59 待て
「それでは出欠をとります。會澤さん」
「はい」
「赤崎さん」
「はい」
「有原さん」
「はい」
いつものように出欠の確認が始まり、各々が名前を呼ばれてから返事をし始めた。
「神庭さん」
「はい」
そして柊もなを呼ばれてから返事をして出席していることを示したのだが、そこでやはり隣の席に目が行ってしまう。
(佳奈美さんがいないとなんか楽しくないな…)
柊には相変わらず佳奈美以外の友達がいないので、佳奈美がいないとクラスで話す人物は全然いない。なので今日の学校は退屈になることが予想され、ついため息が出てしまう。
(やっぱ、心配だな…)
いくら親に大丈夫と言われても好きな人がしんどい思いをしている可能性があるのはとても不安で、かなり落ち着かない調子だった。
そんな時、いよいよ佳奈美の名前が先生に呼ばれて。
「香賀さん…は今日はお休みですね」
「え!!??」
「嘘だろ!!??」
「何があったの!?」
その瞬間にクラス中がザワザワし始めた。それも無理はない。だってクラスのマドンナが学校を休んだのだから。目の保養にしていた男子からすればそれは地獄の一日の始まりを意味していて、佳奈美と友達になろうとしていた女子からすれば心配しかない。
つまり、佳奈美という存在がいないというだけでクラスは暗いムードになるわけだ。
「先生!香賀さんに何があったの!?」
「風邪でも引いたんですか!?」
「もう終わりだ…」
「退学しようかな…」
絶望で頭を抱える人や、先生に今の状況を聞こうとする人。その全てが暗い表情をしている。
そしてそれは柊も同じで、彼も先生の説明を待ち侘びていた。
「はいはい、みんな落ち着いてください。香賀さんは無事ですから。ただ少し熱が出たので念のためお休みするとのことですので心配する必要はないと思いますよ」
「そうなの!?」
「熱かぁ…」
「お見舞い行ってあげたいな〜」
「でもあなた香賀さんの家知らないでしょ?」
「そうなんだよね〜…。でも私たちは待ってるよってことを直接伝えてあげたいんだよね〜」
「「「「「わかる」」」」」
そうだなぁ。確かに佳奈美にはそういう言葉をかけてあげたいな。
(まあ、俺が放課後に伝えておくか)
どうせ佳奈美の家に行くんだし、代表して伝えておいてあげよう。とそんなことを考えたある間に、こちらにクラスメイトの視線が集まっていた。
「ん…?えっと…?どうかした…?」
「やっぱり神庭くんしかいないよね」
「だね。香賀さんと一番仲良いし」
「…何が…?」
みんな合意したように目を合わせてからこちらに目を向けてくるのだが、それは何を期待されている目なのかわからない。なのでそれを訊き返したのだが、そこで男子生徒が少し大きめに声をかけてきた。
「お見舞いに行く人だよ。クラスの中なら神庭しかいないだろ!」
「…まあ、そうなのか…?」
本人も友達は柊しかいないと言っていたので、必然とそうなるのか?
いやでも普通は女子に行かせるもんだろ。例え友達でも。
「だって二人は付き合ってんだろ?」
「はぁぁぁぁぁ!!!???」
待て待て待て待て待て待て待て待て。
(は????付き合ってる?俺と佳奈美さんが???)
あまりに突然過ぎる出来事に脳が追いつかず、目を見開いたままその言葉を放ったクラスメイトに説明を求めた。
「いやいやいや、付き合ってるってどういうことだ???」
「毎日一緒に登下校してるしクラスでは毎回二人で会話してるだろ?それに二人ともなんか恋人みたいなオーラ醸し出してるし」
「はぁぁぁぁ!!!???」
一旦待って欲しい。恋人みたいなオーラってなんだよ!!??そんなオーラを放った覚えはねぇ!!!
「二人ともお互いのことを好きっていう気持ちがこっちまで伝わってくるよね〜」
そこで一人の女子が入ってきて、柊の困惑はさらに加速した。
「いやいやいや、俺らそもそも付き合ってないし」
「「「「「「え!!!????」」」」」」
「えっ__」
あれ、なんかクラス中が沸いたぞ。これ、もしかして全員に誤解されてたヤツか?もしそうなら耐え切れる自信がないんだが…。
「二人は付き合ってないの!!??」
「それはもちろん…」
「えぇ!!??あんなにお互い好き好きオーラ発しておいて!!??」
「そんなオーラを発した覚えはないんだが…まあ、付き合ってないよ」
「「「「「「嘘でしょぉぉぉ!!??」」」」」」
もうわかった。これもう佳奈美への気持ちバレバレだわ。これだけクラスメイトに反応をされると流石に鈍感でも気がつき、心は羞恥で埋め尽くされる。
(はぁ…死にたい…)
下を向き、頭を抱える。そして完全にやらかしたという絶望が頭をよぎる。
だがその時、何かを察したように先生が会話に入ってくれてなんとか場は収まる。
「はいはい、みんなやめなさい。神庭くんが困ってますよ?」
「で、でもぉ…」
「でもじゃありません。出欠確認を進めるので皆さん前を向いてください」
「「「「「「はーい…」」」」」」
クラス中が期待の目を落胆に変え、先生の指示に従って前を向いた。
これにで一件落着、な訳がない。
(はぁ…どうすりゃいいんだ…)
もうどうしようもない現実がそこにはあった。




