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48 好き


 その後、(しゅう)はデザートを貪り尽くし、数十分雑談をするとせっせと家に帰って行った。そして今家には佳奈美(かなみ)と母の(かえで)が二人でソファにもたれかかってゆっくりしていて、その時に楓が話をし始めた。


「まさか佳奈美が男の子を家に上げる日が来るなんてね」


 楓は佳奈美に微笑みかけつつそのように話を切り出した。そしてさらに彼女は昔の話をし始める。


「昔なんて本当に男の人が嫌いで嫌いで仕方なくて、お父さんのことも避けてたぐらいだったのに」

「う…そのことは忘れて…」


 佳奈美には前世の記憶があって、その状態でこの世界に産まれた。その時から佳奈美は前世の夫以外の男とはあり得ないと考えていたので、近くに住む男は愚か、まだあまり親しくない父に近づきすぎないようにしていたのは事実。

 それには当然母も気づいていたようで、当時は色々と話をしたり聞かされたりしていた。そうするうちに父への気持ちは変化して行って、今では本当に父として尊敬している。でもやはり他の男のことは避け続けていて、楓はずっとそれを心配していた。


「あなた見ていると多分今でも男の人が嫌いなのはわかるんだけど、だからこそ今日のことは意外だったね」


 楓は佳奈美の雰囲気からクラスでも男とほとんど話していないのはわかっていた。でも佳奈美には人生で初めての男友達ができていて、その人をもう家に呼んでもいいと思えるぐらい親しくなっていた。それが楓にとってはかなり意外だったようで、今もイマイチ理解が及んでいない様子だ。


「柊くん…まさか隣に住んでいる人が、佳奈美と友達になるなんてね。これって運命なんじゃない?」

「そ、そうなのかな…?」

「もちろん。この世の出会いは全て運命だから。佳奈美が友達になってもいいと思える男の子と出会えたのも、私たちが引っ越してきたところがたまたま彼の隣だったのも運命。全て繋がってるの」


 正直、楓の言っていることは理解できる。

 前世でもリオと出会えて結婚できたことだって、間違いなく運命だと理解している。そして諦めそうになっていた頃に柊はというリオに似た存在に出会ったこともまた運命だ。

 でも、佳奈美は心の底では腑に落ちていなかった。その理由は佳奈美自身もよくわかっていることで__。


(でもなんか、ちょっと運命にしては出来すぎている気がするんだよね…。私とリオが出会えたのは運命だと思うけど、柊くんと出会ったのは運命とは思えないんだよね…)


 ハッキリ言って、この話は出来すぎている。簡単にいえば確率の問題だ。仮にリオがこの世界に転生していたとして、この世界には数十億人の人間がいる。なので確率は単純に数十億分の一。どう考えても現実的な数字ではない。


 でも佳奈美は、実際に出会った。リオだと思える人物に、出会ってしまった。だからもう彼のことは諦めきれなくなって、佳奈美の心の中の熱は燃え盛るばかりで。


(でも、いくら出来すぎていることでも、私たちは出会った。そして友達になって、一緒に遊んだりもした。だからリオ。もしあなたなら、もう少しだけ待っててね?もう少しで勇気が出せそうだから)


 佳奈美にも柊がリオである絶対の確信はない。でも彼をリオだと決めつけるのには十分すぎる材料が集まっていて、佳奈美は今勇気を出すべきだと心の決意を固めようとしていた。その時、その決意を後押ししてくれるような発言が自分の耳に着地してくる。


「佳奈美は、彼のことをどう思ってるの?」

「…え?どういうこと…?」

「簡単に言えば、異性として好きなのかってこと」

「…!!…そ、それは…」


 楓にそう質問をされて心がドキッとするのと同時に期待と希望で胸が熱くなり、その気持ちこそが答えだと気づく。


「わからない…。友達として好きなのは間違い無いんだけど、異性としてってなると…」

「まあ、難しいよね」

「でも…多分だけど…好き、なんじゃないかな…って思う…」

「!!」


 佳奈美は正直に自分の気持ちを答えた。すると楓は驚いたように目を見開いたが、直後に嬉しそうに笑った。


「そう…。よかったね。佳奈美が好きだと思える運命の人に出会えて」

「うん…っ」


 胸の鼓動が大きくなる。いくら親といえど、自分の気持ちを話すのは恥ずかしいから。でも不思議とそれは心地良くて、心に安心感をもたらしてくれている。

多分、これが恋というものなのだろう。いや、これは間違いなく恋だ。佳奈美にとってこれは初めての恋では無いから、その気持ちの正体に気がついた。なので佳奈美の心は大きく揺れ動いていて、今にも告白してしまいたいぐらい気分が昂まっていた。


(柊くん…私の運命の人…。きっといつか、あなたと結ばれるために頑張るからね)


 これはリオにではなく、柊に向けた気持ち。でもそれが間接的にリオに向けた気持ちになることを祈りつつ、佳奈美は両手の拳を強く握った。


「あのねお母さん…。ちょっとだけ、相談があるんだけど…」

「え!?私に話聞かせてくれるの!?」

「お母さんしか頼れる人がいなくて…」

「ふふ、任せて!恋愛マスターの私に!」


 楓は胸を張って自信満々の様子だが、恋愛マスターと言えるほどの経験は無い。そのことは佳奈美も知っているから楓の発言を聞いてクスッと笑ったのだが、直後に恥ずかしさを見せながら楓に柊とのことについて相談し始めた。


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