19 ラブなヤツ
で、今美少女二人と学校に来たわけだが。
「え、あの人ってもしかして生徒会の…!?」
「隣に居るのは新入生代表の人じゃないか!?」
「じゃあその隣に居る男ももしかして生徒会関係の人か??」
「さあ…見たことないな」
まだ校門を潜ったばかりだというのに耳には様々な噂の声が入ってきて、一般人の柊は心臓が破裂しそうな思いで歩いていた。
「う…早く教室行きてぇ…」
「ふふ、柊はいつになってもこういうのに慣れませんよね」
「そりゃそうだろ…。他人に憎悪とか嫉妬の目を向けられるのは慣れたらダメだろ」
「まあ、確かにそうですね。でも柊にはこれからも毎日付き合ってもらうんですから、その度にこんな思いをしているといつか心が疲れちゃいますよ?」
「もう十分疲れたよ…」
ただ姉と一緒に登校しただけで様々な視線を向けられてきた柊だが、今回ばかりはそれに限らない。
今日は新たな友人の佳奈美も一緒に登校していて、こちらに向けられる視線の数は倍に増えたような気がする。
全く、モテる男は面倒だぜ。
「アイツ…絶対に調子に乗ってやがる…!ブッ○してやる!!」
「美人二人を侍らせていい気になってんのか?言っとくけど二人ともお前のことなんか好きでもなんでもないからな!?」
…。
ん、これ思ったより反感買いすぎてないか?
別にただの姉と女友達と一緒に学校に来ただけなのだが、どうしてここまでの仕打ちを受けなければならないのか。
その理由はとても簡単。
二人の女性がとっても可愛いから。
(…コレ、割とどうしようもなくないか?全員に俺らの関係性を説明できるわけでもないしな…)
花音とは姉弟であり、佳奈美とはただの友達であるという事実をここで全員に叫ぶわけにもいかないため、結局今のこの状況はどうしようもない。
それに気づいた柊は心の中で大きなため息を吐き、重い足を動かして校舎に向かっていく。
「私靴箱あっちなので取ってきますね」
「はい」
中に入るなり花音は自身の上履きを求めて少し離れたところまで歩いて行き、同じクラスである柊と佳奈美はまだ覚えきれていない自分の靴箱を探して行った。
「お、あったあった」
「ん〜、私のはどこかな?」
「佳奈美さんのは…あ、ここにあるよ」
ひと足先に靴箱を見つけた柊は次に佳奈美のも探してあげようと目を動かしたのだが、彼女の靴箱は思いの外目の前にあって。
「隣なんだね。昨日は全然気づかなかったよ」
「まあ席も隣だからそうなってるんだろうな」
周りを見てみるとどうやらこの靴箱は席順の通りに並んでいるようで、教室の席が隣同士である二人の靴箱が隣にあるのも必然の出来事であった。
「こういうところでも一緒なんだね…。なんだか運命感じるねっ」
「!!??」
彼女は急に何を言っているのだろうか?
そんなことを急に言われてしまうとウブな男子高校生の心は簡単に揺さぶられてしまため、もちろん柊は心臓を大きく跳ねさせていた。
(運命…!?そんなの言って恥ずかしくないのか…!?…いや、佳奈美さんは無自覚でやっててもおかしくないな…)
「そ、ソウカモネー」
「ふふ、なんで棒読みなの?…あっ」
その瞬間、佳奈美の靴箱から何か白くて薄っぺらいものが落ちてきて、二人の頭には同時に疑問符が浮かび上がった。
「え?なにそれ」
「わからない…手紙?じゃないかな」
「手紙?なんでわざわざ靴箱なんかに」
そんな周りくどいやり方をしなくても連絡しておきたいことでもあるなら直接話したらいいのに。
そのような思考が柊の頭には浮かび上がってきたのだが、その直後にある可能性が頭に浮かび上がってきた。
(え、これ…もしかしてラブなやつか…??校舎裏に呼び出されるレターか…!?)
よくよく考えてみれば靴箱に手紙を入れるなんてそのような理由しかないし、そのような展開は今までに花音でたくさん見てきたはずだ。
だが先程はなぜか当然のことに気が付かなかった。
その理由はなぜかって?
それは、柊自身がそんな事実を認識したくないからだ。
(佳奈美さんに告白でもするのか…??かなり早い気もするが、一応そこら辺は自由だからな…。まあ別に俺には何も関係ないし、特に気にするようなことでも__)
嫌だ…。
(まあ佳奈美さんは美人だからな。同じ男として気持ちは__)
嫌だ。
(彼氏でも作ればその人に守ってもらえるから一安心__)
嫌だ__!!!
……………。
どうしてこんなにも感情が沸き立ってくるんだ?
心では佳奈美さんは自由にすればいいと考えるようにしているのに、魂がそれを邪魔してきて止まない。
別に彼女とは付き合っているわけでもなければ、最愛の女性でもない。
なのになぜ、ここまで心が締め付けられるのだろうか。
なぜここまで胸が張り裂けそうになるのか。
「柊くん?どうかした?なんだか考え込んでいるみたいだけど…」
「ん!?いや、なんでもないよ。それで、手紙の内容は何だった?」
「ああ、これは私宛のものじゃなかったみたい。多分靴箱を間違えたんじゃないかな?」
「そっか…。なら良かったよ」
「良かった?」
「ん!?いやなんでもない!!!さっさと姉さんを探しに行こう!!」
「あ、うん…」
明らかに早とちりだった。
普通に考えて入学式の次の日から告白するなんて一目惚れにしても行動が早すぎるし、そんな勇気のある奴はもう既に誰かと付き合っているだろう。
(ったく、さっきのは何だったんだ…?妙に胸がざわついたんだけどな…まあ、もうどうでもいいか)
そう考える頭の片隅で、ある感情が柊の心の奥底に芽生え始める。
__彼女は、クロエかもしれない。




