49 勇気の出し方
その日の夜、佳奈美はいつものようにベッドに入り、いつものように目を閉じた。そしてそのままいつものように眠りにつこうとしたのだが、その暗闇には柊の顔が映って眠れない。
(柊くん、今何してるのかな…)
柊は隣の家に住む友人だから、頑張れば手が届きそうな距離にはいる。でも佳奈美にとっての距離はそれよりも遥かに遠くて、窓の向こうにある夜景を眺めることしかできない。
(神様、私はどうすればいいんでしょうか?)
目を開いた佳奈美は、星々を目に輝かせながらそっと手を伸ばす。その手の先に映るのは、前世の運命の人だった。
(リオ…やっぱりあなたなの…?)
佳奈美の推測では、柊とリオは同一人物だ。つまり柊もこちらと同じように前世の記憶を持ったままこの世界にに転生してきているということ。もしそうであるのなら、きっとこちらの気持ちを許してくれるはずだ。だからこそ佳奈美は勇気を出して告白に踏み切りたいところなのだが、まだ百パーセントの確証が得られないから躊躇っている。
(もし違うなら…私はとんでもない裏切りをしていることになるよね…)
もしリオがこの世界に生まれ変わっていたら、彼はきっとこちらのことを探している。それはただの思い込みや推測ではなく、心が通じ合っているから分かるいわば確信のようなものだ。なので佳奈美はもし柊がリオではなくて、どこかにいるリオがこちらのことを探していたとしたら、と考えている。
(ううん…!そんなこと考えてたら前に進めないよね…!何事も勇気を出してチャレンジしないとって、君に教わったのにね…!!)
佳奈美はちゃんと冷静に物事を捉え、リスクばかりを考えないようにした。すると心の中にある「好き」という気持ちが急に湧き上がって来て、佳奈美の冷静さを簡単に奪っていった。
(私、ちゃんと柊くんに伝えないと…!「好きです」って…!じゃないと何も始まらないよね…!!)
前世だってそうだった。二人の運命が動き始めたのはリオが勇気を出して告白してくれたからだ。だから今度停滞しかけている運命を動かすのはこちらの使命だ。前世でもらったたくさんの恩を返すためにも。
(でも告白の時って何を言ったらいいんだろう…?単純にいきなり「好きです」って言う?それとも好きになった経緯とか話してから気持ちを伝える?あれ、どうするのが正解なんだろう…??)
佳奈美は告白された数は星のようにあるが、告白をしたことは一度もなかった。それは前世でも同じで、付き合う時も結婚する時も向こうから告白をしてくれた。だから告白をする時はどういう気持ちを抱いて、どうやって話をすればいいのかがわからない。
(ん〜…今こうやって考えると…リオってすごいんだね…)
告白をして来たリオは表情こそ強張っていて頬も赤くなっていたけど、立派な告白を二度もしてくれた。それはとても難易度の高いことで、普通にしているだけではできないということに気づいた今、彼の心の強さを心から尊敬した。
(あの時、リオは何を考えながら告白したんだろう…?)
きっと考えるだけ無駄だが、それでも少しだけ心の支えになるならと、リオの当時の頭の中について考えた。
(多分、あの時のリオも今の私と同じような気持ちだったよね…。相当なリスクを犯してでも好きな人と結ばれたいっていう、ちょっとしたギャンブルみたいなものかな…?)
ギャンブルといえば聞こえは悪いが、告白なんてどうせハイリスクハイリターンだから大した違いはないだろう。
(そんな賭けに挑戦するのって、やっぱり難しいね…。でもなんでかわからないけど、柊くんの顔を思い浮かべるとどうしても付き合いたいっていう気持ちが勝っちゃう…)
多分あの時のリオも同じで、好きな人のことを考えすぎてリスクなど頭から消えてしまっていたのだろう。だから勇気を振り絞って告白ができたわけで、その考えは今の佳奈美も同じでだった。
(多分、この気持ちに身を任せるのが正解なんだよね…?このままの勢いで言っちゃうのがいいんだよね…?)
好きという気持ちが溢れそうになった時に告白するのが最善なのではないかと思った佳奈美は今すぐにでもそれを実行しようか迷うが、流石にそれはやめておくことにした。だって今は夜遅いから。でも特に問題はない。
なぜなら、佳奈美の気持ちは常にあられる寸前だから。




