43 家ですか…
可愛らしい佳奈美の口車に乗せられてしまい、柊は彼女の家に上がった。あまりにも早すぎる展開に柊は頭の整理が追いついていないが、なんとか平静を取り繕ってリビングに入って行った。
「お邪魔しま〜す…って、静かだな」
緊張で心臓がドキドキするのを感じながら中に入ると、さらに心臓の音が際立ったように感じた。それはリビングに誰もいないという事を示していて、柊は咄嗟に佳奈美に質問を投げかけた。
「あれ、ご両親は…?」
「あ、えっと…」
柊の質問を聞いた途端に佳奈美は頬を赤く染め上げて、言葉を詰まらせながら説明をしてくれた。
「今日は…デートしてるから夜まで帰ってこないんだ…」
「え…?誰が?」
「お父さんとお母さんが…」
「………!!??」
待て待て待て待て待て待て待て待て。
(え、つまり今この家は俺と佳奈美さんの二人だけってことか…!?)
ちょっっと一旦待ってほしいそれは話が変わってくる。今回佳奈美の家に訪れる決心がついたのは親が話し相手になってくれるだろうという心の支えがあったからで、佳奈美と二人きりになることなんて微塵も想定していなかった。そのため柊としては考えていたプランがすべて崩れ去ってしまったため、明らかな動揺を表情に示した。
「えっと…つまり今この家には俺たちしかいないってこと?」
「うん…」
「???????」
これはよろしくない。家に入って早々申し訳ないが、今すぐ帰宅すべきだ。でないと自身を抑えつけられなくなるかもしれないから。
「佳奈美さん今日はありがとう。二人でカフェに行って色々話せて楽しかったよ。それではまた学校で会おうなさようなら」
「え!?ちょっ__!!待って…!!」
柊は素晴らしいスピードで家から出て行こうと玄関に向かったのだが、背中を掴まれてしまってそれは阻止されてしまう。
「別に私は大丈夫だよ…?君と二人なら…」
「いやいやいや!流石に良くないだろ!!俺らまだ友達になってそんなに長くないだろ!?いくら仲がいいからって流石に早すぎる気がする!!」
そしてそれ以上に、柊には受け入れられないことがあって。
「それに俺だって男なんだぞ!?ちゃんと警戒心とか持っててくれないとこっちだって困るんだぞ!?」
こんな簡単に家に上げられてしまうと、こちらのことを完全に男として見られていない気がして少し悔しかった。さらにこれがきっかけで男を家にあげることに慣れてしまうと、佳奈美が将来苦労するかもしれない。そういった悔しさと心配を背負って佳奈美を説得しようと少しだけ声を大きくしているのだが、佳奈美は全く折れてくれず、なんなら先ほどより勢いを増していた。
「だ、大丈夫だよっ!!だって、君だからこんなことするんだもん…!他の男の子には絶対しないよ…!」
「っ…!?いやだから、俺にだって警戒心をだな__」
「私は柊くんのことを信頼しているから、君には警戒心なんて必要ないのっ…!!」
「!!??」
この人、勢いに身を任せてとんでもないことを口走りやがった。それは下手をすれば一種の告白とも捉えられるようなものだが、柊がそんな考えを持つわけもなく。
(どういうことだ!?信頼!?佳奈美さんが俺に!?俺そんなに信頼されるようなことしたかな…)
柊からすれば佳奈美に対してそんないいことをした記憶はないため、なぜそこまで信頼されているのかが理解できなかった。でもそんな柊の考えとは相反して、佳奈美は柊のことを信じ切っている様子で。
「だからその…柊くんは何も気にしないでここにいたらいいんだよ…?ね…??」
先程の発言を思い出して恥ずかしくなったのか佳奈美は頬を真っ赤に染め上げて目線をチラチラさせながらこちらのことを家に止まらせようとしてきた。後先考えずに発言するからそうなるんだ、ということは少しだけ思ったが、それは口にはせずにこの目の前にいる可愛らしい少女の期待に応えることを優先する。
「っ…ああ、わかった…」
「!!いいの!!??」
「まあ…佳奈美さんがそこまで信頼してくれてるんだったら…俺としてもそれに応えないとな…」
「っ!!!!ありがとうっ!!!」
ま、こんな美少女にあんな顔をされたら一般人の男が耐えられるわけがない。なので柊は佳奈美の家に残ることを決心してその旨を伝えたのだが、佳奈美は思いの外嬉しそうに笑顔になった。そんなに家で遊びたかったのか?とは思ったが、まあこうやって友達と遊ぶのに憧れがある気持ちはわかるため特に言葉にはしなかった。
そんな感じで柊は佳奈美に案内されたソファに座って彼女が淹れてくれるお茶を待っているわけだが、これから一体何をするのかは不明である。ただ話をするだけかもしれないし、はたまた面白いゲームでもするかもしれない。最近流行りの映画を見るかもしれないし、もしかしたら添い寝とか…。
これ以上推測を続ければマズイ方向に行きそうなため一旦考える事をやめて佳奈美の方に目を向けた。
(やっぱり…似てるな)
お茶を淹れるその仕草は、まるで前世を共に過ごした最愛の彼女のようだった。




