23 今夜は寝れないかも?
あれから数日の日が過ぎ去り、とうとう佳奈美に近場を案内してあげるという天国のような地獄のような日がやってきた。プランを練りに練りまくった柊は寝不足で目の下にうっすらとクマが見えるが、何とかそれを誤魔化すように笑顔を作る。
「おはよう、佳奈美さん」
「おはようございます」
「おはようございます。柊くん、花音さん」
「昨日はよく眠れましたか?」
「うーん…まあ、ある程度は」
「それは何よりです。ウチの柊は緊張でよく眠れなかったらしくてですね…」
「それは言わなくていいんだよ!!」
せっかく誤魔化してやり過ごそうとしていたのに、開始早々花音にバラされてしまった。まあだからといって何かあるわけでもないのだが、何となく恥ずかしいのである。それが思春期というものだ。
「それはそうと、まずはどこに行くんですか?」
若干身体が熱くなるのを感じていると花音からそのように質問をされたため、気を取り直して今日の話をし始める。
「まずは近くのショッピングモールに行くつもり。そこでまあ適当に買い物でもして昼飯を食べてって感じだな」
「なるほど。ではその後に家の近くにあるオススメのカフェや公園を案内して、最後に美味しいお肉料理を食べて終わりという感じですね?」
「えなんで知ってんの??」
「勘です♪」
「怖っ」
なぜか教えてもない今日のプランを知られていて思わず恐怖の目を向けてしまのだが、隣にいる佳奈美はこちらを向いて笑みを浮かべている。
「ふふふ、二人は相変わらずですねっ」
「こんなのが日常でたまるか」
「私たちは仲良しですもんね♡」
「くっつくな…!!!」
花音は友達がいる前でも容赦なくくっついてこようとするが、柊はそれを全力で阻止する。すると花音からは不満そうに頬を膨らませられたが、それをガン無視して歩き始める。
「早く行こう。昼が近づくと混んでくるから」
「うん」
「柊の意地悪…」
「…」
いつも大人ぶっているくせにどうでもいいことで勝手に拗ねている子供は置いておいて、柊は佳奈美を近くのショッピングモールに案内した。
「お〜!近くにこんな大きなところがあったんだね!!」
ショッピングモールに着くなり佳奈美は嬉しそうに目を開き、そしてあからさまにテンションを上げ始めた。
「今日はどこを回るの!?」
「そこは佳奈美さんに任せるよ」
「え、いいの!?でも私、ここに何があるのか知らないよ?」
「それを教えてあげるのが俺の役目だから」
「ふふ、ありがと♪」
柊と佳奈美は互いに目を合わせ、そして優しい目を向け合った。
そう、まるで初々しいカップルのように。
「(柊は渡しません…!)」
そんなことをしていると当然黙っていない人物がすぐそばにいて、その人の発言はしっかりと柊の耳に届いていた。
(なんか独占欲むき出しの子供がいるんだけど…どうすっかねぇ…)
幸い佳奈美は楽しさのあまり花音の視線には気づいていないようだったが、このままずっと今の調子だといつか必ずバレてしまうため柊は花音の耳に甘い言葉をかけてあげることにした。
「(姉さん。今日帰ったら俺のこと好きにしていいから、早く機嫌直し__)」
「いいんですか!!!!????」
一瞬で態度変わりすぎだろ…。
相変わらず単純な姉にホッとしたのと今晩の絶望で心はゴチャゴチャになるが、とりあえず今が何とかなりそうなのでいいだろう。
でもそうだな、一旦その鼻歌ルンルンステップはやめようか。
「♪〜〜〜♪〜」
「ふふ、どうしたんですか?」
「何もないですよ?♡それよりもほら、今日を楽しみましょう?♡」
「そ、そうですね…?」
さっきまでハイテンションだった佳奈美は自分より数倍はテンションが高い人物を見て冷静さを取り戻し、花音に凄いものを見る目を向けている。これは流石にマズイと感じた柊は当然花音のテンションを下げようと声をかけようとするのだが、なぜかこちらの言葉は花音の耳に届かなくなっていて。
「あの姉さん?」
「♪〜〜ふふ♡今晩が楽しみです♡」
「え…。いやちょっと、流石にもうちょっと冷静になって__」
「何をしましょうかね〜?♡まずはぎゅーからでしょうか♡その後は手を握って頬にチューをして、それからそれから…♡」
「…………」
ヨシ、夜逃げしよう。
もうどうしようもないということに気づいてしまい、今晩はどこかに逃げることを決意する。だがその行先に当てなどあるはずがなく、最悪野宿をするという決断を下す。
(もうなんか、どうでもよくなってきたな)
そして最後にはもう全てを諦めてしまい、今さえ良ければどうでもいいという思考に至ってしまう。
「よし!佳奈美さん、まずはどこに行く?服屋とかゲーセンとか本屋とか色々あるけど」
「そうだね…。じゃあせっかく男の子がいるし、服を見てもらおうかな?」
「ああ、わかったよ」
平常時の柊なら絶対に思考を巡らせていたであろう佳奈美の発言でも特に何かを考えることはなく、ただ今の楽しみに思いを馳せるのであった。




