32 連絡手段
三人はレストランで料理を食べ終えた後そのまま家に向かい、佳奈美と別れ告げた。
「今日はありがとうございました。二人のおかげで近くのことたくさん知れまし、すごく楽しかったです」
「ふふ、お礼なら柊に言った方がいいですよ」
姉の花音は柊が今日まで色々と悩み続け、今日も不安を抱えながら遊んでいたことを知っているため、そう言って気を遣ってくれた。すると佳奈美も何となくそのことを察し、こちらを向いて笑顔を浮かべた。
「柊くん、今日のために色々考えてくれてありがとう」
「いや、考えるのも意外と楽しかったから大丈夫だよ。てかむしろ礼を言うのはこっちだよ。今日は俺のプランに付き合ってくれてありがとう。楽しんでくれたならよかったよ」
「ならまた柊に遊びのプランを考えてもらいましょうかね?」
「それは無理」
確かに今日はかなり達成感があった。
最近引っ越してきて不安を抱えていた佳奈美に少しでも近くの楽しいところを知ってもらえたのもそうだし、何よりも彼女が楽しんでくれていたから。その笑顔が柊の不安や苦労を全て吹き飛ばし、言葉には表せないような高揚感を得ていた。
だがしかしもう一度これをやれと言われても正直自信ないし、もうあんな風に緊張しながら友達に会うのはな…。という感じで柊は花音の話をしっかりとお断りさせていただいたのだが、だからといってまた遊びたいわけではないので、それはちゃんと言葉にしておく。
「でもまあ、また遊ぼうよ。次は佳奈美さんの行きたいところにでも」
「え、いいの?」
「もちろん。友達の行きたいところについて行くのも友達の役目だろう?」
「ま、まあ…そうなのかも?」
佳奈美は結構遠慮しがちな性格で、今回も自分のわがままを伝えて良いのか迷っている様子だ。それに対して花音はそうやって遠慮されるのは得意ではなく、今以上に仲良くなりたいと思っているためすぐに言葉をかけた。
「遠慮しなくないいんですよ?私も佳奈美ちゃんの行きたいところに行ってみたいですから」
「そうですか…?」
「はい」
佳奈美は一瞬頭を悩ませたが、直後に意を決したようにこちらを向いて自分の気持ちを伝えてくる。
「わかりました…。じゃあ今度、私の行きたいところに付き合ってもらってもいいですか?」
「ああ、まかせろ」
「どこにでもついて行きます!」
「ふふ、ありがとうございますっ!」
こちらに引っ越してきたばかりでまだ行きたいところは決まっていないようだが、いずれ必ずまた三人で出かけるという約束を交わし、そこで佳奈美と別れを告げる。
「じゃあそろそろいい時間だし、お別れにするか」
「そうですね。あまり遅いと親御さんが心配しますしね」
「じゃあ佳奈美さん、また学校で」
柊と花音は小さく手を振って自分の家に入って行こうとした。
「待って__!」
だがそこで佳奈美に止められてしまい、二人はピタリと足を止めた。
「どうかしましたか?」
「そ、その…連絡先…!交換しませんか…?」
「あ〜…」
そこで思い出した。佳奈美の連絡先、知らないわ。
なんかめちゃくちゃ仲良く休日に遊んだらしていたのに、よくよく考えてみれば連絡先すら交換していなかった。でもこれに関しては許してほしい。だって、女友達いたことないんだもん…(泣。
という感じで柊はスマホを取り出し、佳奈美と連絡先を交換した。
「あ、ありがとう…っ!」
「こちらこそ…。これからもよろしくな」
「うんっ!」
なんだか女の子と連絡先を交換するというだけで心臓がドキドキしてしまうが、それを頑張って表に出さずに一歩後ろに下がった。そして次は花音の番だと、我が姉に声をかけた。
「次、姉さんだぞ?」
「?私、もう佳奈美ちゃんの連絡先知ってますけど?」
「え???」
あ〜……。もしかして、ワシ嫌われてる?
だって普通に考えて花音とだけ連絡先交換するのとかおかしいじゃん…!やはりこれは、(花音さんとは仲良くしたいけど柊くんとは別に…)とか(花音さんの付属品で付いてきたけど正直いらないかも…)とか思われてるヤツじゃん!
「なんかごめん佳奈美さん…こんな俺と無理してお話ししてくれて…」
「いやいや!そういうんじゃないよっ!!!」
佳奈美はこちらの被害妄想をしっかりと否定してくるが、それすらも建前に聞こえてしまう。
「ああ、ありがとう。でも嫌なら全然、俺は大丈夫だからなっ」
「違うのに…ただ花音さんとは生徒会で連絡があるからって交換してただけで…。決して柊くんを仲間はずれにしようとか思ってたわけじゃないよ!!むしろ柊くんとはもっと仲良くなりたいと思ってるし、連絡先だってずっと交換したいなって思ってて__!」
「「…」」
これ多分、やらかしたヤツだな。
あくまで予想だが、佳奈美はこちらの言葉を否定するのに必死で暴走してしまって、恐らく言うつもりでなかったことも言ってしまっている。
現に佳奈美は火山が爆発したようにボンッと顔を赤くしていて、一瞬にして目線どころか身体まで逸らされてしまった。
「じ、じゃあね二人とも…!!また学校で…!!」
「あ、ああ…」
「また遊びましょうね♪」
佳奈美は逃げるようにして家の扉を開き、勢いよく中に入っていった。そして姉弟はその後ろ姿を見送った後、隣にある自身の家の扉を開いたのだった。




