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36 捏造


 朝の支度を終え、姉弟は同時に玄関を出た。すると家の前には一つの太陽のように輝く美少女がいて、二人は彼女と挨拶を交わした。


「「おはよう(ございます)」」

「おはようございます。(しゅう)くん、花音(かのん)さん」


 最近新しくできた友達、佳奈美(かなみ)は眩しい笑顔をこちらに向けてきた。彼女とは一昨日に一緒に遊んだ程の仲で、どんどん仲良くなっていっている。そして柊にとって、特別な存在である可能性を秘めた存在。


(佳奈美さん…やっぱりクロエなのか…?)


 クロエは前世に一生を添い遂げた愛する人物で、柊はこの世界に生まれてからずっと彼女を追いかけていた。関わった女性を見極めては、諦めて。会話を交わして、遠ざかって。柊の人生はそんなことの繰り返しであったが、佳奈美が現れてから転機が訪れた。柊の魂は今までに誰にも反応を示さなかったが、佳奈美にだけは強く反応している。現に今も鼓動は高まる一方で、それが柊の佳奈美を見る目を変えていく。


(こうして見てみると…やっぱ似てるな。笑い方とか手の動きとかマジでそっくりすぎる)


 容姿が全然似ていないから柊は今まで判断を鈍らせていたが、それでも佳奈美の一挙手一投足はクロエと共通していて、柊の目は佳奈美とクロエの姿を重ねていた。


「し、柊くん…?そ、そんなに見られると恥ずかしいんだけど…」


 考えに想いを馳せるあまりに佳奈美のことをガン見していることに気づかず、彼女の頬を真っ赤に染め上げてしまった。これには流石の柊も正気を取り戻し、佳奈美に謝罪をした。


「あ、ああ…!ごめん!ちょっと考え事しててな」

「そ、そうなの…?」

「考え事なら私の顔を見てするのがおすすめですよ?」

「そんなことしたら絶対に邪魔してくるだろうから無理」

「え〜」


 こっちは割と人生に関わるほど大事なことを考えているのに、相変わらず花音は呑気に拗ね始めた。


「別にいいじゃないですか。私だって姉として弟の力になりたいのに」

「…」


 花音はいつものように口を尖らせているため、一旦無視して歩き始める。


「よし、とりあえず学校行くか」

「そ、そうだねっ…!急がないと遅刻しちゃう…!」

「そんなにギリギリでもないですけどね…」


 普段ならいちいちこんなこと言ってこないのに、なぜか細かい部分を指摘してくる。それだけで花音が拗ねていることは一目瞭然で、柊は苦言を呈した。


「姉さん、早く機嫌直してくれよ…生徒会役員がみっともないぞ?」

「柊のせいじゃないですか」

「…仕方ないだろ?姉さんが考え事の邪魔をしてくるのは事実なんだから」

「……っ」


 花音は正論を言われて何も言えなくなって一瞬黙り込んだ。だが直後にどこか吹っ切れたように大きめな声を上げた。


「でも一昨日の夜はたくさん私に甘えてきましたよね!?」

「え…?」

「えぇぇぇぇぇ!!!???何言ってんの!?」


 花音は過大な表現を駆使して一昨日のことを話し、佳奈美には引いたような目を向けられてしまう。


「柊くん…やっぱり花音さんのこと大好きなんだね」

「いや待て!!絶対に誤解がある!!」

「そんなものはありませんよ?だって…一昨日は情熱的に求めて来たじゃないですか…♡」

「捏造やめろ!?どっちかといえばあれは姉さんからだろ!!」

「じゃあ結局二人は交わったの!?」

「なわけねぇだろ!!」


 姉弟の会話のインパクトが強すぎるあまり佳奈美は混乱している様子だ。でも無理はない。だって普段の会話などを聞く限り、この二人ならワンチャンあり得るのだから…。


いやあり得ねぇよ!?


「ったく…朝からなんて会話してんだか…。早く行くぞ。じゃないと遅刻す__」

「それに昨日は柊と一日中お家デートをしてましたし!」

「えぇ!!そうなんですか!?」

「もういいって!!!」


 いい加減にしないと近所迷惑にならないか…?だって家を出てすぐのところで男一人と女二人がイチャイチャしてるんだもん。メッチャ気まずくない?

 まあそんな感じの理由と、あと普通に面倒くさいからさっさと学校まで行きたいわけだが。


「朝はゆっくりお茶をしてお昼は一緒に外食をして、その後は二人でゲーム!そして夜は二人で一緒にお風呂に__!」

「えぇぇぇぇ!!!???」

「嘘つくな!!!んな事実はねぇぇ!!!」


 花音は暴走して自身の妄想と現実の区別がつかなくなっていて、ありもしない事実を話している。そして困惑と興味に駆られている佳奈美も冷静に判断ができず、顔を赤くしながら花音の言葉に耳を傾けていた。

 もうこうなったらどうしようもないのではないか。そんな絶望感と焦燥感に駆られた柊は二人のことを無視して歩き始め、そして大きなため息を吐いた。


(後で誤解解いとかないとな…)


 とりあえず教室に入ったら佳奈美と話をしようと、そう誓ったのだった。


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