24 褒め言葉
ルンルンの佳奈美を服屋に案内した柊は今、女性二人の試着タイムを一人寂しく待っている。
(女の子の服か〜…。流石にちゃんと褒めないといけないよな。でも、できるかなぁ…)
柊にはもちろん彼女などいたことなどあるはずがないため、当然女の子の服を褒めるなんていう経験は一度もない。
姉さんの時やってただろって?黙れ。あれとこれは全然別物だろ。
やはり心境的には家族と女友達とでは全く異なっていて、柊は今までに感じたことのない緊張の渦の中にいた。
(どうやって褒めたらいいんだ…!?「青空に咲く花のようだ⭐︎」とか「冬に咲く大輪のようだ⭐︎」なんて言う勇気はないぞ!?)
彼は女の子の服を褒める人間に一体どんな偏見を抱いているんだ…?明らかに何かの手によって脚色されたようにしか思えない考え方であり、その点については流石の柊でも気がついた。
(いや、何だその褒め方…?冷静に考えたらキモすぎだろ。一体誰にこんなの仕込まれたんだ?)
頭の奥底に眠る記憶を目覚めさせ、二年前に同じところにきた時を思い出した。
その日は花音に連れられて服を見にきていて、柊はその服を着た花音に感想を伝える役をしていた。
【うん…いいと思う…】
【それだけですか?】
【まあな…】
【はぁ…柊には少し呆れました。まさかここまで女の子を褒められないとは思いませんでした。これは徹底的に指導する必要がありますね】
で、そこで様々なシゴキを受けたわけだが…。
【えっと…夏に降る粉雪のようだ…?】
【ちがいます!夏に雪が降るわけがないでしょう?もっもこう、幻想的でありながらも現実的な例えをですね】
【…?】
【例えば、ですよ?「青空に咲く花のようだ」とか、「冬に咲く大輪のようだ」みたいな感じでギリギリ想像ができるぐらいのことを考えるんです】
【???????】
全く想像できないんだが???
青空に花が咲く…?
冬に大輪が咲く…?
なわけねぇだろてか花に例えるの好きだな。
てな感じでまあ、当時花音にそのようなことを吹き込まれたわけだが…。
……
(いや姉さんのせいじゃねぇか!!!!)
そこでようやく花音に様々なことを吹き込まれているということに気づき、柊は自然と花音が居る試着室の方にジト目を向けた。
(クソ…そういう知識がないからって適当なこと教えやがって…。今に見てろ?女の子全員が照れ死んでしまうほどの褒め言葉を言ってやるからな!??)
普通に花音にキレているが、それでも一応褒めるつもりはあるらしい。花音は柊のそういうところに惚れ込んでいるのであるが、本人は全く気づいていない。
と、そんなことを考えているとどうやら花音が着替えを終えたらしく、勢いよくカーテンを開けてこちらに見せびらかしてきた。
「ふふ、どうですか?♡」
花音は自信ありげにニコニコと微笑んできているのだが、彼女はその自信に納得がいくほど圧倒的なビジュアルを誇っているため、柊はそれに対して直感的に褒め言葉を放った。
「ああ。よく似合ってるな。結構シンプルめな格好だけど、姉さんは元がいいから清楚さが際立ってていい感じだな。特にそのロングスカートは女の子らしさも強調されていているから誰が見ても二度見してしまいそうなぐらい綺麗だな」
こんな感じであっているだろうか?もし違っていたのならものすごく恥ずかしいところなのであるが、どうやら正解を引いたらしい。
「〜〜…!」
花音は今までに見たことがないぐらい恥ずかしがっていて、もう耳まで赤くなっちゃっている。そんな見たことがない姉の顔を見た柊の心はなぜか勝手に昂っていて、ついもっと褒めたくなってしまう。
「さらにそのネックレスが大人っぽさを出していて__」
「もういいですよ…!!もう…大丈夫ですから…っ」
つい調子に乗ってしまったせいか、花音はゆっくりとカーテンを閉じ、こちらを視覚的に遮断してきた。 その瞬間に柊は自分が何をしていたのかな気づき、一人で頭を抱え込んだ。
(何やってんだ俺!!!???何であんなことを恥ずかしげもなく…!しかも実の姉だぞ!?)
あんな言葉、前世で最愛の人にしか言ったことがない。でも花音の顔がだんだん赤くなっていくのを見てつい楽しくなっちゃって、言葉巧みに褒めちぎってしまった。
これは、今日帰ってからが大変だぞ?
(クッソ恥ずい…!!多分今の佳奈美さんにも聞こえてたよな!?え、聞こえてたのか!?)
ようやく気づいたのか、柊は花音の隣の試着室から顔を覗かせている佳奈美と目が合った。
「あ」
「あ、その…柊くんって、すっごく褒めるんだね…」
終わった。
実の姉の服を見てベロベロに褒めまくってるとか、どう見たってシスコンキモオタクじゃん(?)。もう学校でシスコンだと言いふらされても文句が言えない状況になってしまったため、もう一周回って諦めることにした。
「えと、佳奈美さんも着替え終わった?」
「あ、うん…君のお目にかなうといいんだけど…」
佳奈美はそう言いながらゆっくりとカーテンを開け、もう吹っ切れた柊に破壊力抜群の服を見せつけた。




