4 魂を通じて
「それでは私はこれで」
「本番も頑張ってくださいねっ」
入学式で新入生代表挨拶をする佳奈美は生徒会室でそれらの説明を受け終え、去年の代表である花音に見送られて生徒会室を去って行った。
「ふぅ…ようやく教室に行ける…」
元々早く学校に来て人探しをするつもりだったが入学試験で一番いい成績を取ったばかりにそれを邪魔されてしまい、佳奈美はなんとも言い難い不満を抱えていた。
「って、もうこんな時間…。これじゃあ今日はむりかな…」
仕方ないとはいえ時間ギリギリまで拘束されていたことに対して大きなため息をつき、露骨に気分を低下させていった。
「まあいいや…。明日すればいっか」
仮に探し人が同じ学校なら明日も明後日も学校に来るはずだから最悪それでも構わないのだが、最近佳奈美は彼への愛を抑えきれなくて狂いそうになっていて、一日でも早く彼を見つけ出したくなっていた。
だがどう足掻いても今日は出来そうにないということを察し、明日に希望を託してなんとか気分の低下を防ぎ、もし同じクラスに彼がいたらという想像をして笑顔を作って自分の教室に入って行った。
(さて、私のクラスにはどんな人がいるのかな?)
佳奈美は静かに教室に入り、軽く周りを見回した。
するとそこでクラスの数人がこちらに気づき、こちらの容姿を見ながらヒソヒソと話をし始めた。
「(え、あの人もしかして同じクラス!?)」
「(ウソだろ!?あんな可愛い子と同じクラス!?最高すぎんだろ!!)」
「(どこのコスメ使ってるんだろ〜?)」
「(後で訊いてみようよっ)」
クラスメイトはそんな話をブツブツとしているが、佳奈美はそんな連中に興味は無かった。
なぜなら佳奈美が愛する彼は仮に美少女を見たとしても心の中で(嫁の次に綺麗な人だな)とか考える程度しかせず、確実に言葉に出すことは無いからだ。
なので佳奈美はあまり喋っていなさそうな人物を見回したのだが、会って間もない人がほとんどのため一人寂しく座り込んでいる人も一定数いて、結局ここで彼を見つけ出すことはできなかった。
(やっぱり同じクラスっていう運命的な出会いはないかぁ…。でも私は諦めないから覚悟しててよねっ!)
もとよりそんなうまい話があるなど思っていないため佳奈美はすぐに気持ちを切り替えてひとまず自分の席を探し始めた。
(で、とりあえず私の席は…っと、あそこかな)
佳奈美はかなり遅めに教室に到着したため空いている席を探すだけですみ、佳奈美は早速自分の席に向かった。
(…?隣の子、何してるんだろう?)
佳奈美は席のすぐそばに着き、荷物をある程度整理し始めたのだが、隣の男子生徒は考え事をしているのかこちらに全く気づいていない様子だった。
それを佳奈美は特に不審に思うでもなくただ数秒間見つめ、そして気づけば彼に夢中になってしまっていた。
(え…あれ…?私、どうしちゃったんだろう…?)
そこで佳奈美の頭には過去の記憶が蘇り、隣に座る彼と過去の最愛の人物を重ねて見るようになった。
(もしかして…貴方なの…?)
佳奈美は心の中でリオに見える魂に語りかけて見るが、もちろん返事は返ってこない。
だがしかし、佳奈美の中に刻まれたクロエの魂が彼こそが追い求めてきた人物だと叫んでいて。
【もし生まれ変わったとしても、絶対に見つけ出してまた結婚しような】
そこで彼のその言葉を思い出し、佳奈美はもう止まらなくなりそうになった。
(やっぱり、貴方が…!)
「あの…!」
佳奈美は思い切って隣の彼に質問をし__
(いや待って…!よく見て見ると…)
そこで佳奈美はなんとか一歩立ち止まり、彼の容姿を客観的に見始めた。
よく見れば彼とこの男子生徒とでは容姿が似ても似つかなくて、佳奈美は一気に頭の上に疑問が浮かび上がった。
(リオとは見た目が全然違う…??でも私さっきこの人がリオだって…)
佳奈美ほどの重い愛の持ち主が世界一大切な人のことを間違えるはずがない。
それは佳奈美自身もよく理解していて、そこだけには自信があったつもりだったのだが、今この瞬間その自信は打ち砕かれてしまう。
(どういうこと…?この私がリオを見間違えた…?いやそんなことは無い…はず…)
佳奈美は自分の目を疑い始め、もしかしたら幻覚を見ているのかもしれないと一度目をこすって魂の叫びを信じてみようとした。
だがしかし目の前にいるのはどう見てもリオとは全然見た目が違う人物で、佳奈美の脳内は疑問符でおかしくなりそうになる。
(やっぱり違う…??え??えぇ???私なんで見間違えたの…???)
佳奈美は困惑で頭が埋め尽くされて混乱してしまいそうになり、気づけば心なしか身体もフラフラし始めた。
(いやちょっと待って!!ここはちゃんと冷静にならないと!!)
そこで賢い佳奈美さんは自分が困惑しすぎていることに気づき、またしても一歩立ち止まって思考を巡らせることに成功する。
(とりあえず、見た目だけでは判断しちゃダメだよね。前世だってリオの中身に惹かれたんだから。あ、見た目も好きだったんだけどね!)
いや聞いてないです。
佳奈美はここにきてもリオのことを思い出してつい頬を赤らめてしまいそうになるが、それをグッと我慢して頭を回し続ける。
(まあとにかく、一旦話してみないことにはわかりっこないよね。何気ない会話をすればきっとリオかどうかわかるからね)
佳奈美は自分のセンサーに自信を持ち、隣で眉間にシワを寄せて考え込んでいる人に話しかけることにした。
「隣、失礼するね」
まずは自分が隣の席であることをアピールしてみて、そこから会話に繋げようとした。
「?」
佳奈美は席に座って隣の男子生徒の方を見てみるが、彼はなぜか頭の上に?を浮かべ続けていて。
「え…?」
彼は昔の知り合いにたまたま出会ったかのように目を見開きながら驚きを見せていて、その反応は佳奈美の心に期待を植え付けて行った。
「ん…どうしたの?私の顔に何かついてる?」
だがあえて冗談を言ってみるというクロエらしい行動をしてみて、さらに彼の出方を伺う。
「い、いや…!!別に何もついてないけど…綺麗な人だなと思って…!!」
その時、佳奈美の心臓はトクンと跳ね上がった。
(え…やっぱりこの人…!)
自分の心臓をこうもドキドキさせられる人物はあの人しかいないことを知っていた佳奈美は、先程の期待を確信に変化させ、真実を確かめるために彼に声をかけた。
「ねぇ…ちょっと質問してもいいかな?」
「い、いいぞ…!!ばっちこい…!!」
この質問一つで自分の人生が報われる。
佳奈美は心の中でそれだけを信じて彼に質問をした。
「私たち、どこかで会ったことがある?」
彼ならこの質問でも自分だと答えてくれることを信じて、あえて抽象的な質問を投げつけた。
そう、二人の魂は永遠に結ばれているのだから。




