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11 親参上!!


「で、この時の(しゅう)ったらそれはもう可愛らしくお姉ちゃんって甘えて来てですね」

「へ〜、神庭(かんば)くんって花音(かのん)さんのことが大好きなんだ」


ただ入学式があった日の自宅というだけなのに、なぜこんなにも地獄のように感じられるのだろうか。


その原因は考えるまでもなくて、間違いなくこの姉のせいである。


花音は今日友達になったばかりの佳奈美(かなみ)を家に招いただけでなく、半分黒歴史と言っても差し支えないアルバムという凶器を見せつけていた。


そしてそれを見た佳奈美は意外そうな目でこちらを見てきて、何とも言えないとてつもなく気まずい空気が流れた。


まあ気まずく思っているのはこちらだけなのだろうが。


「ふふ、私はお姉ちゃん大好きな弟もいいと思うけどな。私は一人っ子だからあんまり気持ちはわからないんだけど、きっとお姉ちゃんがいたら私だってそうなるだろうし」


恥ずかしくて佳奈美の方を見れない柊に対して佳奈美はそう言葉をかけてくるが、それでも彼女の顔を見ることはできない。


「いや…そういう問題じゃなくて…」


柊は目線をキッチンの方に寄せたまま口を動かし、佳奈美の励ましを虚空に捨て去った。


「普通に同級生の女子に昔の写真見られるのとか無理だろ…恥ずか死ぬ」

「あ…そ、そうだよね。ごめんねっ」

「ふふ、佳奈美ちゃん?柊の言葉は聞く必要ありませんからね?これはさっきちゃんと承諾を得た上でしているのですから、佳奈美ちゃんが気負う必要はありませんよ。なので、次に進みましょう」


花音の言う通り、このアルバム鑑賞は佳奈美の意見を尊重すると言う約束のもと行われているため、柊としても特に口を出せずにいた。


なので花音は当然の如くアルバムのページを進め、次は小学三年生の頃の写真を見せつけてストーリーを話し始めた。


「あ!この写真は近くの公園で家族とボール遊びをした時のです!この写真の柊、たくさん笑ってて可愛いでしょう?」

「そうですね。無邪気な子供って感じがしてとても可愛らしいですっ」

「やっぱりそう思いますよね〜♪あ、それで次の写真が__」


その瞬間、玄関の扉が開いた音が響き渡り、男女の声が聞こえてきた。


「「ただいま〜」」


三人は同時にその声の方向を向き、その直後にリビングルームの扉が開かれて。


「あら、やっぱりお友達が来ていたのね」

「君はさっきの…香賀(かが)さんだっけ?」

「あ、はい。お邪魔してます」

「もう家に招待するほど仲良くなったのね〜♪お母さん嬉しいわ〜♪」


このニコニコと笑いながら柊たちの関係性を喜んでいるのが柊と花音の母である沙也加(さやか)だ。


見ての通り彼女は我が子の話となるとうるさくて、現に今も嬉しそうにこちらにやってきた。


「あら?もしかしてアルバムを見ているのかしら?」

「はい!昔の可愛らしい柊について教えてあげていたんです」

「あら〜♡私も混ぜてもらえる?」

「は、はい。どうぞ」


沙也加は自分の立場など気にせずこちらに混ざってこようとしたため佳奈美は若干驚いたような引いたような目をしていたが、それでもこの輪に入ることを許してしまった。


それが柊の首にトドメを刺すということも知らずに。


「これは…柊が三年生の頃ね?」


沙也加はさりげなく佳奈美の隣に座り、花音が手に持っているアルバムを見て目を輝かせた。


「ふふ、この頃の柊はよく笑う子だったわね〜」

「そうですよね!何かあるたびに笑顔を振り撒いていてとても可愛かったですよね!」


あ〜あ、始まっちゃった。


この二人、結構混ぜると危険なタイプだからせめて友達の前では混ぜないようにしていたのだが、それはもう叶わぬ夢になってしまった。


(もう俺の人生は終わりだ…父さんも助けてくれそうにないし…)


週は先程から父の雄一(ゆういち)にヘルプの視線を送っているのだが、彼も花音と沙也加がこうなったらもう手がつけられないことをわかっているため、向こうからは苦笑いしか返ってこない。


(クソ…俺は明日からどの面下げて学校に行けばいいんだ…)


もしかしたら明日学校に行くと佳奈美がクラスメイトにこの話を言いふらしていて、教室中からヒソヒソとシスコンを笑う声が聞こえてくるかもしれない。


もしかするともう既に佳奈美に心の中ではキモがられていて、明日からは話しかけることすら許してもらえないかもしれない。


(そんなの…キツすぎる…ッ!!)


柊は頭の中でそんな被害妄想を繰り広げて身悶えているのだが、その間にも女性三人は話を進めていて。


「そういえば、この後すぐに転んじゃって大泣きしたのよね〜」

「そうでしたね。確か私に思い切り泣きついてきましたよね?」

「そうそう!お姉ちゃん痛いよ〜って助けを求めてたわね〜♡」

「それで私は全力で頭を撫でてあげたりしたんですけど、それでも全然泣き止まなかったんですよね〜♪」


特に花音と沙也加は楽しそうに笑っていて、昔の柊のことを思い出しながらお茶を楽しんでやがる。


彼女らはここが女子会の会場でも何でもないということを気にもかけず、ついに佳奈美も女子会気分で質問をし始めてしまう。


「神庭くんって結構泣き虫だったんですか?」

「神庭くん…?誰のことかしら?私たちみんな神庭よ?」

「あ、それはえっと…」


佳奈美は何気なく柊の苗字を読んだつもりであったが、沙也加はなぜか今になってそれを指摘し始めて、佳奈美は頬を赤くしながら困惑を示している。


だが沙也加はそれに全く容赦することなく追い打ちをかける。


「名前で言ってくれないとわからないわ?ほら、誰のことなのかしら?」

「それはその…」


佳奈美は見たことがないぐらい頬を赤く染めていて、彼女が照れているのが一目でわかった。


だがしかし佳奈美としても何とか話を進めないとこのまま気まずい空気が浸透してしまうため、彼女は勇気を振り絞ったように拳を握りしめた。


「し、柊くん…のことです…」


弱々しく、そして微かに聞こえる程度の声量であったが、間違いなくこの場にいる全員の耳に届き、特に柊に至っては感じたことのないような身体の熱さに襲われていて。


(あれ…?どうしたんだ…?なんか身体がめっちゃ熱い…)


ただ名前を呼ばれただけだぞ?


別に友達なら普通のことだし、今までにこんなことになった経験は一度もない。


(なんかこの感じ…記憶にあるぞ…?いつだったっけ…?)


いや、柊の脳にはこのような経験をした記憶が一度だけあり、それを脳の奥底から探し出そうと努力した。


(う〜ん…思い出せねぇ…)


だがいくら記憶を隅々まで探してみても何も見つからず、もう考えるのを放棄しようとした、その時だった。


(あれ…?なんか、覚えてるぞ…?)


この記憶は、脳内ではなく魂からやってきたものか…?


いや、流石にそんなことはあり得ない。


ただの友達に名前を呼ばれただけで魂が反応するなんて、今までに無かったしそもそもあり得ないことだろう。


だが現に柊の魂は過去の記憶を呼び起こしていて、柊は記憶の中にいる人物を見て言葉にし難い感情に陥った。


(クロエ…?)


その記憶とは、最愛の彼女に始めて名前を呼ばれた時の、忘れられない時間だった。


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