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27 間接…?


「ん〜!!おいひぃ〜」


 あの後も服を見るために数店舗を渡り歩き、そこでも(しゅう)は恥ずかしさを我慢して彼女らの服を褒め続けた。すると姉の花音(かのん)はニコニコと笑いながら褒めた服を全購入し(?)、友達の佳奈美(かなみ)は恥ずかしそうに赤くなりながらも褒めまくった服を全購入した(!?)。一体どこにそんな財力があるんだ、などという考えも湧いてきたが、二人は満足そうにしていたのでそんなのは考えないことにした。

 まあそれはそれとして、そろそろいい時間になってきたのでフードコートに赴いて、今は三人とも目の前にある料理に夢中になっている。


「このお蕎麦、なかなか味わい深いです…!美味しさの奥底に渋さがあって、今までに味わったことのない味です…!」

「え、そんなに?」

「はい!一口食べますか?」

「遠慮しとく」


 花音は目の前にある蕎麦を絶賛していて、それを聞いた柊の心には好奇心が湧いてきた。家にいる時ならば一口もらったらしてもよかったのだが、ここは家ではなくショッピングモールのフードコートであるためそんな大胆なことはできない。目の前に友達もいることだし。

 といった感じで花音の厚意はしっかりとお断りさせていただいたのだが、それでも花音は上機嫌でこちらに迫ってくる。


「いえいえ、遠慮しなくていいんですよ?いつもしていることじゃないですか」

「え、いつもしてるの!?」


 花音は自分の箸を使って蕎麦を掬い、こちらに差し出してくる。その光景は側から見れば間接キスを厭わないカップルのように見えて、佳奈美も例外なくそのような目で二人を見ていた。


「やっぱり二人は仲良しなんだね…」

「いや待ってくれ。別にいつもしているわけじゃないからな?」

「していること自体は否定しないんですね」

「…まあ、たまにな」

「っ…!!」


 佳奈美には姉弟がいないからこういうのが普通であるということを知らない。だから佳奈美から見れば柊と花音はとても仲のいい姉弟、いやそれ以上の関係にも見えているようで、頬を赤く染めて口を手で押さえながら驚きをあらわにしている。

 流石にこのままではシスコンという噂が広まりかねないので、柊は全力でフォローをする。


「でも本当にたまにだから…!家族に美味しそうなものを少しだけ分けてもらってるだけだよ…!」

「ふふ、まあオブラートに包めばそうも言えますね」

「ちょっと黙っててくれ。今大事なところだから」

「別にそこまで必死になる必要もないと思いますけどね。私たちが仲良し姉弟なのはもう佳奈美ちゃんもわかっていると思いますから♡」


 なぜかこの姉は上機嫌でこちらのフォローを台無しにしてくる。確かに花音の言っていることは少しだけ正しいかもしれないが、今佳奈美は目を見開いて驚いているからやっぱりまだこの姉弟について理解しきれていないようである。だからこそこれ以上誤解を加速させないためにもしっかりと説得する必要があって、ちゃんと姉弟というものを理解しておいてもらわないと__


「ですからほら、どうぞ?」

「…」


 いよいよ花音が身を乗り出して箸を差し出してきたため、柊は諦めて蕎麦を頬張った。すると佳奈美は先ほどよりもまた一段と驚いたように少しだけ声を上げ、こちらの反応を窺っている。


「まあ、うまいな」

「ふふ、ですよね。あ、もう一口いりますか?」

「いらんわ」

「あら、残念です」


 もうことが起こってしまったのは仕方がない。多分佳奈美ならいい感じに理解してくれるだろうという信頼のような諦めのようなものを胸に抱き、視線は自分の目の前にある定食に移した。

 だがその時佳奈美がこちらに小さく声をかけてきて、柊は咄嗟にそちらに目を向けた。


「し、柊くん…?私のも、いる…?」


 するとそこには頬を真っ赤にしながら目線を逸らし、スプーンだけをこちらに差し出してきている可愛らしい少女の姿があった。それはまるで付き合ったばかりの彼に頑張って間接キスを要求しているような、そんな初々しい乙女のようだった。

 それを感じ取った柊の頭は衝撃で埋め尽くされ、佳奈美の可愛さについ見入ってしまう。


(え、え…!??どういうことだ!?もしかして対抗…してるのか!!??)


 普段の佳奈美の行動から付き合ってもない男にこのような行動をするとは考えにくい。ならなぜ今こうなっているのかというと、それは外的要因のせいだと考えられる。そして今考えられる外的要因とは先ほどの花音の行動であり、佳奈美はそれに刺激を受けたのではないかという結論に至った。


(いや待て…!!流石に友達と間接キスはマズくないか!?)


 いくら親しい友達といえど、二人は男女である。普通に考えて、間接キスをするような関係ではない。だから柊は間接キスを回避する方針を固め、申し訳なさと共に首を横に振った。


「いや…ごめん。流石に恥ずい…」


 顔が熱い。

 多分顔が真っ赤になっていて、一目で照れていることがバレるだろう。だが佳奈美はこちらの顔を一切見ていないため、それはなんとか回避できそうだ。


「そ、そうだよね…!ごめんね!急に変なこと言って…」


 佳奈美の笑顔が心臓に突き刺さる。

 きっと彼女はとても勇気を出して行動してくれたのだろうと考えると、佳奈美の作り笑いは後悔と羞恥に満ちているように見える。

 だがだからといって、今更「やっぱり…」と言ってももう遅い。なので諦めて自分の箸を手に取り、この気まずい空気をどうするか考えながらご飯に手を伸ば__


「柊。別に遠慮しなくていいんじゃないですか?」


 花音が何気なく放ったその言葉は、まるで死の直前に放たれた天使からの救いの言葉のようだった。


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