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6 姉弟


「ふぅ〜、やっと終わったな〜」

「明日から授業か〜、だるいなぁ」

「ねえねえ、この後駅前に新しくできたカフェ行かない?」

「え!いいねそれ!!いこいこ!!」


入学式は無事終了して今日の高校の日程は終了し、クラスメイトたちは帰る支度をしながら様々な会話を繰り広げていて、教室内は今日一番の盛り上がりを見せていた。


新たな友達と遊ぶ約束をする人物もいれば、親と一緒に今晩の外食について話す人もいて、それぞれが多種多様な未来について話し合っていた。


だがしかしこのクラスの中で唯一、いや二人だけはそのようなことはしておらず、彼らはなんとも言えない緊張感を走らせながら会話を始めた。


「ねぇ、さっきの話なんだけど」

「さっきの話?」

「そう、私たちが会ったことあるかって話」

「あ〜…」


彼女は冷静な表情でそう訊いてくるが、その瞳の奥からは期待の輝きが垣間見えていて。


(しゅう)はその期待を裏切ってしまうことに若干の後ろめたさを感じてしまうが、それでも躊躇わずに彼女の言葉を否定しにかかった。


「俺たち、多分初対面だと思う。さっき色々思い出してみたんだけど、君みたいな人は会ったことがなかったと思う」

「…そっか」


柊が否定の言葉を口にすると彼女は悲しそうに視線を下に向けたが、直後に可愛らしい笑みを作ってこちらに謝罪を伝えてくる。


「ごめんねっ。変なこと訊いて」

「いや、こちらこそ期待に応えられなくてごめん」

「謝らないでっ。急に変なこと言い出したら私が悪いんだから。私、君とは仲良くなりたいから、もうこういうのはなしにしよ?」


彼女は悲しさを瞳の奥に隠してこちらに仲良くなりたいという意思を表明して来て、柊はもちろんこの話にのることにした。


「そうだな。俺はまだ全然仲良い人いないから、仲良くしてくれると嬉しい」

「うんっ。あ、そういえば私自己紹介してなかったね。私の名前は香賀佳奈美(かがかなみ)。入学式の時に聞いたと思うけど、一応今年の新入生代表だったから勉強は得意だよっ」


佳奈美という少女は胸に手を当てて自分のことについて話し始め、それに柊も反応を示す。


「スゲェな。新入生代表ってことは、今年の一年生の中で一番頭がいいってことだろ?」

「まあそうなるね。でも私は今よりも上を目指してるから、努力を怠るつもりはないよっ」


そうやって平然と努力をしようとする佳奈美の眩しさに目をやられそうになるが、なんとかそれに耐えないで言葉を紡いだ。


「じゃあわからない問題があれば好きなだけカンニングが出来るってわけか。隣だし」

「もう、そんなことしちゃダメだよ?カンニングなんてしたら先生に怒られちゃうよ?」

「まあ、バレなきゃいいかなって」

「そういう問題じゃないでしょっ。カンニングなんてしないで普通に私に訊いてくれたらいくらでも教えてあげるから、わざわざそんなことしなくていいよ」


佳奈美は若干呆れたような視線を向けてくるが、柊からすればこれで高校生活でテストに悩まされることは無くなったためかなりの幸せを感じていた。


「じゃあそうさせてもらうよ。これで絶対に赤点はなくなったから一安心だよ」

「赤点って…別に君もそんなに頭悪くないでしょ?」

「いやいや、マジでワンチャン赤点取れるぐらいだって」

「そ、そうなの…?」

「ああ。だからもしかしたら授業中とかテスト期間とかに世話になるかもしれないけど、もしそれでもいいならよろしく頼む」


少し、いやかなり虫が良すぎる提案だと思うが、佳奈美は思いの外快く承諾してくれる。


「うんっ。一緒に勉強がんばろっ」


そうやって返事をしてくれる佳奈美の表情はやはり眩しくて、柊はそれに目をやられないようにこちらの自己紹介を始めた。


「ありがとう。んで、自己紹介に戻るか。俺の名前は神庭柊(かんばしゅう)って言います。勉強にはあんまり興味はないけど、割と身体を動かすのは好きだな」

「へ〜、スポーツ系なんだ」

「まあ趣味でやってるだけだけどな」

「それでもすごいよ。普段から運動だなんて、意識高いね」


どうやら佳奈美は普段から運動をするわけではないらしいため、こちらの趣味は素晴らしいものと考えているようで。


でもこちらから見れば普段から勉強をしている佳奈美の方がすごいと思うので、二人は互いに尊敬の念を持って接するようになった。


「別にそんなんじゃないけどな。ただ暇だからやってるだけだし。それよりも香賀さんって、もしかして生徒会に入るっていう話になってる?」


そろそろ褒められすぎて気恥ずかしくなって来たので露骨に話を変えて、佳奈美に生徒会についての質問をした。


すると佳奈美は頭の上に疑問符を浮かべながら首を縦に振り、それをみた柊はさらに質問をした。


「もしかして、もう何人か生徒会の人と会ったりした?」

「うん。今朝学校に着いたらすぐに生徒会室に行って入学式の打ち合わせをしてたから、一応生徒会の人は全員知ってるよっ。それがどうしたの?」


佳奈美がそう言った瞬間柊は思い切り気持ちを落胆させて行き、顔に手をついて小さく言葉を吐いた。


「マジかぁ…もう知り合ってるのか…」

「どういうこと?何かマズかった?」

「うん、まぁその…生徒会に俺と同じ苗字の人がいなかった?神庭花音(かのん)って名前の」

「え、うん…。花音さんには結構良くしてもらっているけれど…」


佳奈美はいまだに何を訊きたいのかがわからない様子だったが、二人の苗字と花音が話していた弟の話を思い出してすぐに二人の関係に気付いた。


「え!?もしかして二人って…」


佳奈美が真相に辿り着いた瞬間、柊は小さく頷いて答え合わせをするつもりだったのだが、そこでなぜか隣に人がやってきてその人物に肩に手を置かれてこちらの言葉を遮られる。


「はい!私たち、姉弟なんです!」

「…」


噂を聞きつけたのかたまたまこの場に現れたのか、柊の実の姉である花音は気まぐれな風のように颯爽と現れ、困惑している佳奈美に対してニコニコと笑みを向けている。


「ふふ、驚きましたか?私が話していた弟がこんなに近くにいて」

「は、はい…。すごく驚きました…」


佳奈美は困惑を全面に表していて、今も目を見開きながら柊と花音の顔を行ったり来たりしている。


そんな佳奈美の姿を見ると彼女が何を考えているのかは一目瞭然なわけで、花音はそれに対してしっかりと反応を示した。


「やはり、私たち似てませんか?」

「あ、えっとその…」

「ふふふ、よく言われるので大丈夫ですよ」

「えと…はい。正直驚きました」


佳奈美は似ていないと言うことが失礼に当たる可能性を考慮して喋らなかったが、花音の許可を得たことで申し訳なさそうにしながらも本音を語った。


すると花音はどことなく嬉しそうに笑い、そして隣にいた柊も小さく笑みを浮かべて。


「まあ驚きもするよな。俺らマジで似てないから」

「私はお母さん似で柊はお父さん似なんです。だから二人とも顔とか全然似てなくて、昔からよく義理の姉弟なのかと訊かれてましたね」


花音は柊との相違点を話した後、ここぞとばかりに姉弟の関係をアピールしようとお互いの共通点について話し始める。


「でも私たち、似ているところもたくさんあるんですよ?例えば、好奇心旺盛で純粋無垢なところとか!」

「…」

「あと、姉弟想いで優しいところとか!」

「…」

「他にも色々ありますけど、やっぱり一番は…運命の赤い糸で結ばれているところですかね!」

「よし一回黙ろうか」


花音は嬉しそうに笑いながら姉弟の共通点について話しているが、こちらからすれば全てを晒されているみたいですごく気恥ずかしいんです。


なので柊は花音にもう黙るように要請するのですが、彼女はその程度で黙ってくれる人間ではないようで。


「照れちゃってて可愛いですね♡今日はお家に帰ったらたくさんヨシヨシしてあげますから今は我慢してくださいね〜♡」

「お願い、黙ってください」

「え〜♪じゃあ見返りに何をしてくれるんですか?♪」

「そうだな…」


ここで選択を間違えれば今後ずっと佳奈美からシスコンという視線を向けられてしまうことになる。


だからといって適当な返答をすれば花音がさらにおかしな方向に持っていってしまう可能性が高いため、ここでは一つの間違いも許されない。


(この答えに俺の高校生活がかかってる…ッ!!絶対に成功させてやる!!)


花音をある程度納得させつつ、佳奈美から絶対に引かれない程度の解答。


柊はそれについて数秒ほど考え、ようやく導き出した答えは…


「今晩肩を揉んであげるよ。姉さん最近疲れてるみたいだし」

「ふーん…肩ですか…」


花音は一瞬拳に顎を乗せて何かを考え、直後にニコニコと笑いながら口を開いて来た。


「全身…がいいです」

「…」

「どうしますか?それが無理なら私は佳奈美ちゃんとまだまだ姉弟トークをするつもりですけど」

「…わかったよ…」


こちらは弱みを握られているため、首を縦に振る以外の選択肢はなかった。


そのため柊は苦々しい顔をしながらも花音の言葉を承諾し、今晩の地獄行きが確定した。


「ふふ♡楽しみですっ♡」

「あはは…二人は仲がいいんですね…」


で、無事に佳奈美からはドン引きの目を向けられたとさ。


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