16 勝手に入らないで?
【入りますね】
そう言いながら花音はこちらの返事を待たずしてこちらの部屋に入ってきて、これに対して柊ははしっかりと文句を吐いた。
「…あのさ、勝手に入ってくんのやめてくれない?」
これ以上ないというぐらいのジト目を向けて花音に強く文句を言ってみたつもりだったのだが、花音はなぜか頬を赤くしながら笑みを浮かべた。
「どうしてですか?あ、まあ…柊も年頃の男の子ですもんね…」
花音からは何かを察したような目を向けられ、柊はしっかりとそれに反抗する。
「なわけねぇだろ。普通に考えて、他人の部屋に入る時はその人の返事を聞いてから入るもんだろ。着替えとかしてたらどうすんだ」
「私は気にしませんけど」
「そういう問題じゃないだろ…。じゃあ俺も姉さんが着替えてる時勝手に入ってもいいのか?」
「いいですよ」
「よくねぇだろ!!!???」
凄い、この人強い。
こちらがどれだけ説得を試みても、花音は余裕な笑みでそれを阻止してくる。
それが花音が花音たる所以でもあるのだが、柊にとってはこれ以上なく厄介なことである。
「まあ、柊もそういう年頃ですしね…。例え姉だとしても女の子の下着とかを見たくなりますよね…」
「いややらねぇよ!!!???」
そうそう、花音はこういう事を平気で言ってくるから厄介なんだよ。
全く、男子高校生をなんだと思っているのやら。
そんなの当たり前に決まっt(殴。
「柊は相変わらずえっちですね…」
「今のはたとえで言っただけだよ!?本当にやるわけないだろ!?」
「え〜、やってくれないんですか?」
「なんでやって欲しそうなんだよ」
「だって、私だって弟にそういう気持ちをぶつけて欲しいですもん」
マジで、黙って欲しい。
このままだと非常によろしくないので、本当の本当に黙って欲しい。
だがそれを視線や言葉で表現するだけでは無駄である事を誰よりも知っている柊は話を逸らすという強行手段に出る。
「…んで?なんか用があったんじゃないのか?」
「あ、そうでした」
どうせ花音のことだから「弟を抱きしめたくなりまして」とか「柊エネルギーが不足してまして」とか言って来そうだ。
「実は、生徒会の件で少し話したくて」
あれ、全然真面目な話じゃん珍しい。
非常に珍しく花音が真面目そうな切り出しで話し始めたため、柊は思わず関心して頷いてしまう。
(姉さんも成長したな…)
まるで神に感謝するように天に目を向けたのだが、花音に声をかけられてしまって現実に引き戻されてしまう。
「柊は、お昼に生徒会について考えてくれるって言っていましたよね?」
「ん?ああ、言ったな」
「それが、少し無理をしていたのではと思いまして…」
「ん?どういうことだ?」
花音の言葉の意図は全く汲み取れず、柊は頭の中から疑問が浮かび上がってきた。
それを感じ取った花音は柊の中にあるその疑問を解消させようと若干の暗い表情を浮かべて説明を始めた。
「あの時は、佳奈美ちゃんもいたので少し断りづらかったのではないかなと感じて…柊、前からずっと無理だって言っていたじゃないですか」
「まあ…な。正直生徒会なんて荷が重すぎるって思ってた」
花音の言葉は紛れもない事実で、柊は前から花音に生徒会に誘われていたが、どう口説かれても全部断り続けていた。
その理由は重圧や責任、あるいは自分や花音を守るためであった。
その考え自体は今も変わっていないのだが、その考えの上に佳奈美という存在が乗っかって来た。
それがなぜか柊の心を大きく動かしていて、本人でもなぜここまで前向きに考えるようになったのかは理解できていない。
だがしかし、いまここで花音に言えることが一つだけある。
「でも、俺は別に嫌ではなかったんだ。姉さんにあれだけ説得されて、正直嬉しかった」
柊自身、生徒会に入ること自体が特に嫌だったわけでは無いのだが、これは柊と花音だけの問題では無いとわかっていた。
「だけど、今の俺じゃダメなんだ。生徒会は生徒たちの上に立つ存在として、そう認められるだけの人間じゃないといけない。そういう人間である自信が、俺にはなかったんだ」
「柊…」
こちらが胸の中で感じていた事をある程度打ち明けると花音は嬉しそうで悲しそうという、言葉では言い表せない表情をしていた。
だがそれを見た上で柊はさらに言葉を付け加えるという判断を下した。
「でも、佳奈美さんみたいな眩しくて強い人を見ていると…自分も頑張ろうって思ったんだ。自分もいつかこの人たちに並んでも恥ずかしく無い人間になれるようになりたいって」
「……」
「なんか、色々話しすぎたな。まあ結局、俺は姉さんや佳奈美さんに追いつきたいだけだ。生徒会は、二人に並んでも恥ずかしくなくなったら入るかもしれないな」
「しゅう〜!!!」
その時花音が涙を流しそうになりながら抱きついて来て、柊は驚きをあらわにした。
「ど、どうしたんだよ急に…」
「私は嬉しいです。あの小さかった柊が、気づけばこんなにも大きくなっていて」
「気づけばって、俺たちいつも一緒にいるから気づくだろ?」
「そういう意味じゃありません。もっとこう、精神的な意味です」
「そうか?」
特に柊には自覚がなかったが、花音がそう言ってくれるのならきっとそうなのだろう。
そう感じただけで胸の奥が温かくなり、気づけば花音の背中に手を回していた。
「ありがとう。姉さんのおかげだ」
そして気づけば、そう感謝の言葉を漏らしていた。




