44 冷めた空気
「こ、これ…どうぞ…!」
最近友達にばかりの佳奈美の家にお邪魔すると、彼女は少しぎこちない手つきでお茶を淹れてくれて、柊は遠慮せずにそれをいただいた。
「ありがとう…いただくよ…」
一度温かいお茶を飲んだら心が落ち着くのではないかと思いお茶を口にしてみるのだが、緊張が和らぐことはなかった。
(ヤベェ…次なんて言えばいいんだ…!?)
当然女友達などいたことがないため、この後何を発言し、何を提案すればいいのかわからない。でも柊なりになんとかこの冷めた空気を温めようと考える努力をし、最終的に柊が先に口を開いた。
「あ、これ…美味しいよ。なんというか…心があったかくなる感じがする…」
「そ、そう…?それならよかった…」
「「……」」
(いや会話ムズッ!!話すのってこんなに高難易度だったっけ!?)
いくら初めての女友達といえど、今まではある程度普通に話せていたはず。なので今もその感じで話せばいいはずなのだが、どうにも頭が回らない。その原因は火を見るよりも明らかで、今現在進行形で佳奈美の家で二人きりだからだろう。
(ヤベェなこの空気…流石にこのままなら帰りたいぞ…)
いくら美少女の家で二人きりだとしても、こんな冷え切った空気のままならば家でゴロゴロしている方がマシだ。流石の柊もそこら辺の考えは一般的なので。でもだからといって佳奈美とこのまま気まずい感じで別れる方がかなりしんどいため頑張って会話を試みる。
「あのさ…!佳奈美さんは…学校で友達できた?」
「え…?友達か〜…まぁ、数人なら…?」
「マジか…俺なんて全然友達できないのに。やっぱすごいな佳奈美さんは」
「いやいや…!そんなことないよ…!!私はただ生徒会があるからそれで友達になったっていうだけで…。クラスには柊くん以外に友達なんていないよ…?」
「!!そうなのか…」
なんとなく自虐ができる話題を出して見たのだが、思いの外佳奈美は話に付き合ってくれて心の中で胸を撫で下ろした。そしてこのままの流れを絶やさないように、あまり考えもせずに口を開き続ける。
「佳奈美さんみたいに明るくて優しい人でも友達作るのって難しいんだな…」
「!?そ、そんなことないよ…っ。私、話したことない人と話す時は結構暗いし、優しくもないよ…?」
それは無理があるだろ。
と心の中で思ったのでジト目を向けたのだが、佳奈美は無自覚そうに疑問の目を向けてきたため説得は諦めることにした。
「そんなことはないと思うが…まあいいか。とりあえず、お互いに早く友達を作れるように頑張ろうな」
「う、うん…!」
流石にクラスの中で話せる人が女の子だけで、しかも彼女は学内でもトップの美少女となるとこちらとしても話すのに少し勇気がいるため、もっと気軽に話せる同性の友達が欲しいところである。だが当然同性の友達の作り方も知らないため、仲良く笑い合える日はまだまだ先になりそうだ…。
と、そんな悲しい事を考えていると、佳奈美が少し言いにくそう口を詰まらせながら質問を投げてきた。
「ねぇ…柊くんは、私以外に女の子の友達が欲しいって思ってたりする…?」
「ん…?」
佳奈美の質問を聞いた柊はその質問の意図を理解できずに?を浮かべるが、ちゃんと頭で考えてから答えを出した。
「いや、特に欲しいとは思わないな。佳奈美さんがいれば十分かなって思う」
「!?…そ、そうなんだ…」
「逆に佳奈美さんはどうなんだ?俺以外に男友達が欲しいって思うのか?」
「それはその…」
何気なく、話を続けさせるために質問を投げ返したのだが、佳奈美はなぜかまた頬を赤く染め上げ、恥ずかしそうに下を向いた。
「私も、柊くんがいればいいかなって思う…かな…」
「そうなのかぁ」
この感じだと、二人とも永遠に恋人ができそうにないな。まあ柊はクロエ以外の女の子と恋愛する気はさらさらないので特に問題はないのだが。それより柊は佳奈美に彼氏ができそうにないということが意外で、心の中で少しだけ驚きを見せていた。
(佳奈美さんならいくらでも友達とか彼氏になってくれる男がいるだろうにな。あんまり恋愛とかしたくないのかな?)
佳奈美がずっとフリーの可能性があるという事を考えた途端、柊の心にはなぜか高揚と期待が湧いてくる。
(ん…?なんで俺喜んでるんだ…?佳奈美さんにはたくさん友達ができて彼氏とか作ったりして幸せになって欲しいって思ってるのに…)
いや、本当は心の表面でしかそんな事は思っていない。
(…俺、もしかして実は裏がタイプか?大事な友達に幸せになって欲しいはずなのに、なんか幸せじゃない方が嬉しがってるもんな…)
いや、正確には幸せになって欲しいとかではなくて…
(もしくは…俺が幸せにした__)
「柊くん…!一緒に映画見ない…?最近流行ってる恋愛系のヤツなんだけど…!」
「ん!?あ、ああ…見ようか…。実は気になってたんだよなぁ」
一体、自分は何を考えていたんだ?
それを思い出しただけであり得ないほどの恥ずかしさが込み上げてきて、胸を締め付けてくる。でも自然とそれに不快感はなくて、むしろ幸福感すら覚えていた。
もしかしたら自分にとっての一番の幸福は、佳奈美を幸せにするかもしれない。
そういう推測が頭の中で飛び交うのだが、今は考えないようにして映画に集中することにした。




