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13 ふざけすぎよ


「__う…ゅう……(しゅう)…?」

「!!…」

「どうしたんですかボーッとして。早く柊も佳奈美(かなみ)ちゃんに説明してあげてください」


気がつけばかなり昔の記憶に耽ってしまっていて、思わず現実から目を背けてしまっていたらしい。


花音(かのん)が声をかけてくれていなければもしかしたら記憶の世界から抜け出せなくなっていたかもしれないほどにあのひと時は柊の記憶に深く刻まれていた。


だが今はこうやって現実世界に目を向けることができて、今まさに疑問の目を向けてきている少女に目を向けた。


「えっと…何を説明させようとしてんの?」

「柊くんが今までで一番泣いたエピソードだよっ」

「何を説明させようとしてんの???」

「だから、柊くんが人生で一番大泣きした時の話を訊きたいのっ」

「それはわかってるって」


今結構大事な過去から戻ってきた瞬間で気持ちの整理がやや追いついていないのにも関わらず、彼女らは楽しそうにこちらの幼少期のことを聞き出そうとしてくる。


だが当然のことながらそれに正直に答えるわけがなく、目線を思い切り逸らして何とか逃げる。


「あ、今日そういえばスーパーの特売日だったなぁ」

「それならもう行ってきたわよ?」

「…。あ!今日の風呂掃除当番俺だった!」

「それなら後でいいんじゃないかな?」

「……。あ!!明日の授業の準備しないと!!」

「それならもう済ませてますよ?」

「????????????」


いつそんなことする暇があったの???


だって君、さっき家に帰ってきてから一度もリビングから出てないでしょ?


一体いつそんな神技をやってのけてやがったのか。


うん。マジでそういうのやめような。


「で、早く説明してくれませんか?そろそろ待てないんですけど」

「………」

「ふぅん、あくまで黙り込むんですね…。そちらがその気ならこちらにも策がありますよ?」

「そらが、あおいですね」

「よし、いいでしょう。お母さん、やってしまってください」

「ふふ♡じゃあ遠慮なく♡」


花音が指示を出した瞬間沙也加(さやか)はこちらに思い切り抱きついてきて、まるで小さな子供をあやすように頭を撫でてきた。


「よしよし♡あなたはいい子よ〜♡」

「?????」

「男の子でも沢山泣いていいのよ〜?♡柊はかっこいい子だからね〜♡」

「??????????」


え、何をしてんの?


佳奈美という今日初めて会ったばかりの人物がすぐ側にいるにも関わらず母親はニコニコと笑いながら柊を抱きしめていて、我が子に対する愛を剥き出していた。


それを何とか理解した上で、もう一度だけ言わせてほしい。


え、何をやってんの?


普通に、とてつもなく冷静に考えて、今のこの状況は佳奈美からすればドン引きモノだろう。


だがそんなことを顧みずに沙也加はギュッとこちらを抱きしめているわけで、柊はとてつもない羞恥心に襲われる。


「ちょ__何してんだよ!!??」

「可愛い息子によしよししてあげてるのよっ♡」

「普通家族以外がいる時にするか!!??」

「して何が悪いのかしら?」

「っ…!何なんだこの親…!」


どうやら今の沙也加に恥などという言葉は無いらしく、こちらのツッコミにガチの疑問符を飛ばしてきやがった。


まさか天然系が身内にいると厄介だという事実を現実で受け止めなければならない日が来るとは思っても見なかったため、柊は思わず目の前で文句を漏らした。


「全然常識が通用しねぇ…!」

「ふふ、柊はいい子ね〜♡」


だがその程度では母親に通用する筈もなく、彼女は次第に力を強めてより強固にこちらを抱きしめてきた。


「ほら♡もっと甘えて__」

「沙也加、そろそろやめておこうか」

「父さん…!!」


そろそろ佳奈美にドン引きされるレベルまで甘やかされそうになった瞬間、まさに神とも甘えるような神がこちらに助け舟を出してくれて、柊の身体はようやく解放され__


「嫌よ?だってこの子は私のものだもの」

「いや何言ってん」


沙也加は謎に諦め悪く愛人のような言葉を漏らしたのだが、それがなぜか近くにいた人物の心に火をつけてしまう。


「違います!柊は私のものです!」

「なんで入ってくんの!?」


柊のこととなると謎に独占欲が強い花音には先程の言葉は聞き捨てならなかったらしく、まるで小さなことで親に文句を言う子供のように口を尖らせている。


(頼むから話をややこしくしないでくれ…)


折角の父親が助けてくれようとしたのに、彼女らは全くその言葉を聞き入れずにケンカを始めてしまった。


「ううん、柊は私のお腹から産まれたのだから私のものよ?」

「いいえ、私と柊は両親の血を継いで産まれていますから私たち姉弟は全く同じ血と遺伝子を持っています。でもそれに対してお母さんは違いますよね?柊とは血も遺伝子も全部が同じというわけではありませんよね?よって柊は私のものです」

「「「……」」」


本当に、いい加減にしてほしい。


友達の前で親子喧嘩なんかみっともなさすぎるし、冷静に考えてみて相手側からすれば迷惑すぎる。


「なあ、二人とも」


流石に今日できたばかりの女友達に不快な思いをさせるわけにはいかないという正義感が発動し、仲の悪い親子に対して苦言を呈す。


「喧嘩するなら、もうしばらく口聞かないからな」

「「!!!???」」


その言葉がリビングに響いた瞬間に二人は一斉に目を見開き、そして弁明の言葉を何度も何度もかけてきた。


だがもう口を聞かないことを心に決めたため、柊は全部の言葉を無視して佳奈美を外に連れ出した。


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