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腹が減っては戦はできヌ  作者: 結野セキ
第二章:少年期

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楽しい一夜

「アグリー、おかわりー!」

「こっちもー!」


 部屋いっぱいに響く、俺を呼ぶ声に「はーい」「今行くー」と大きな声を返す。部屋で楽しそうにご飯を食べるみんなに、おかわりや飲み物を追加していった。


「お兄ちゃん、これもうないの?」

「ごめん、それはもうない……」


 ルツが求めたのは、かぼちゃのスープだ。お裾分けしてもらったかぼちゃを使った。みんな美味しい美味しいと口に運び、すぐに品切れになったのだ。こんなに喜んでくれるなら、筋肉痛になりながら作ったバター制作時間も無駄では無かったと思いたい。キッチンに、振ってもバターが出てこなかったミルクが大量に並べられている事以外は……。

 まぁ、それは良いと割りきれる。しかし、この集まりは何かがおかしかった……。

 部屋を見ると、キッチンに近い場所から父とルツ。隣にアリア、マリーさんが座っている。さらにローラ、ジュリ、ロット、リユンが続き、ブロードさんが居る。そして俺は、キッチンとテーブルを行き来している。もちろん最初は、俺がみんなに楽しんでほしいと招待した集まりだ。しかし、途中でロットが婚約祝いの会にしようと言ったのに……、言ったのに……。


『なんでお祝いされる側の俺が準備をしないといけないんだ!』


 そんな事を心の中で叫んではみたが、みんなの笑顔が溢れ、幸せが満ちているこの家の中では関係ない。みんなが楽しそうで居る、それだけで俺も幸せなのだった。そんな思いは、ここにあるミルクと一緒に流し込もう。


「いつもありがとうな」


 そっと呟いて、最後のアレの準備を始めた。

 ある程度みんなが食事を終えて、手が止まり始めた頃、少しずつ食器類を片付けていく。


「ありがとう、アリア。助かる」

「ごめんね、ずっと喋ってばっかりで」

「良いよ。いつも店では俺がゆっくりさせてもらってるし」


 食器を運んでくれたアリアに、火の魔石と鍋を渡しテーブルに持って行ってもらった。「何するの?」と不思議そうなアリアを上手く誤魔化しながら、準備を続ける。

 俺が今日まで、ずっと楽しみにしていた事をやっと実行に移せる。アリアが用意してくれた火の魔石に鍋を置き、そこに油をひいた。


「お兄ちゃん、何するの?」

「なんだこれ……?」


 ルツもロットも、不思議そうに目の前で何かが起こり始めている様子を見ている。

 前から乾燥しておいたイエローポップを一粒一粒丁寧に外し、鍋が温まるのを待った。


「みんなに見せたかったんだ。ちょっとしたおやつだよ」

「おやつ?」

「そう、その名もポップコーン!」


 見ると、父やマリーさんまでもが興味深々な様子で見守っている。


「爆発しないように合図を出したら抑えて」


 そう言って鍋の蓋をロットに渡す。


「ば、爆発!? 爆発ってなに!? 何が起こるんだ」

「ロットが抑えていてくれれば。――大丈夫だって」


 少し含みを持たせながらそう説得すると、蓋を両手で力いっぱい握りしめ準備が完了した。

 いい具合に鍋が温まったのを確認し、カラカラと音を立てながら鍋に種を流し入れる。均等に火が通るように、軽く混ぜながら様子を見る。油に包まれた種はキラキラと輝き始めた。


「これってトウモロコシなのかしら?」


 鍋を覗き込む見ながら、マリーさんが聞いてきた。


「トウモロコシなんですけど、種類が違うんです。これは茹でても食べられなくって」

「アグリお兄ちゃんって物知りだよね」

「どこで覚えてきたんだか……」


 呆れるように父が頭をかいた。でもこうしてみんなが楽しんでくれているんだ。父よ、そこはノータッチで頼む。

 そんな事を話していると、この世界でおそらく初めての弾け飛ぶ音が響き渡った。


 ポコッ。ポコッ。ポコッ。


 俺は来た来たと鍋をゆする。


「ロット! 今っ!」

「えっ!? え、は、はい!」


 ポップコーンの音に驚いていたのか、離れていたロットを呼び戻し蓋をした。


「なになに、今の!」

「なんか飛んだよ!」

「何が出来るのかしら」

「ロットが一番不安そうね」


 ロットが抑える蓋と一緒に、鍋も懸命にゆする。すると、中で弾ける音が連続して聞こえてきた。良い感じだ!


「アグリ、中でどうなってるの?」

「今忙しい!」


 リユンが茶化すように言って来たが、それどころではない。ずっと準備してきたんだ。失敗する訳にはいかないのだ。けらけら笑うリユンを横目に、必死でポップコーン作りに励む。

 数十秒だろうか、ポコッポコッとなり続けた音が止み始め、鍋を魔石から下ろした。


「完成!」


 自信を持って言うと、「おぉー」と歓声が上がった。


「ロット、もう開けて大丈夫だよ」


 なぜか汗だくのロットに言うと、恐る恐る蓋を上げる。そこには、先ほどの種とは想像も付かないほど、白く膨れ上がった見事なポップコーン姿を現した。


「すごいすごい!」

「なにこれ! さっきと全然違う」

「これが、ポップコーン?」


 鍋から零れ落ちそうなほどのポップコーンに、軽く塩を振って混ぜた。一番疲れてそうなロットに「味見してみて」と言って渡す。ロットは手を伸ばし、一粒手に取った。

 パリッと口に運んだロットは一言呟く。


「うまっ」


 俺は拳を握り、小さく「よっしゃ」と声を出す。


「ローラ! ローラにも頂戴!」

「俺もくれー!」

「私も私も」

「僕も貰おうかな、こんなの初めて見たから」

「私にも少し分けて」

「お父さんの分、取っといてくれよ?」

「美味しい、止まらなくなるわね」


 みんなが手を伸ばす中、大人しかったブロードさんが突然立ち上がり言った。


「アグリ君!」

「は、はい!?」

「国王の孫権限で命じます。大量生産を所望する!」


 余程気に入ったのか命令されては逆らえない。「分かりました、仰せのままに」と頭を下げるとまたも笑いが起きた。


 みんなが楽しそうにポップコーンを口に運ぶ様子を、少し離れて見ていると、ルツだけはあまり食べられていないように感じた。みんなガツガツ行くからなぁ。


「ルツ」


 名前を呼び、振り向いたルツに手招きをする。


「なに、お兄ちゃん」

「食べるか?」


 こっそり別の器に分けておいた物を、ルツに渡した。


「良いの!?」


 「うん」と頷くとひとつ、またひとつと頬張っていく。


「美味しい!」

「そっか。良かった!」


 そんな大人気のポップコーンはすぐになくなってしまい、また作れとリクエストを貰った。心配しなくても植える分の種は残してある。来シーズンはもっと楽しめるだろう。命令もあるしな。

 ルツの持つ器を見ると、まだ少しだけ残っていた。「もういいのか」と尋ね、ルツを見る。


「ルツ? 大丈夫か?」


 ルツは必死に涙を堪えながら頷く。その反動で涙がポトッと一粒、ポップコーンの上に落ちた。ルツは絞り出すように声を出す。


「お母さんにも……。食べさせたかった!」

「うん……」

「お母さんも。ここに居てほしかった……」

「あぁ、そうだな」


 気付けば俺はルツの叫びを受け止めるように、思いきり抱きしめていた。それを見た父も来てきくれ、俺たちを強く抱きしめてくれる。





 みんなが片付けをしてくれている時、ルツに言った。


「今日さ、一緒に寝て良い?」

「うん?」


 ルツは一瞬不思議そうな顔を上げるが、すぐにその訳を理解したようだった。というのも、アリアとマリーさん、それにブロードさんが今晩、家に泊まっていく。アリアとマリーさんは俺の部屋で寝てもらい、ブロードさんは父の部屋になったためだ。それに、こんな夜は心細くなるものだろう。


「今日は来てくれてありがとう」

「おう、楽しかった! また遊ぼうぜ」

「仕事の件、また相談しよう。アグリの小屋の事もあるし」

「いつもありがとう、アグリ。楽しかったわ」


 3人の親友に別れを告げる。ジュリと手を繋ぐローラは少し不機嫌だ。


「まだ婚約! 結婚が決まったわけじゃないのよね?」


 なかなか強気な女の子だ。でも、ありがとうローラ。そう思いながら頭を撫でた。歩きだした4人の背中が見えなくなるまで手を振った。


 片付けが終わり、ルツが身を洗っている少しの間、玄関に出た。見上げると、星が輝いている。あれは宇宙にあるものなのか? それとも魔力で出来てるとか? そんな理解すら出来ない事を考えながら呟く。


「さて、どうしたものか……」

「どうしたの?」


 夜風に当っていると、見上げていた空がアリアの顔で埋められた。


「悩んでるみたいだったけど」


 コクリと頷き、気持ちを話す。


「今日、ルツの話を聞いてみようと思ってる。学校の事とか……」

「そう」

「でも上手くいくかは……」


 自信なさげに背中を丸くしていると、手を握ってくれる。少し驚いてしまい、見ると「大丈夫よ」と寄り掛かってきた。


「アグリは、私の不安も取り除いてくれたんだから。きっと大丈夫」


 俺にだけ伝わるように言った。君は俺の不安を何度も取り除いてくれた事に、気付いているのだろうか。


「ありがとう」


 静かにそう伝えた。

 冷えるからと、中に入るよう言ってドアを開けた。アリアが家に入りドアを閉めると同時に何か言った気がする。何だったのだろう。

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