15 反省会
「ごめんなさい…全部私が悪かったです…」
「凄く反省してます…もうこんなことはしないと誓います…」
「…これ、どういう状況?」
十数分ほど佳奈美と散歩をした柊が家に帰ってリビングの扉を開くと、そこには正座をして恐怖を顔に表している母娘の姿があった。
それを見た柊と佳奈美はすぐに犯人の方に目を向けると、彼は何気ない顔でこちらを向いてきて。
「おかえり、二人とも」
「た、ただいま…」
「一体何が…?」
隣に立つ佳奈美は目を見開いて驚きと恐怖を露わにしていて、その中にある疑問を彼に投げつけた。
するとその犯人は謎に笑みを浮かべ始め、含みのある口調で説明を始めた。
「ん?ああ、これかい?これはただ、少し考えなしに行動する子猫さんたちを躾けただけだよ。そしたら勝手にこうなっちゃって、困ったものだよ」
犯人はやれやれといった風な笑みをこちらに向けてきて、彼のことをあまり知らない佳奈美は恐怖のあまり一歩後退った。
だが彼の事をよく知る柊は呆れたようにため息をついた後、犯人に向かって強気な言葉を漏らした。
「ったく…父さんはたまにやりすぎなんだよ」
柊が言った通り、この母娘をビビらせているのは柊の父親の雄一で、雄一は柊の言葉に対して苦言を呈した。
「仕方ないだろ?こうやってしないと二人が反省しないんだから」
「それはそう」
「だろ?だから今回俺は悪くない。悪いのは香賀さんに恥を晒しただけでなく多大なる迷惑をかけたこの二人だ」
「間違いない」
「柊くんもそっち側なんだ…」
さっきまで雄一に文句を漏らしていた筈の人物がいつのまにか雄一に味方するようになっていて、佳奈美には戸惑いの目を向けられてしまった。
だがその程度でこの男たちの絆が引き裂かれることなどあらはずがなく、二人は同時にキリッとした目を佳奈美に向けた。
「佳奈美さん、これは仕方のないことなんだ。一人の家族として、家族の不始末にはちゃんと怒ってやらないといけないんだ」
「不始末なんてことはないと思うけど…」
「いや違うんだよ香賀さん。仮に君が迷惑などかけられてないと思っていたとしても、俺たちから見ればかなり迷惑をかけているように見える。これは今のうちにちゃんと直させておかないと、いつかとんでもない事をやらかすかもしれない」
「そういうこと」
「は、はあ…」
柊と雄一の非常に説得力のある言葉を聞いた佳奈美はなぜかジト目を向けてきて、二人の事を許してやるような言葉をかけてくる。
「まあいいじゃないですか。二人はただ柊くんへの愛が抑えきれなくなっただけなんですから」
「「それが問題なんだよ」」
「…確かにそうかも…」
普通に考えてみろ。
息子を誰にも取られたくなくて自分が産んだのを主張する母と、弟を誰にも取られたくなくて血縁について語る姉だぞ。
どう考えても不審者だろ。
「んで、結局二人は反省してんの?」
「「はい…」」
「もうしないと誓えるか?」
「「はい…」」
「なら許そう」
「「はい…!!」」
最後だけ返事が大きかったが、まあそれはどうでもいい。
柊にとってはこれからあのように取り合いをされることがなくなるという事がとてつもなく大事であって、ジト目を向けながら心の中では大きく拳を握っていた。
(よし…!これでようやく変に絡まれなくなるぞ…!今晩は飯でも食いにいくか〜)
柊は雄一とアイコンタクトをとり、この問題の解決に大きく貢献してくれた父に感謝を伝えた。
そして沙也加と花音がしょんぼりとしながらソファに座るのを見つつ、柊は佳奈美の方を向いた。
「佳奈美さん、そろそろ家帰る?多分今からゲームとかの流れにはなりそうにないし」
柊はこの気まずい雰囲気の中に居させるのは悪いと感じ、佳奈美に家に帰らないかという提案をした。
佳奈美はその言葉に対して否定的な言葉を返してくる可能性も考えながらの提案だったのだが、その考えは裏切られることになる。
「そうだね…。そろそろ迷惑になるだろうし、私はお暇させてもらうね」
「別に迷惑でもないけど…ま、あんまり遅すぎると親も心配するだろうから帰った方がよさそうだな」
佳奈美は荷物を手に取り、去り際にみんなに挨拶をした。
「今日はありがとうございました。私は隣に住んでいるので、もしよければ隣人として是非仲良くしていただけると助かります」
「え!?隣なの!?」
「マジかよ…」
「やっぱり二人は知らなかったのか」
「まあ言ってないですからね」
てっきり花音が言いふらしているのかと思ったが、思いの外花音は佳奈美についてあまり喋っていないようだった。
そのおかげで両親は驚いたように目を見開いたが、特に何かを言うこともなく佳奈美を見送った。
「じゃあ、お隣さん同士よろしくね〜」
「何かあったらすぐに言ってくれていいからな」
「はい。ありがとうございます」
佳奈美は小さく頭を下げ、そして玄関につながる扉を開いた。
「それでは、また機会があったら」
「またね〜」
「またいつか」
「私たちは明日も会えますけどねっ」
「学校一緒だしな」
「ふふ、そうですね。柊くんと花音さんは、また明日」
「ああ」
「はい」
小さく手を振り合った後、佳奈美は家に帰って行った。




