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33 お隣の友達


「ただいま…」

「「おかえり(なさい)」」


 波瀾万丈な一日を過ごした佳奈美(かなみ)はリビングに入るなりやらかしたようにため息をつき、荷物を置いてソファに腰掛けた。


「(やっちゃったぁ…)」


 いくら友達といえど、連絡先を欲するあまりにあそこまで熱弁する必要は無かった。あの発言はもちろん本心であるのだが、少し余計なことを言いすぎてしまった。


「(嫌われちゃったかな…?)」


 まだ友達になって数日なのに、ずっと連絡先が欲しかったなどと言われるとこれからの関係について見直される可能性もある。だから佳奈美は頭の中で後悔を抱いていて、文字通り頭を抱えた。そしてその状態で次にどんな顔をして会えばいいかなどを考えていたのだが、そこで母の(かえで)が隣に座ってきた。


「どうかしたの?そんなに落ち込んで」

「…別に、なんでもないんだけど…」

「そう?私にはそうは見えないけど」

「…」


 いくら親といえど、相談したくないことだってある。だってこんなことを話してしまえば確実に尋問されるだろうから。この母はそういう人である。

 という感じで楓に真実を話すつもりはなくて、彼女はそれをなんとなく察してくれた。


「まあ、なにかあったらいつでも言ってね。私はあなたの味方だから」

「うん、ありがとう」


 こちらに話す気がないことを察した楓は特に詮索するわけでもなく一旦話を切り上げ、新たな話題をこちらに振ってくる。


「で、最近どうなの?学校は」

「え?うん…楽しいよ」

「それならよかったわ。友達たくさんできた?」

「たくさんはできてないけど…でも、仲のいい友達なら少しだけできた」

「それが今日遊んできたお友達?」

「うん」


 楓は娘の学校事情に興味津々のようで、様々なことを訊いてくる。


「へ〜。ちなみになんだけど、そのお友達は女の子?」

「それはえっと…男の子もいる…」

「え!?そうなの!?」


 娘に男の友達ができたと聞いた瞬間に楓は大きな声を上げて目を見開き、そしてさらに父親までもがこの話に加わってくる。


「へー、佳奈美に男友達か…一度会わせてもらってもいいかな?」


 浩哉(ひろや)は娘が変な男に引っかかっていないかが心配な様子で、その友達と会うことを望んできた。だがもちろんそんなことをさせるつもりはなくて、佳奈美はしっかりと首を横に張った。


「だーめ」

「なんでだ?」

「だってお父さん、どうせ会った瞬間にその人を睨みつけちゃうでしょ?」

「…よくわかったな」


 結構な親バカである浩哉は佳奈美に男がやってくるたびにその人たちを睨みつけたりしていて、今回に至っては佳奈美公認の友達だ。そうとなれば親として睨みつけないわけにはいかないという謎の信念を持っているため、絶対に(しゅう)に合わせたくないのだ。

 だがよくよく考えてみれば、浩哉と柊は一度会ったことがあるため、佳奈美はそれを浩哉に話した。


「というかお父さん、その男の子と会ったことがあるはずだよ?」

「え、そうなのか?」

「うん。私たちがこっちに引っ越してきた日にお手伝いをしてくれた人」

「え!?」

「え!?もしかしてお隣さんの!?」

「うん、そうだよっ」


 まさかあのお隣さんが娘と同じ学校で、さらに友達になっているなど考えもしなかっただろう。現に二人は目を見開いて驚きをあらわにし、あの日のことを思い出し始めた。


神庭(かんば)さんかぁ…確かに彼はいい人だったな」

「わざわざ手伝ってくれたしね。佳奈美が友達になるのも頷けるわ」


 二人の(しゅう)に対する評価は思いの外高くて、佳奈美は心の中で軽く胸を撫で下ろした。


「だからその、二人は心配しなくて大丈夫だよ。あの人は、とっても優しい人だから」

「…そうか」

「佳奈美がそう言うならきっとそうなのでしょうね」


 今まで変な男しか寄ってこなくて男友達ができたことがない娘のことを心配してくれていたようだが、柊のことをちゃんと説明すると二人も理解を示してくれた。それにはやはり、あの日こちらの引っ越しの手伝いをしてくれたのが大きかっただろう。あれがなければ多分浩哉は会わせろと言ってきただろうし、楓だって心配してきただろう。でも二人の表情には一切の曇りもなくて。


「でもそうだな、もし機会があれば挨拶ぐらいはしたいな。お隣さんだし」

「そうね。佳奈美が認めた男の子とちゃんと話がしてみたいわ」

「いやいや!そんなことしなくていいからっ!」

「そう?私は結構楽しみなのだけれど」

「柊くんにそんなことしないでっ!!!」

「!!!???」

「あら、名前呼びしてるのね」

「あっ」


 それで、またやらかすと。


 これには流石の浩哉も大きく反応を示してきて、もう尋問の未来からは逃れられないことを確信した。そしてさらに楓もなぜか目を輝かせているため、今日は長い夜になることを考えつつ目線を逸らしたのだった。


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