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31 また間接


 今日は色んなことがあった。

 まず今日の初めは新たな友人に近くを案内するということで緊張しまくっていた朝から始まり、佳奈美(かなみ)と合流してからまずはショッピングモールに向かった。そこでは服を見に行って佳奈美の服を褒めすぎて真っ赤になったり、昼食の時にはあーんをされてドギマギしたり。ここだけ見ると女友達と仲良くデート、いや最早カップルのイチャラブデートである

 だが現実はそう甘くなくて、今回は姉の花音(かのん)もついてきていた。彼女はショッピングモールを出た後に訪れたカフェで、あまりにも重い弟への愛を店員さんに曝け出してしまって、その店員さんを脅かしてしまったというすごくしょうもない出来事を起こしていた。でも本人からすれば至極当然のことを言っただけのつもりらしく、そこが姉の一番理解できない部分であると改めて理解した。

 そしてカフェを出た後は公園付近あるキッチンカーでアイスを買い、ベンチに座って軽くおしゃべり。ここで(しゅう)の出る幕はほとんどなかったのだが、姉と友達が楽しそうに話している姿を見れただけでも楽しかったのでよしとする。


 そして今現在、今日の締めであるレストランを訪れていて、三人は目の前にある肉料理に目を輝かせていた。


「ヤベェ…ヨダレが止まらねぇ…」

「美味しそう…」

「ふふ、やはりお肉を見るとお腹が空きますね。では早速いただきましょうか」


 三人は手を合わせた後、早速肉料理に食いついた。特に柊とかいう肉食動物に至っては、二人の倍ぐらいある量の肉を一瞬で食べ進めていき、気づけば半分の肉が消え去っていた。

 これには流石の佳奈美も引いたような呆れたような苦笑いを浮かべていて、花音の方を向いて柊の食欲について話し始めた。


「あはは…柊くん、やっぱりすごいですね」

「ふふ、そうですね。柊は食べることには目がないですから、家族でご飯を食べるときも私の倍以上の料理を一瞬で食べちゃうんですよ♪子供みたいで可愛いですよね♡」

「まあ…そうとも言えるかも?ですね…」


 柊は欲望のままに肉を貪っていて、二人がこうして話している間にもその勢いは止まることを知らず。気づけば二人が半分を食べ終えたぐらいに柊の前にある皿は何もない虚空に染まっていて、まるでブラックホールのような何かに吸い込まれでもしたかのかと錯覚するぐらいであった。


「ふぅ…美味かった」

「あら、もう食べ終わったんですか?」

「ああ。美味すぎてついな」

「それ、いつも言ってますよね?」

「事実だから仕方ないだろ?親の料理だろうと外で食う料理だろうと、飯は何であろうと美味いものだろう?」

「まあ、それは否定できませんけど」


 普通の人間なら多少なりとも自分の中では受け入れ難い料理などがあるはずなのに、柊は自信を持ってそんなものはないと否定している。

 それは一般人(?)の佳奈美からすれば一種の才能のように感じられて、少しだけ羨ましいと感じてしまう。だがしかし、佳奈美自身も柊とほぼ同じ考えのため彼女はただ鈍感なだけで自分の才能に気付かないだけだった。


「ん〜…まだ食えそうだな…。もう少しいってやろうか…」

「あら、まだ食べるんですか?なら私のお肉をお裾分けしましょうか?」

「え、マジ?」

「はい。ちゃんとあーんしてあげますからね♡」

「ならいらん」

「え〜、いいじゃないですか」


 相変わらずこの二人は思春期の姉弟とは思えないぐらい仲が良い。弟が大好き過ぎてたまに重くなってしまう姉と、あまりそういう素振りは見せないが心の中ではちゃんと姉のことを好いている弟。正直言って憧れてしまう。

 なんせ佳奈美は一人っ子で、小さい頃からずっとそういう関係に夢を抱いていたから。なのでこの二人の話は聞いているだけで元気をくれて、そしてたまにヒヤッとさせられる…。


「…まあ、それも美味そうだし一口だけもらおうかな」

「!?」

「そうですか?では、あ〜ん♡」


 ………。


 本当に姉弟なの?この二人。


 普通にカップルと言われた方が納得がいくし、というかカップル以外がレストランでこんなにイチャイチャできるはずがないでしょ。そんなことを心の中で感じたのだが、ここでなぜかこちらの心に対抗と嫉妬の二文字が同時に現れ、気づけば勝手に口が開いていた。


「あの、柊くん…?もしよかったら、私のも一口どう…?」

「え…!?」

「ほら、私のお肉も美味しいよ…?」

「あ、えと…」


 こんなことしたいなんて思っていないはずなのに、勝手に口と手が動く。


「はい、あーん」

「え!?あの、ちょ__」


 半ば強制的に、柊の口の中に自分の肉料理を突っ込んだ。すると柊の顔は一瞬で真っ赤になり、彼が照れているのがわかった。それに気づいた瞬間は何とも言えない高揚感が湧き上がってきたのだが、それと同時に羞恥が爆発してしまって。


「っ…ど、どうかな…?」


 柊以上に顔が赤くなっているのではと感じた瞬間すぐに目を逸らし、とりあえず恥ずかしがっているのがバレないように味の質問をした。すると柊は少し言葉に詰まるが、ちゃんとこちらに感想を伝えてくれる。


「あ、ああ…美味い、と思う…」

「そう…?それならよかったよ…」


 ただ友達に間接キスをさせただけだ。それに今日の昼だって同じようなことがあった。なのになぜか昼よりも恥ずかしさが込み上げてきていて、佳奈美はもう料理どころではなくなってしまう。


(私…なんでこんな…)


 今世では味わったことのない、羞恥心。それはまるで恋する乙女が失敗してしまった時のような、甘酸っぱい恥ずかしさ。だが佳奈美はそんなことに気づかず、目の前にいる友達に目を合わせられないまま何とかナイフとフォークを握った。


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