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54 変化…?


 最近までただの女友達だと思っていた佳奈美(かなみ)への気持ちに気づいた次の日の朝、柊はいつも通り…いや、かなり眠そうに目を開けた。


「眩しい…」


 昨夜は佳奈美のことばかり考えてしまって、ほとんど眠ることができなかった。だから今の(しゅう)にとってカーテンの隙間から差し込んでくる朝はあまりに眩しくて、思わず反対を向いてまた眠ろうとしてしまう。


「……」

「きゃっ…♡」

「……」


 ん〜…まあ、二度寝するか。まだ時間的には余裕があるし、最悪朝ご飯抜けば良いし。とりあえず今は現実から目を逸らし、少しでも眠気を払って起きたい。

そう思っていたのに、目の前からは声が聞こえてきて。


「もう♡朝から大胆ですね♡まさか起きて早々胸を触るだなんて♡」

「…っ……」


 柊は一瞬で手を退けた。でも彼女はバッチリそれを目撃していて、こちらが寝たフリをしたのにもしっかりと反応してくる。


「あら、寝たフリをするんですか?♡ふーん、そうですか…♡」


 一体何をするつもりなんだ?と、前までならそう考えていただろうが、今は違う。彼女なら今まで半分冗談で言ってきていた「起きないとキスしますよ?♡」を本気でやってきそうなので、それを言われる前に目を開いた。


「…なんでいるんだよ」

「あら、おはようございます♡」

「おはよ…って、だからなんで当たり前のように俺のベッドに潜り込んでんだよ」

「それは…私が柊のお姉さんだからです♡」

「?????」


 相変わらず花音(かのん)は意味不明な言葉を並べていて、いつも通り理解に苦しむ。


「全然理由になってないんだが?」

「ふふ♡相変わらず柊は可愛いですね♡」

「人の話を聞け」


 こんな感じで柊にメロメロになっている時の花音はどうしようもないということは柊が一番理解しているため、彼女のことを無視して普通にベッドから降り__


「逃しませんよ?♡」

「……」


 ま、そうなるよな。

 普通に考えてこういう時の花音が簡単に逃してくれるわけがないので、わかってはいたのだが。でも、それでも…小さな望みに賭けたかった…!まあ、その希望は完全に散ってしまったんだが。

 そして花音はこちらのことをガッチリと腕でホールドしていて、至近距離で笑みを向けてくる。


「ふふふ♡柊の可愛いお顔がすぐ近くにあります♡」

「可愛いって…もうそんな歳じゃないぞ?」

「歳は関係ありません。大事なのは柊を愛する心です。それさえあれば、仮に柊がどんな怪物になろうと可愛く見えるはずですよっ」

「何言ってんだか…」


 なんで例えでこちらが怪物になる話を出してきたのかは聞かないでおいて。それよりも今はこの状況から脱却するために花音を説得しないと。とりあえず、抱きしめてみるか。


「……」

「!!!っ…なんだか今日は…本当に大胆ですねっ…」


 頭通りに余裕な表情をするのかと思えば、思いの外彼女は頬を赤く染め上げていて、恥ずかしそうに目線を彷徨わせていた。

 …なんか、ここまでくると逆に怖いな。だって、あの花音だぞ?毎日のようにハグやキスを求めてくるような意味不明な姉だぞ?そんな人間がハグされたぐらいで照れてるなんて、こちらからすれば恐怖すら感じるものだ。でも柊は恐れの感情を顔には出さないようにし、花音に少しだけ声をかけた。


「まだ、やるか?」

「えっ…!?あの…はい…。お願いします…っ」


 花音はこの程度のお誘いにも照れまくっていて、柊は少し不安にすら思い始めた。


(…本当にどうしたんだ?なんか明らかにいつもと様子が違うぞ…?)


 昨日までは、ただ弟への愛が爆発しただけの姉だったのに。今の花音は簡単に言えば恋する乙女のようで、大胆に攻められてかなり照れているようだった。

いや、先に仕掛けてきたのそっちだけどな。と言いたくもなるが、そういう理解し難いところが乙女っぽいのだ。


(まさか…昨日の今日で何が心境に変化が…?)


 昨日は本当にありがとうの花音は柊の恋心を知ってなぜか柊への愛を爆発させていたが、今日の花音はそれとは明らかに違う。だから花音が一人になった時、つまり昨晩自身の部屋で何かを考えていたのだろう。それの正体が何かは分からないが、明らかに何かあるのは事実。だから柊は珍しく花音のことを優しく受け入れ、先程よりも腕に力を入れて抱きしめた。


「〜〜〜!!!柊…なんだか今日は、男の子っぽいですね…」

「俺は産まれた時から男なんだが?」

「それはそうですけど…なんというか、大人の男の人見ないな感じがします…」

「そうか?別にそんなつもりはないんだけどな」


 まさか花音に大人認定される日が来るとは。今までずっと子供扱いされてきたから、なんか変な感じだ。でも全然居心地は悪くなくて、むしろ心が温かくなるような気すらした。


(なんか、いつもよりあったかい気がするな…)


 花音の体温や感触が直に伝わってきて、なんとも言えない心の安らぎを与えてくれている。

 ……ん?待て。なんかおかしいぞ。いくらなんでも普通ならあり得ないような感情が胸にある。直に伝わってくるというか、服を着ていないというか…。


「…あ」

「〜〜…」

「あ〜…」


 あの…服、佳奈美のこと考えてる時に暑くなって脱いでたわ。

 なので今柊は上半身裸で、花音の体温や感触がかなり鮮明に伝わってきていたというわけだ。それでまあ、花音が照れているのも多分これが原因だな。

 そうとわかればこちらとしても解決をするのは簡単なので、一旦脱いだ服に手を伸ば__


「だ、ダメです__っ!!」

「え?」


 花音から手を退けようとした瞬間にガッチリと掴まれてしまって、向こうから潤んだ瞳を向けられてしまう。


「今は…このままでいさせてください…。少しだけで良いですから…」

「ああ…わかったよ…少しだけな…」


 素っ裸の胸の中で、優しくて温かくて柔らかい姉を抱きしめた。


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