12 ずっと、このままで…
「えっと…リ、リオ…くん?」
それは最愛の彼女と付き合い始めた直後で、リオの心は半ば暴走しつつクロエに始めて名前で呼んでもらった。
その時の高揚感はまるで天にも昇るような心地良さで、リオはあり得ないほど頬を赤く染め上げたままこちらも彼女の名を呼んだ。
「ど、どうした…?クロエ…?」
その時のリオは柄にもなく緊張しまくっていて、正直彼女の名をうまく呼べた自信すらない。
だがクロエはいつになく顔を紅潮させて恥ずかしがっていて、それを見てリオは上手く名を呼べたことを自覚する。
「学校では…まだ恥ずかしいから苗字で呼ぶね…」
「それがよさそうだな…もし名前で呼び合ってるのがバレたらルークあたりに揶揄われそうだし」
「そうだね…私たち、今日から恋人なんだね」
「…っ。まあ、そうなるな」
二人は恥ずかしながらも何とか会話を試みたが結局沈黙が空気に漂い、付き合ったばかりで話したいこともたくさんあるのに二人ともが黙り込んでしまった。
(……)
今までの努力が全て報われたリオの脳内にはどの感情も湧き上がってこなくて、ただ燃え尽きそうな暁を眺めることしかできなくなった。
「ねぇ…」
そこでクロエが沈黙を破る一撃を放ち、そのまま追撃を加えてくる。
「さっきは…たくさん褒めてくれてありがとう…。私、ここまで心を込めて褒められたのなんて始めてだよ」
先程リオはクロエに対して情熱的な告白をしたため、クロエはそれについての話を始めてきた。
それに対してリオはかなりやらかしたと思っているのでかなり心臓をバクバクさせていたのだが、クロエはそれに気づくこともなく話を続けた。
「その、私も君の好きなところいっぱいあるんだけど…やっぱり恥ずかしくて…」
クロエは目線を音速で彷徨わせながらこちらに話していて、彼女が羞恥や緊張、そして申し訳なさを抱えていることがわかった。
だが流石にこんな可愛い彼女にそんな申し訳なさは抱えていて欲しくないので、リオはすぐに彼女を勇気づけるような発言を始めた。
「ううん、別に無理しなくていいよ。俺だって、正直ほぼ暴走して言ってしまっただけだし…。シラフなら絶対無理だったからクロエの感情は当然のことだよ」
あくまで優しく、そして彼女の心に寄り添えるような声色で話していく。
「だから別に今無理してまで気持ちを伝えようとしなくて大丈夫だよ。自分が言いたくなった時に言ってくれるのが、俺は一番嬉しいから」
そうやって言葉をかけた瞬間クロエは一瞬目を見開いて何か新たな発見を得たように見えたが、彼女はすぐにこちらを向いて感謝を伝えてきた。
「ありがとう。じゃあその、今はとりあえず保留ってことでいいかな…?」
「ああ。クロエが俺を見ていいなって思った時に言ってくれたら良いし。てか、こんな可愛い彼女に褒めてもらえる可能性があるなんて幸せすぎるわ俺」
場を和ませるためにいつものようにちょっと冗談めかしく言葉を放ち、クロエの緊張や恥じらいを薄めていく。
「もう、また君はそうやって私のことを揶揄うんだから」
「いや別に揶揄ってなんかないぞ?これは俺の本心だ。さっき告白の時の言葉が聞こえてなかったのか?」
先程の告白でこちらがクロエのことをどう思っているかを嫌というほど伝えたつもりのため、自信を持ってそう問いかけた。
するとクロエは告白の時の言葉を思い出したのか、頬をまた赤く染めて視線を逸らした。
「それはその…聞こえてたけど…」
「なら俺が揶揄ってなんかいないってわかるだろ?俺は本心でクロエのことを可愛いって思ってる。あ、ちなみに今のは言いたくなったから言っただけ。クロエもこんな感じでさ、自分のタイミングでいいからな」
「う、うん…」
クロエは小さく頷き、直後に意を決したように大きく声を上げた。
「あ、あの!!」
「ん?どうした?」
「わ、私その…!!」
一度間が空いて、直後に気持ちのこもった言葉が空気を切り裂いた。
「リオのことが、好きだから…!!!」
クロエはもう爆発してしまいそうなほど全身を赤くしながら気持ちを伝えてきて、それを真正面で聞いたリオは倒れそうになるほどの幸福感に襲われた。
だが何とか意識を保って大好きな彼女の顔を見て、その言葉に報いるように感謝の気持ちを伝えた。
「ありがとう…!俺も、クロエのことが好きだよ」
何だか涙が溢れそうになってしまうが、何とかそれを抑えて笑顔を向けた。
するとクロエは感極まったのかこちらに勢いよく抱きついてきて、そのまま胸に顔を埋められた。
「ど、どうしたんだ急に!?」
明らかに現実には起こり得ないほど都合の良い展開に不信感と驚きを抱いたリオはすぐにクロエに理由を訊いてみると、彼女は胸の中で小さく言葉を発してきた。
「なんだか…嬉しくなっちゃって」
「そ、そうか…?」
「うん…だからその、少しの間このままでもいい…?」
クロエの声は微かに震えていて、今でも羞恥を感じていることが伝わった。
「いいよ。少しじゃなくて、ずっとでも」
それに対してリオは優しく抱きしめて包容することを選び、最愛の彼女との甘いひとときを過ごしていった。




