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腹が減っては戦はできヌ  作者: 結野セキ
第二章:少年期

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コポーション

 雪が積もると、町の行き来も大変になった。雪が積もった時の馬車の移動はどうするのかと思っていたが、まさかこんな方法があったとは。10センチほどの雪であれば、馬車は強行突破できる。しかし、あまりに雪が多い場合は特別な馬車が登場するという。それは融雪馬車だ。一度も見たことは無いが、馬車に魔石をくっつけて雪を溶かしながら走るらしい。お客さんを乗せることは無く、雪を溶かし馬車の通る道を作るためだけの馬車だ。かなり眩しく光る馬車らしく、それを見ようとする人も居るとか居ないとか。

 孤児院に行こう行こうと思ってはいるが、タイミングが合わず顔を出せていなかった。ブロードさんとの約束の日、少しの時間孤児院に寄る事が出来た。予想通り子供たちのご機嫌は斜めだった。お土産を持って来て良かったとつくづく思う。ローラが教えてくれた雪に絵を描ける魔石をたくさん用意しておいた。みんな喜んで受け取ってくれて、ご機嫌は回復できた。孤児院を出る時には苦戦を強いられたが、子供たちと旅行の約束を半強制的させられ、事なきを得た。


 ブロードさんとの約束はアリアの店で待ち合わせだ。お昼過ぎとの事だったが早めに着いてしまった。何だかアリアに会うのも久しぶりな気がして嬉しい。そんな気持ちを抑え付け、ドアに手を回す。


「……の気持ちは……い」

「……、でもお父さんが、……なら……」

「アリアの……に関わる……」

「……」

「アリア……結婚……だよ?」


 店に入ろうとしたその時、はっきりとは聞こえなかったがその単語だけは聞き取れた。体が反応してしまい、駆け出してしまう。

 しばらく走ったが、立ち止まった。心臓がうるさい。走ったからか、結婚の言葉を聞いたからなのか。俺にはしっかり区別がついているのが分かっている。しかし、これを落ち着かせる方法は俺には分からなかった。

 そうは言っても約束は約束。冷たく潮の匂いが混ざる空気で頭を冷やし、冷静になる。


「店に行かないと……」


 力なく呟き、来た道を歩き戻る事にした。

 店の前でどうしても緊張してしったが、力を振り絞りドアを開けた。


「おっ、来た来た。待ってたよ」

「久しぶりね、アグリ」


 店の中には、いつもの2人が待っていてくれた。見る限り特に変わった様子は無い。俺の勘違い? 聞き間違い? そう思ってしまうほどだった。


「うん、そうだね」


 つい気が抜けた返事をしてしまい、2人は心配そうに俺を見つめる。


「何かあった?」

「ん? ううん、ルツと遊ぶのが大変でさ、疲れが残っているのかも」


 平常を装い、声に出ないように気を付けながら、あははと頭をかいた。

 ごまかしきった後、ルツについて少し話してからブロードさんが「行こうか」と店を出た。それに続いてアリアに手を振った。


「ブロードさん、時間作ってくれてありがとうございます。助かります」

「構わないよ、アグリは何か大きなことを成し遂げそうだし」

「そんなの無理ですよ。俺は俺のやりたいことをやるだけです」


 役所に着くと、不思議な事にすぐに椅子に座る事が出来た。建物に入る時、たくさんの人が居てどうなる事かと思ったが、これもブロードさんのお陰なのだろうか。

 数分2人で待っていると、奥から女性がやって来た。膝上丈のスカート。これがぴったりサイズなのかと疑ってしまうほど、体のラインが出ている服に、ジャケットを羽織っている。お金を出せばこの世界にも立派な服はあるようだ。そんな事を思っていると、その女性は自己紹介を始めた。


「こんにちは、アグリさん、お話は聞いております。担当させていただくフィレモンと申します。気軽にフィンとお呼びください」

「よろしくお願いします。フィレモンさん」

「フィンとお呼びください」

「……。フィンさん」

「フィン! と、お呼びください」

「フィン」


 フィンは満足したのかコクリと頷いた。


「今日はコポーションについてでしたね?」

「はい、お願いします」


 フィンはまっすぐ俺を見て「では」と話してくれた。


「コポーション、分かりやすく魚の売買をしていてコポーション申請をした方の例を出したいと思います、そうですね、その人をシリと呼びましょう」


 フィンは一枚の紙を机に広げた。コポーションの説明資料のようだ。


「シリはもともと仲間との釣りが趣味だったようです。そんな中、釣りを仕事にしたいとの事で申請を出します。みんなでお店を作り、魚を売る。シリが給料を支払い、他のみんなに働いてもらう。これがコポーションの形です」

「それなら申請を出さなくても出来そうですけど……」


 法律で決まっているのかもしれないが、俺たちの村が野菜を売るためにロットの父、ロズベルトさんに売ってもらっているのはコポーションではないらしい。コポーション申請をするメリットが他にあるのだろうか。


「そうですね、申請を出していない人もかなりの数、居られると思いますよ」

「申請をすると何か良いことがあるんですか?」


 ルツが俺にコポーションを進めたのはきっとルツにとって何かメリットがあるからだろう。俺はそれが知りたい。

 フィンは机にある資料に目を落とし、指を置いた。


「ここにもある通り、まず挙げられるのは収め物の低減です。アグリさんは農業でのコポーションとの事なので、全体的な収め物は今より増えるかと思いますが、申請有り無しを比べると圧倒的に申請しておいた方が楽になると考えられます」


 なるほど、孤児院の畑が本格始動し始め、ダリアさんや将来的にリラヤなんかを雇った場合、とても助かる事だろう。このメリットだけでも申請する価値はありそうだ。でも資料にはまだ他にも書いてあった。


「他にも、申請をしたコポーションは300日に一度、国からお金が出る事になっています。この額はコポーションの規模によって変わります」


 補助金制度。具体的な額は申請を出してからのようだが、貰えるなら貰っておきたい。

 しかしかなり魅力的な制度なのに、飛びつかない人が居るのも事実。何かデメリットもあるはずだ。フィンにその事を聞いてみると簡潔にズバッと言い放った。


「面倒くさい!」

「えっ……」


 フィンの話を聞くと、本当に面倒くさい事が分かった。申請時、総資産や起業者の情報に加え、雇う事になる人の情報。また俺の場合畑の大きさ、生産予定の物、収穫予定量などを調べなくてはいけないらしい。さらに、コポーションを作って300日ごとに、儲けたお金や給料など、毎回記入し提出する必要があるようだ。異世界に来て確定申告のような物を作らなくてはいけないとは……。


 そうとはいえ、話を聞けば聞くほどルツがコポーションを勧める理由が見えてこない。これまでルツに直接関与する話は出てきていないように思える。そこ率直に聞いてみる事にした。


「個人的な話なんですが、魔法使いの妹がコポーションを勧めてきたんです。その理由が分からなくて。何か分かったりしませんか?」


 フィンは考える事も無く「例外的な要素ですが」と前置きをしてから話してくれた。


「コポーション専属魔法使いと言う制度があるんです」

「なんですか、それ……」


 説明を聞きいてきて、初めて魔法使いが出てきた。これがルツの思っていた事なのだろうか。

 フィンは別の資料を出してきて説明を始めた。


「アグリさんが申請する態でお話しますね。この制度は、アグリさんが魔法使いさんを雇う事ができるようになります」

「あまり例外感は無いですけど……」

「そうですね。例外の理由は、魔法使いがアグリさんの申し出に了承する事がほとんど無いからなんです」

「と言いますと?」


 フィンは資料の『例』と書かれた場所を指さし、分かった? と言うように俺を見た。


「報酬の……差……」

「その通りです」


 ただルツの場合、報酬は気にしていないだろう。卒業したら雇ってほしいと思っているのだろうか。それついては嬉しい限りだが。

 そう悩んでいると、ブロードさんが補足してフィンに何かを伝えた。すると「なるほど」と呟く。


「もしかしたら、アグリさんが知りたい事はこれかもしれません」


 そう言いながら、片手で別の資料を上に重ねた。


「訓練学校に通う魔法使いさんが、特定のコポーションで働き、且つ卒業資格も得られる。そういう制度があります」

「それだ!」


 心の中がすっきりして、大きな声を出してしまった。ただ、フィンによるとかなり厳しい条件があるとの事で、これまで実用された例はかなり少ないのだと言う。


「条件って……」


 フィンは指で資料のある部分をクルッと囲み「こちらになります」と言った。


「コポーション側の条件には、1年以上の実績。また経験ある専属魔法使いが2人以上働いていて、そのうち1人は白魔女である事が条件となっています」


 俺の疑問を待つことなく、フィンは続けて訓練生の条件も話し始めた。


「1年以上の通学と一定以上の成績、さらに特別試験の合格が必要となります」


 すべての条件を聞き、例が少ない事を納得した。流石に厳しすぎる。それに理解できない部分もある。白魔女ってなんなんだ……。



 その後、年齢に問題が無いのかなど、いくつか補足の質問もして、役所を後にした。

 正直、教えてもらった条件の中でルツはクリア出来るのだろう。妹は学校の中でも優秀な生徒だ。妹を救うためにクリアする必要がある条件は俺の問題……。どうする……。

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