25 熱い気持ち
「っ…!?」
試着室から出てきた佳奈美に服を見せつけられた柊は驚きで身体を硬直させてしまう。
「ど、どうかな…?」
だが佳奈美は柊の様子に気づいていないようで、頬を赤く染めながらこちらに服を披露している。柊はもちろんその姿を凝視して目の保養…ではなくてちゃんと褒めようと思っていたのだが、思うように目が佳奈美の方を向いてくれない。
(何やってんだ俺…!?早く褒めないと佳奈美さんが不安になるだろ!?)
柊は何度も力づくで佳奈美の方を見ようとするが、なぜか強制力が発揮されて目を逸らさせられてしまう。そんなことをしていると佳奈美はついに不安になってきていて、こちらの方をじっと見ながら目を曇らせていっている。
「やっぱり、私にはこんなキラキラした服は似合わないよね。ごめんね、時間もらっちゃって」
「!!」
その時、柊の中にある熱い何かが湧き上がってきて、ほぼ反射的に佳奈美に言葉を放った。
「いやいや!全然そんなことないって!!めちゃくちゃ似合いすぎて本当はハリウッド女優とか世界的アイドルなんじゃないかって思ってただけだよ…!!」
まあ、ギリ嘘ではない。
実際マジで世界でニ位と言っても過言ではない程に似合っていると感じたから。ちなみに一位は前世の嫁のクロエね。
でもまあ、今まで誰がどんな服を着ていても全く心に響かなかった柊の心に影響を与えただけでもかなりすごいことだ。それにはもちろん柊も気づいているのだが、疑問に思う点もある。それはなぜ佳奈美だけがそんなことを為せたのか、という部分である。以前から感じていたのだが、佳奈美は他の女の子とは何かが違う。それが何なのかはわからないが、直感的に彼女が特別であるということだけはわかっている。
「ふ〜ん…そうなんだ…。それなら、よかったよ…」
「そうか…」
「それで…?私にも花音さんみたいな褒め言葉はくれないの…?」
「え?」
佳奈美はつい先程姉には褒めちぎっていたのに自分にはないのか、という嫉妬をむき出している。一体なぜそんなに嫉妬されなければならないのかなどと思ったりもするが、女の子の心を理解するのは不可能というのを前世で学んでいるのでそれは諦めて素直に褒めちぎることにした。
「えっと…佳奈美さんは手足が長くてモデル体型だから腰回りのラインがわかるような服を着るとスレンダーさが視覚的に認識できるから大人っぽさが湧き出ていめっちゃいいな。でもスカートに目を向けてみるとところどころに花の柄が入っていて遊び心とか余裕さを感じられるから上下でギャップがあって服を見るだけでも楽しさが湧き立てられるよ。でもそれが似合うのは佳奈美さんのビジュアルの良さがあってこそだからこの服装は佳奈美さんにしかできない一つの技のようなものだと思うな。まあ結論で言うと最高に似合っていると思う」
「…〜〜っ」
長すぎだろ。
それは自分でも途中から感じてはいたのだが、口が勝手に動いてしまったから仕方ない。
で、褒められた本人の反応はというと…
「っっっっ…!!」
赤く染まった頬を押さえ、恥ずかしそうに視線を斜め下に向けていた。そう、まるで彼氏に服を褒められまくって照れている彼女のように。
「あら?あのカップル仲良しね〜」
「高校生かしら?初々しいわね〜」
「私も彼氏にたくさん褒められたいわ〜」
周りからはマジでカップルのように見られていて、少し離れたところから可愛らしいものを見る目で見られていた。その視線に気づいた柊は、ようやく自分の失態に気がついた。
「あっ__えとあの…」
「……あ、ありがとう…私、着替えるね!!」
「う、うん…」
佳奈美は逃げるように勢いよくカーテンを閉め、柊と視覚的に距離を取ってきた。そうなると互いにある程度冷静さを取り戻せるようになってきて、柊は自分の先程の発言を頭の中で思い出した。
(何やってんだ俺ぇぇぇ!!!???)
ようやく自分のしでかしたことの重大さに気づき、頭を抱えて思い切り自分を責めまくった。
(流石にキモすぎだろ!?服を褒めるだけなのにあんなにベラベラ喋って__!!絶対引かれたよな!?マジで詰んだ…)
せっかくできた友達なのに、ものの数日で嫌われることになってしまうのか…。相変わらず世知辛い世の中だ。いや今回は普通に自分が悪いんだけど。
そんな感じで柊対佳奈美はおそらく柊の敗北に終わってしまったのだが、柊は緊張と後悔のあまり先程少しだけ気づいていたことをすっかり忘れてしまっていた。それはクロエ以外の女の子の服を褒めるのになぜか熱くなってしまい、さらには嫌われたくないという今までに女の子に抱いてこなかった感情が湧き上がってきたことだ。
クロエと別れてからずっと女の子には興味も示さなかったはずの柊が、今は女友達との買い物で大きく心を動かされている。
先程はそれに少し気づいていたのだが、まさか自分の心がここまで深く影響を受けていることなど知る由もなく、なぜか湧いてくる熱い感情と戦いを繰り広げるのだった。




