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10 話が違うよ


本日新たな友達となった佳奈美(かなみ)が隣の家に引っ越して来ていたということが判明し、(しゅう)は今までにないほど思い切り目を見開いた。


「隣ってことはまさか…香賀(かが)さんのご両親って浩哉(ひろや)さんと(かえで)さん…?」

「え、そうだけど…何で知ってるの!?」


今まで何で気づかなかったのだろうか。


普通に考えて、数日前引っ越しの手伝いをした隣人の苗字は香賀だったし、何ならご両親はご丁寧に佳奈美の名前も発していた。


その名前を組み合わせると香賀佳奈美という名前が完成するのは当然のことであるが、柊は今までに一度もそんなことを考えていなかった。


そのため今日初めて名前を聞いた時も佳奈美が隣に住まう人物であるということを認識できず、今こうやって驚きを全面に出していた。


「いやぁ…実は香賀さんが引っ越して来た日に俺も引っ越しの手伝いをしててな…それがまさか隣の席の人だとはな…」

「そんなことがあったんだ…。だからあんなに早く荷物の搬入が終わっていたんだね。私が帰った時にはもうみんな部屋の中にあってびっくりしたよ」

「ふふ、柊は相変わらず優しいですねっ。お姉さんは鼻が高いですっ♪」


たまたま身体を動かしたくて外に出てたまたま引っ越しの手伝いをしただけでまさかこんな運命的な出会いが発生しているなど考えてもみなかったため、柊はとうとう苦笑いをすることしか出来なくなった。


「こんなことってあるんだな…」

「そうだね…」

「これも運命、ですねっ!」


ただ一人花音(かのん)だけは困惑することなくただ喜んでいる様子であったが、弟の柊は喜ぶ余裕など無かった。


(香賀さんの家が隣にあるってことは香賀さんとはお隣さんで時間さえ合えば一緒に登校したり帰りも一緒になるかもしれないってことかぁぁ???)


人生で初めて出来た女友達がまさかのすぐ隣に住んでいるということを考えると頭の中が混乱してしまうが、何とか首を横に振って理性を保って冷静に立ち回る。


「ま、まぁ…これから隣同士よろしく頼むよ…。何か困ったことがあったら気軽に声をかけてくれていいし」

「うん…その時はぜひお願いするねっ」

「これで毎日遊べますね!では早速今から家に上がって行きますか?」

「「え??」」


花音の突拍子もない発言を聞いた二人は同時に疑問と驚きの声を上げ、互いに顔を見つめ合った。


「えと…無理しなくて良いからな?流石に友達になったばっかりなのに家に行くのは抵抗あるのが普通だから」

「いや、別に抵抗とかはないよ!」

「なら来てくれますか!?」

「それはその…」


佳奈美は発言とは裏腹に何か躊躇っているような素振りを見せているため、花音はそれについて疑問を抱く。


「やっぱり嫌ですか…?そうですよね。流石にグイグイ行きすぎですよね…?」

「いえいえ!別に嫌というわけではなくて…!」


突然悲しそうな表情を浮かべ始めた花音に何とか弁明をしようと佳奈美は慌てて声をかけ続けた。


「実は私、友達の家に遊びに行くという経験がほとんどなくて…それでその、少し恥ずかしいというか照れくさいというか…」


言葉ではうまく言い表せないが、佳奈美の中にきっと友達の家で遊ぶという行為に照れくささを感じているようだ。


まあそれは逆もそうなので柊はもちろん恥ずかしがっている。


「気持ちはわかるよ…。俺だって友達が家に来るなんてほとんどなかったから正直恥ずかしいし」

「君も同じなんだ…」

「…」


二人の意見はどことなく一致していて、二人はこの感情が普通なのだと感じる。


だが当然世界には例外ももちろんいるため、その一人である花音はニコニコと笑いながら手を叩いた。


「ではつまり!二人とも嫌というわけではないんですよね?」

「まあな…」

「はい…」

「でしたら!早速家に入りましょう!幸い今は両親がいない時間ですので、三人でゆっくりゲームでもしましょう!」


花音は嬉しそうに家に向かって進んで行き、佳奈美と柊もそれに続くように家に入って行った。


「「ただいま」」

「お、お邪魔します…」


佳奈美は緊張を声に表しながら家に足を踏み入れ、そして案内されるがままにリビングに入った。


「散らかっててごめんなさい。すぐ片付けますからっ」

「香賀さん、荷物はその辺に置いておいて」

「うん…」


花音は急いでリビングを掃除し始め、柊はお茶とお菓子を用意し始めた。


「香賀さん何飲む?麦茶とかコーヒーとかココアとかあるけど」

「じゃあ、ココアで」

「りょーかい」


先程までは慣れていないからと言って恥ずかしがっていたくせに、柊の動きはどう考えても経験を重ねた人間のものであって、佳奈美は気を遣わせてしまったのではと少し不安になる。


だが今はそれよりもこの新たな環境に適応することに精一杯なため、そんな不安はすぐに消え去って今は部屋中を見回している。


「…」

「ふふ、何か気になる物がありましたか?」

「い、いや別にそういうわけではないんですけど…。ただなんか新鮮だなって思って」

「気持ちはわかります。私もお友達のお家に行った時は新鮮な匂いとか景色とかを一度堪能しますしね」


そう言って花音は佳奈美の目線の方に目を向け、そこにあるものを見て敏感に反応した。


「!!!もしかしてアルバムに興味があるんですか!?」

「え、いやまあそれは…はい」

「!!!流石佳奈美ちゃんです!!!」

「え、ええ…」


どうやら二人は仲良さそうにアルバムを見る流れになったようだが、柊は特に気にするでもなくお茶とお菓子を持って行った。


「アルバム鑑賞会すんの?」

「はい!佳奈美ちゃんに昔の柊の可愛さや私たちの仲の良さを教えてあげるんです!」

「へ〜それは楽しそうだな。じゃあ俺は一人でゲームを…」


ん?ちょっと待て。


何かがおかしいような__


「いやちょっと待て!!!俺の写真見るのか!!??」

「はい!佳奈美ちゃんに柊の素晴らしさを教えてあげるんです!!」

「マジでやめろぉぉぉおぉぉ!!!!」


思春期の男子高校生である柊にとって、同級生の女子に昔の写真を見られるなど死ぬも同然。


そのため必死で花音のことを止めようと声をかけるが、ここで花音が奥の手を使ってくる。


「ふふ、ではここは今回の主役である佳奈美ちゃんに決めてもらいましょうか」

「え、私ですか?」

「はい。佳奈美ちゃんが私の望み通り見たいのであればみんなで一緒にアルバムを見る。柊の尊厳を守るために見ないというのであれば私も諦めて他のことをします。それでどうですか?」

「はぁ…いいんじゃないか?佳奈美さんはどうだ?」

「…わかりました」


どうせこちらにその勝負を拒否する権利などないため特に何か口を出すわけでもなくなくただ佳奈美の判断を待つ。


「私は…アルバムを見たいですっ…!!」

「!!!」

「なんだと…!」


柊の望みも虚しく、佳奈美はアルバム鑑賞を選んだ。


すると花音は当然の如く喜びで拳を掲げた。


「やりました!!これで柊の素晴らしさを教えてあげられます!!」

「クソ…!!どうしてこうなるんだ…!!」


普通にゲームするはずだったのに、なぜか自分の過去を晒されることになってしまった。


そんな不条理な現実からは目を背けたくなるが、こう言う時の花音からは逃れられない。


「柊♡ちゃんとあなたも見るんですよ?♡」

「は…はい…」

「ではまずは柊の赤ちゃんの頃からいきましょうか♡」


花音は嬉しそうに笑いながらアルバムを取り出し、ソファに腰をかけて佳奈美に堂々と写真を見せ始めた。


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