最悪、俺が前に出て何とかするしかないか…)


 そうしたとしてもどうにかできるという自信はないが、それでもこれは自分からの麗沙への最大限の敬意でもあり、花音を守ろうとしてくれたことに対する感謝でもある。


 最悪の場合、差し違える覚悟で立ち向かってみせる。


「…わかった。降参だ。罰を受けるよ」

「え?」


 でも思いの外こちらの拳の出番はなく、彼らはアッサリと諦めたようだった。流石に拍子抜けだが、まあ何事も起きなかったのならそれでいい。

 麗沙もハッと息を吐いていつもの表情に戻り、少し歩きながら彼らに言葉をかける。


「では、三人は私についてきてくだ__」


 その時、男たちの拳が麗沙の背中に向かって動き始めた。でも特に問題はない。なぜなら、そうなることは予想済みだったから。


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