地図
「アグリ、これで良い?」
「アグリ、これはこっちで良いか?」
「アグリ君、俺たちは予定通りに」
「みんな、お願いします!」
昨日話し合った通り、ご飯を食べて仕事に向かった。筋肉さん一行は捜索活動に。父とロットとリユンは、孤立していると思われる家に向かう。ミルさんには動ける村の人と一緒に物資の整頓と管理をお願いしてある。
ロットと共に村に帰って来たリリアンは無事におじいちゃんに合流が出来て、2人とも安心感に包まれていた。そういえば、リリアンが助けを求めてくるよう指示を出したのはこの中の誰なのだろうか……。少し落ち着いたら聞いてみよう。
「さて、俺も行くか!」
そんな声を出して荷物を持ってみんなのいる小屋を出た。
俺がする仕事は村の地形の把握だ。復旧作業をするにあたり、どこからどこまでを国にして、どこに畑を作り、家はどこに建てるのか。すぐに対応できるよう地形の把握と、ある程度の予定を立てよう。紙と目印用に家から持ってきた藁を手にした。
「地図を作るに辺り、場所の名前を決めると分かりやすいかもな……」
そんな事を頭に入れつつまずは、リリアンの書いた地図にあった村の入口にある目印だ。この道を下ればジンさんの住むクネットに繫がる。俺達がこの村に入った時のスタート地点だった。ここにあるのは小さなバス停のように数人入れそうな小屋だ。何に使われているのか、何の目的で建てられたのかは不明だが分かりやすい村の入口となっている。ここをそうだな……。
「ジンさんの家に行く道だから、――ジンドリン」
少し安直すぎる気もするが、まぁとりあえず分かればいい。こういうのはシンプルの方が良いだろう。地図に名前を書き歩みを進めた。
ジンドリンから村を見下ろしながら右方向に進む。方角的には俺の住む村があるホルン側で、ロットが通って来た道を目指す。明らかに作られた道を少し登っていくと同じような小屋の屋根が見えてきた。それにしても何でこんな村から離れた場所に道を作ったのだろうか、違和感を覚える。
ロットたちが目印にしたであろう小屋の場所にも名前を付けて分かりやすくする。
「アグリン……いやさすがに無しだな」
自分で考えておいて何だが、即決で自分の頭に出てきたそんな名前を排除した。それで、新たに思いついたシェリンの名を紙に書いた。
「問題はここからだな」
ここからは山が崩れてしまった場所を含むため、危険が増す。まずはどんな危険があるか、どんなリスクがあるかを考える。そこから対応策を導き出して行動していく。昔教えてもらった安全の考え方だ。
とりあえず、山が崩れていない場所を歩くため山を登る。地形を把握ながら紙に地図を書いていく。
「アグリ君、何やってるの?」
「――えっ!?」
こんな場所で突然名前を呼ばれ驚きながら振り向くと何故かリリアンの姿があった。何やってるのってそれはこっちのセリフだ。いつから居たのか、こんな危険な場所で。
「何って、新しい地図を描いてるんだけど……、リリアンこそ何でここに?」
あたふたしながら聞いてみると、リリアンは崩れた場所を指さし寂しそうに言った。
「ここ私のお家があった場所なんだ」
「そうだったんだ……」
かける言葉が見つからず、リリアンが楽しく過ごしていたであろう場所を眺めるしかなかった。
「でも、アグリ君が新しいお家作ってくれるんでしょ?」
ニヤニヤと頬を上げ、俺を見上げてきた。そんなリリアンの頭をポンポンと優しく撫で、胸を張って言いきる。
「あぁ、任せろ!」
それにしてもリリアンを一人にしておくのは不安だ。1人で帰らせるわけにもいかない。そのため今日は地図作りを手伝ってもらう事にした。リリアンの手をしっかり握り歩いていく。
「この辺に川ってあるか知ってる?」
「あるよ!」
リリアンは「こっち」と手を引っ張り山の中へと進んだ。二分ほど歩くと水の音が聞こえ、川が見えてきた。
「ここの川の水は飲めるくらい綺麗なんだよ」
「そっか、山からの綺麗な水なんだな」
期待をしながら川を見に行くと、すぐにその期待は裏切られた。想像はしていたが川の水は茶色く濁り、恐怖を覚える程氾濫しかけていた。コンクリートで出来ている川ではないので当たり前か……。危ないのであまり近づくことはせず、リリアンの言葉に従って川の位置を紙に書いた。
本当は川から水をひき、田んぼを作りたかった。時間があれば可能だろうがこの件は後回しだな。水に関して、しばらくの間は魔石に頼ろう。
その後、お昼ごろまでには村の半分を回り終えた。これまで木に藁を巻き付けて、目印を付けてきた。そして今いる場所を地図上で村の半分とした。
「ほら、これ食べな」
「ありがとう」
今日は一人分のパンと水しか持ってこなかった為、リリアンに半分を渡す。お昼休みには、サンドリンでどんな生活をしていたのかを聞いていた。食料は基本時給自足だったそうだ。冬の前には余分の食料を町まで買いに行く事もあったそうだ。みんなで畑をして、狩にも出かけた事があると言う。冬には村の人が一か所に集まり暖炉を囲んだと言う。そんな話を聞くと、この村は結束力が強く、助け合ってこれまで生きてきたのだろう。俺もそんなサンドリンのみんなに敬意を忘れないようにしよう。そうすればきっと……。
「ここの名前、何が良い?」
「名前?」
「うん、場所に名前があると分かりやすいだろ?」
リリアンは首を傾けながら名前を考えてくれた。しばらくすると「そうだ」と声を出した。
「この先にね、海があるの。ここから降りるのは危ないから行けないけれど、ウミの名前を入れたら分かりやすいんじゃないかな?」
俺と違って、分かりやすくすると言う本質を理解した考え方で立派に思った。確かに海側と名前が分かれば場所のイメージも付きやすい。そこでリリアンが考えた名前。
「ハレウミ!」
「ハレ?」
リリアンにハレの理由を聞くと、晴れると場所によってはこの辺りから海が見えるそうだ。それはキラキラしていて綺麗だからとの事だった。もちろん採用だな。
この場所をハレウミと名付けて地図に書いた。これで村を囲む場所が決まった。皆に説明もしやすくなるだろう。
その後、新しい地のハレウミからジンドリンに向かう。道中、これまでと同じように藁で目印を付けて歩き、地図も書いて歩いた。夕方にはジンドリンに到着して今日の仕事は終了した。
「お疲れ様、手伝ってくれてありがとう。足疲れただろ?」
「ううん、大丈夫。楽しかった」
みんなで夜ご飯の準備をして食事を楽しむ。村のみんなも少しづつ体力が回復してきたみたいで、安心だ。動ける人も増えてきて仕事を振り分けても良いそうだ。人手が大いに越したことはないので出来る範囲で仕事を頼むことにした。
「アグリ、お父さん明日暗くなる前には一度家に戻るよ。村のみんなも心配してるだろうしな」
「分かった、ありがとうお父さん」
するとリユンも父と一緒に戻ると言った。ここに来る前の事もある、少しドキッとしたが、そんな消極的な物ではなっかった。
「師匠に応援を頼みたい。材料の事も運搬の事も相談しないと」
「ありがとうリユン。材料はこの村の木を少し使えないかな?」
今日歩いた時、少しばかり不要な木があった。崩れた斜面にもたくさんの木が転がっている。乾かして蒔きにしても良いが、家に使えるならその方が良いかもしれない。ただ専門的な事は分からないしので、最終決定はリユンがする。
その辺りも師匠と話し合う事になった。さて、後はブロードさんが来るのを待つだけだな。
Next:ようこそ、サンドリンへ




