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60 なんでこうなった?


「で、香賀(かが)さんと付き合ってないってマジ?」


 先生のおかげでなんとかホームルームは乗り切ったのだが、それが終われば話は変わってくる。現に今クラスメイト大勢がこちらにやってきて興味津々な目を向けてきていて、(しゅう)はそっけなく言葉を返した。


「…まあな」

「マジかよ!!」

「ウソ!!??」

「信じられない…」


 お付き合いしているのかの質問にこちらが正式に否定的な言葉を出すとクラスメイトたちは驚いて目を見開き、それぞれの反応を示した。


「なら俺にもワンチャンあるか…!!??」

「ねぇだろ」

「ウソ〜。香賀さんと恋バナしたかったのに〜」

「もしかして香賀さんって神庭(かんば)くんじゃなくて私のことが好きなのかな!?」

「それはないでしょ〜」

「だよねぇ」


 柊は何も話していないのに、彼らは勝手に会話に花を咲かせていく。


「だって香賀さんって多分…ねぇ」

「多分っていうか、ほぼ確定だと思うけどね」

「だよね〜。目を見てればわかるよね」

「あれは乙女の目だった」

「わかる」


 特に女子は嬉しそうに会話をしていて、柊は違和感を抱いた。その違和感の正体はあまりわからないが、なんとなく嬉しい気がする。

 でもそれを今表に出すわけにはいかない。なぜなら、話の中心人物である佳奈美(かなみ)は今熱で寝込んでいるからだ。彼女が苦しい思いをしているのに、自分だけ嬉しい思いをするなんてダメだ。その感情は友達に向けるようなものではなく、恋人や家族に向けるような想いであって。


(コイツらのことよりも、とりあえず佳奈美さんのことを考えねぇと。一旦放課後に薬局にでも寄って食べるものとか飲むものを買って、それから家にいかないとな。この辺に薬局あったっけな…)


 柊と佳奈美の関係について様々な憶測が飛び交っていることを全く気にかけず、佳奈美の容体についての不安を高めていく。


(佳奈美さん、無事だといいけどな…。もし何かの新しい病気とかだったら…?いやいや、そんなわけないだろ。流石に考えすぎだ)


 柊の不安は大きくなっていくばかりで、気づけば胸の鼓動が大きくなる。でもそれを知らないクラスメイトたちは、恋愛話に花を咲かせながらこちらに質問を投げてくる。


「つまり、神庭くんは香賀さんのことが好きってこと!?」

「……ん??」

「あれ、聞こえなかった?」

「神庭くんは!佳奈美さんのことが好きなの!?」

「いや聞こえてるけど…え…?」


 いや少し聞かない間にとんでもない話になってるな。ここ、普通に教室だぞ?修学旅行で同じ部屋で同姓同士で恋バナするのとは話が違うんだぞ?

 そんなことを言いたくなってきたのだが、この人たちからすればそんなことはどうでもいいようで。


「どうなの!?」

「私も知りたい!!」

「俺にも教えてくれ!!」

「神庭…!!」


 クラスメイトの期待の視線が迫る。いやこの目は、狂気に満ちている。

 柊からはそのように見えていて、敵に囲まれて絶望するような感覚に襲われる。


「あ、えと…それは…」


 自然と目が逸れる。でもその先にも期待の眼差しを向けてきている人がいて、もう逃げ道は無くなった。でも正直に言えばそれが噂となって本人の耳に入る可能性があるため、あまり直接的には答えないことにした。


「友達として…好きだぞ…?」

「そうじゃなくて、異性としてどうなの!?」

「それは…わからない」

「えぇ!?」

「嘘〜!!」

「勿体ぶるなよ〜」


 抽象的な回答をすると当然不満の声が聞こえてきたが、それでもこの気持ちを露呈させるわけにはいかない。なので柊はここでもしっかりと誤魔化し通す。


「いやマジなんだって…俺のこの気持ちが友達としてのものなのか、異性としてなのか全然見当がつかないんだ。なんせ恋愛なんてしたことないからな」


 言っていることは事実。今世では恋愛など経験したことがない。まあ、その原因は前世の恋愛にあるんだけど。でも本当に嘘は言っていないため、何を言われても堂々と胸を張る。


「嘘〜!?」

「元カノとかいないの!?」

「彼女なんていたことない」

「マジかよ!?」

「そうなんだ…」


 なぜか意外そうな反応をされたが、こちらからすればそれはどうでも良い。それより今はさっさとこの場から消えてしまいたいので、ダルそうに声を漏らしながら立ち上がった。


「もういいだろ?俺、トイレ行きたいんだけど」

「あ、そう?」

「まあ、神庭くんの気持ちはわかったからいっか」

「解散だ解散〜」


 ようやくクラスメイトから解放され、教室を出てから柊は思い切り胸を撫で下ろした。


(危ねぇぇぇ!!!マジで死ぬかと思った!!!)


 下手をすればクラス中に自分の恋心が露呈すると考えると心臓が止まりそうになる。でももう大丈夫。何とか問題は解決したので、一度深呼吸をして心を落ち着ける。


(とりあえず、クラスメイトに聞かれたらさっきの感じでいこう。多分なんとかなるだろ)


 いつまで騙せ通せるかは謎だが、それでも佳奈美に気持ちを伝えるまでは頑張るつもりだ。


 それにしても、最初は誰が佳奈美の見舞いに行くかよ話だったのに、いつの間にこんなことになっていたんだ。まあ結局柊が行くことになっているから問題はないんだけど、今回みたいにまた何気ないことからこちらの気持ちについて深掘られるとかなり困る。


 でもそんなことよりも、今は佳奈美のことについて頭を巡らせるのだった。


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