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57 好きなところ


「あの、気になったんですけど、(しゅう)佳奈美(かなみ)ちゃんのどこが好きなんですか?」


 ある休日の昼間、部屋でゴロゴロしていると突然姉の花音(かのん)が突入してきてそのように質問をしてきた。それに対し、柊は困惑を示しながら言葉を返す。


「なんだよ突然…別にそんなの知っても意味ないだろ」


 少し呆れ気味にそう返すと、花音は首を横に張った。


「いえ、そんなことはありません」

「?じゃあなんの意味があるんだ?」

「柊のタイプを知りたいんです」

「…??」


 そんなの知ってどうすんだ?普通の姉弟ならそんなの全く気にならないモノだろ。いや、そういう常識はこの姉に通じるわけないか。どうせこちらのタイプを知ってそれに合わせてくるだろうから__。


「柊の好きな女性を知って私もそれに近づきたいんです…!」


 ほらね。そんなことだろうと思った。


 花音は昔からどうにもブラコンすぎるところがあって、さらにここ最近柊に好きな人ができたと知ってからはかなり酷くなっている。なので柊は面倒臭くなって答えないようにしようと考えたのだが、それを察した花音が拗ねたように頬を膨らませながらポツリと言葉を漏らした。


「(教えてくれないと佳奈美ちゃんに柊の気持ちを教えちゃいます)」

「ん!!??ちょっと待て!!??なんか今聞き捨てならない言葉が聞こえてきたぞ!!??」

「あら?気のせいじゃないですか?」

「……!」


 やはりと言うべきか、この姉には敵わない。それは今までの経験でよくわかっていたことで、今回もその事実をすんなりと受け入れることになってしまう。


「はぁ…で?何を知りたいんだ?」

「あら、急に素直になりましたね♪」

「…」


 もういいよ。言い返しても仕方ない。

 柊は完全に心で花音にジト目を向けるが花音はそれに全く気づいてなくて、そのまま質問をし始めた。


「ふふ、それじゃあ早速質問をさせていただきます。柊は佳奈美ちゃんのどこが好きなんですか?あ、全部は禁止です。具体的にここが好きだというものを言ってください」

「ん〜…そうだなぁ…」


 どうせ嘘はバレるので真剣に答えるつもりなのだが、ハッキリ言って佳奈美の全てが好きだ。綺麗な目や美しい肌、そして優しくてたまに暴走してしまうところ。その全てが好きで、一つに絞るのはかなり難しい。でも一つだけ、これをされると反射的に彼女に(好きだ)という気持ちを抱く瞬間がある。それは…


「…笑ってる顔、かな…?」

「なるほど。もう少し具体的に言うと?」

「言葉にするのは難しいんだが…佳奈美さんは色んな笑顔をするだろ?ニコニコ笑ったり、嬉しそうにはにかんだり」

「そうですね」


 柊は心でずっと抱いていた感情を話す。ずっとというのは、前世からの話だ。


「俺は、多分そういう自分の感情を全部表情にして表してくれるのが好きなんだ。特に笑顔はな」


 これは嘘偽りない柊の本音で、彼の目は自分の決意のようなものを語るように真っ直ぐになっていて。それを見た花音は柊の本気度を察知し、特に言い返したりもせずにすんなりと受け入れた。


「なるほど…。確かに、佳奈美ちゃんの笑顔はとても可愛らしいですよね」

「ああ…」

「(次会った時笑顔のコツを訊きましょうか…)」


 うーん、やっぱりこっちのタイプに合わせようとしてきてるな…。まあ仮に花音が佳奈美のように笑ったとしても別に恋愛感情が湧いてくるわけがないんだが。だって姉弟だし。でもまあ、勝手にやらせておけばいいか。これで話が終わるなら__


「他にはないんですか?」

「えぇ…もういいだろ?」

「ダメです。まだ一つしか訊けていません」

「マジかよ…」


 いくら姉とはいえ好きな人の好きなところについて話すのは恥ずかしいんだが。いやでも花音に限ってそんなに気にするわけないか。もう諦めて最後まで付き合ってやろう。

 という感じで柊は完全に抵抗を諦め、花音の言葉に応えることにした。


「まあ…あとは元気なところとかかな?毎日テンション高いとこっちも楽しくなるからな」

「確かに佳奈美ちゃんは毎日元気いっぱいですね」

「でもたまにそれが暴走してやらかして顔を真っ赤にしたりしてるのが可愛いとは感じるな」

「わかります」


 あれ、なんか共感してる。これは、悪くない流れなのでは?このままならただの恋バナで終わらせれる…!


「(私ももっとテンションを上げないと…!あと恥じらいを持つことも忘れずに…!)」


 前言撤回。この人に限ってそんな甘い話があるわけなかったわ。


 花音は決意をしたように拳を握り一瞬だけど天を見た。そして直後に視線を戻してきて、さらに質問をしてくる。


「他はどうなんですか?」

「他は…単純にルックスかな?まあ佳奈美さんは誰がどう見ても綺麗な人だからそこを好きになるのは当然だからこれは別に特に説明する必要もないよな?」

「いえ、ちゃんと言ってください」

「あ、ハイ」


 あまり見た目で判断していると思われたくなくて具体的には言いたくなかったのだが、花音はしっかり興味津々だったので全てを答えることになってしまった。

 そして一時間が過ぎる頃には、花音は別人になりかけていた。


 あ、ちなみに柊の好きな人の話はまだ終わっていなかった。


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