52 姉弟だよ??
「普通に良いことだと思いますけど…?」
ほんの少し前、花音が愛してやまない柊の恋心について話しをしていて、彼女はもう立ち上がれないぐらい落ち込んでいるのではと考えていた。でもその考えとは裏腹に花音は余裕そうな表情で、何なら柊の気持ちについて喜んでいる様子だった。
「私は柊が成長しているのを感じられてとても嬉しいですけど…おかしいですかね…?」
「え…?あ、いや…別におかしくはないけど…」
「なんか…意外だな」
この花音の反応には母の沙也加も驚いているようで、花音を抱きしめる手を緩めながら驚きの目を向けている。
「もっと意気消沈すると思っていたわ…」
「もう、私のことを何だと思っているんですか?私だってもう大人なんですから、弟の恋の一つや二つぐらい軽く受け入れますよ?」
…なんか、すごく意外だ。
確かに花音は心は割と大人な方だが、柊が関わってくると話は別だった。この前カフェの店員さんに友達の佳奈美を恋人と間違えられていただけでマジギレしてたし、その時私は柊と永遠に一緒に過ごす的なこと言ってたし。そういう前科が花音にはあるため、今こうして平常心でいるのはかなり意外だった。
なので柊はそれを言葉にしようと口を開こうとしたのだが、そこで何かを察したように沙也加が口を塞いでくる。
「!!??」
「そう…あなたも大人になったのね」
「はい。いつまでも柊に執着するわけにもいきませんからね」
「……」
(本当かな…)
正直、今までの花音の行動から弟離れできる可能性はゼロに等しい。それを一番理解している柊は花音に疑いの目を向け、そしてそれは一瞬にしてバレてしまう。
「あ、柊。今疑いましたね?」
「えっ__。ん…まあな…。今までの姉さんの行動を考えたら当然だろ?」
「確かに、それは言えていますね…」
お、今回は珍しく納得してくれた。今回ばかりは期待して良いのか?そんな思いが胸に広がる。
「なら、私はもう柊に執着しないと約束しますね」
「え、マジで?」
「はい」
なんか、アッサリすぎて逆に怖くなってくる。相手が花音にしては全てのことが上手くいき過ぎている気がする。何か裏があるのではないかと疑ってしまう。でもまあ、流石にそんなこと無いか!!
「今日から私は…柊に依存します!!!!」
「はぁ!!!????」
なんか、余計にタチが悪くなってないか!?
「いや何が違うんだよそれ!!結局俺にひっついてくるってことじゃないか!!!」
「それは当たり前です!!私が柊から離れるわけがありません!!!」
「当たり前じゃねぇだろ!!??」
ごめん。前言撤回させて。この人、全然弟離れできてないわ。それどころか弟に依存するとまで言ってきて、もう柊にゾッコンになってやがる。
(クソ…!!前からこんな感じだったけど…なんか前とは違う…!!)
口で説明するのは難しいが、何というか今まで制御を担当していたネジが全て破壊されたような感じだ。いやまあ制御のネジなんか前からほとんどなかったけど。それでも花音は姉弟としてのある程度の距離感は保っていて、例えばキスなどの恋人がするような行為は求めるだけで実際にはしなかった。
でも今の花音は目に♡があって、今すぐにでも押し倒されて無理やりキスをされそうな勢いだった。
「ふふ♡柊、これからもずっと一緒にいましょうね…♡」
「いや待て待て待て待て!!!なんか話し変わってるよな!?俺と姉さんの関係の話じゃなかったよな!!??」
「そんなの関係ありませんよ♡だって私と柊の愛より重要なことなんて存在しないんですから…♡」
「え…いや待て!!落ち着け!!話せばわかる!!ちょ__あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
柊の絶叫も虚しく、軽々しく押し倒されてしまう。そこで何とか抵抗を試みるも、なぜか花音の力に勝てない。まさに万事休すという状況で、柊は母に助けを求めた。
「母さん助けてくれ!!俺の味方だろ!!」
「私は別に姉弟での恋愛もいいと思うわよ?♡」
「それでも親かぁぁぁぁぁ!!!???」
義理の姉弟ならまだしも、二人は間違いなく血のつながった姉弟だ。なので親は二人の恋愛は止めるべきはずなのだが、なぜか沙也加はニコニコと嬉しそうに笑っていた。
これは、もしかして本当にマズイのでは…?そんな焦りが心の中で沸き上がってくる。
「ふふ♡柊…♡」
「まっっっってくれぇぇぇぇ!!!」
「……えと、何してんの…?」
「ナイスタイミング父さん!!今すぐに俺も助けうぉぉ!!??」
「逃しませんよ♡柊は私のものなんですから♡」
「誰でもいいから助けてくれぇぇぇぇ!!!!!」
二人の顔が近づく。そして、二人の唇が触れ…はしなかった。なんとかギリギリのタイミングで父が助けてくれたから。でも花音の目はずっと♡になっていて、柊の恐怖はいつまでも続いた。




