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腹が減っては戦はできヌ  作者: 結野セキ
第二章:少年期

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 空はすっかり暗くなり、冷たい空気が肌を通る。この世界のブルからキスレウに変わる季節の匂いは、すっかり身に染みて馴染んでいるような気がした。

 リユンとジュリを送り届けた後、ロットは俺の家へと向かってくれている。ロットが馬を操るため座っている場所の横に腰掛けた。


「ロット、いつもありがとうな。助かってる」

「なんだよ、改まって」

「いや、ロットが居なかったら、とても夢を叶えられそうになかいから」

「それは、みんなで叶えてからまた言ってもらうよ」


 ロットからかっこいい言葉が出た。俺はすぐさまロットの顔を覗き込む。案の定恥ずかしかったのか、それを隠すようにまっすぐ前を見つめ続けていた。


「そうだ、ロット」

「ん?」

「馬の乗り方を教えてくれないか?」

「別に構わないけど、どうして急に? アグリも飛ばしたくなったか?」


 冗談交じりに言うロットだったが、かなり真面目に考えている事だった。

 馬に乗る事が出来れば、アリアの店はもちろん孤児院やコバトさん賢治さんに、時間的にも体力的にも簡単にアクセスできるようになるだろう。何かあった時、前みたいに一晩走らなくて済むし、アリアに臭いと言われる事はないだろう。


「アリアちゃんに会うためか?」

「そんなんじゃないです!」


 そう強めに言ったはいいが、心のどこかでアリアに会える回数が増えるかもなんて考えていた。


「馬って高い?」

「そりゃ高い。俺もまだ買えないから、親に借りてる状態だもんな」


 そりゃそうか……。いくら買うメリットがあったとしても現実問題、今すぐ買うのは難しそうだ。頭の中で考えていると、ロットが1つ提案をしてくれた。


「馬が余ってる時なら貸せると思うぞ」

「さすがに、悪いよ」

「もちろん、貸し出し料はいただくけどな」


 ロットは得意げに言ってくれた。とてもありがたい提案だ。なんだか友達に頼ってばかりな気がするが、いつかからなず借りは返そう。


「ありがとう、よろしく頼むよ」

「毎度あり!」


 ロットがロズベルトさんにも伝えておいてくれるそうだ。何から何まで助けてくれるロットに感謝してもしきれない。

 帰りは安全運転だったロットの馬車を降りて、手を振った。無事に今日も家に帰る事が出来た。


「腹減ったー……」









 次の日、ロットに無理やり連れていかれ、途中になってしまっていた仕事を終わらすため早めに起きた。すると父がすでに朝食の準備を終えていた。


「おはよう、アグリ」

「おはよう」


 父と椅子に座り、早速食べようとした時、父がトマトを指さした。


「今年のトマトはこれで最後になりそうだ」

「そっかぁ、もう冬も近いね」


 トマトが机に並ぶのはこれで最後との事で俺はアレを実行に移すため、トマトに手を伸ばし口に運ぶ。



「アグリ……」

「どうしたの? ペッ!」


 父は俺の行動を見て、大きなため息をつく。


「お父さんな、アグリはいつも良い子だから基本的にアグリの気持ちを尊重して叱らないようにしていたが……、さすがにそれは行儀が悪いんじゃないか?」

「普段はしないので、今日だけは勘弁してください……」


 一度口に含んだトマトを噛み、種だけを吐き出しているのを見て、珍しく少し怒っている様子だった。ただこれは仕方がない事なのだ父よ。今日だけは許してくれ。


 前の世界での野菜の種は買うのが普通で、その方が手間もかからなかった。ただこの世界は、店に並ぶ種はかなり数が少なく、種にしては高いと感じている。そのため、種の購入回数を減らすために、育てた野菜から種の採取を試みている。畑にある、ほうれん草と大根の種は去年採れたものから採取したものだ。来年は白菜やキャベツの種も採取できるはずだ。手間はかかるし、芽がちゃんと出る確率も前の世界とは比べ物にならないが、お金を出来るだけ節約するために何でもやると決め、種の採取をやっている。


「そういえば、向かいのおばちゃんの畑のかぼちゃが鳥に食べられてたから種だけ貰ってきた」


 そんな事を父に話すとまた大きなため息をついて、頭を抱える。


「本当、誰に似たんだか……」


 父は俺から見てもほんの少し嬉しそうに見えた。


 そんな会話をしながら、朝食を終え片付けをし仕事のために家を出た。


 ロットのせいでほっらたかしになっていた鍬を握り、水が溜まらないように溝を作っていく。刃先に乗った土は種を蒔く場所に投げた。排水が上手く行くように、排水路側は少し深めに溝を掘り流れが出来るようにしていく。これで、雪が解けた時も大丈夫だ。


「よし、蒔くか!」


 小屋から乾燥してあった麦を出してくる。このまま種を蒔いても何の問題もないのだが、少し工夫してみる事にした。余っている貝殻の粉末と麦の種を混ぜたのだ。すると、種に白色の粉が付着する。


「これで見やすくなった」


 種だけだと土の上に蒔いた時、どこにどれくらい蒔いたかが見にくく、差が出来てしまう。このため色を付けたのだ。

 先ほど作った溝を歩きながら、白色が付いた種を蒔いていく。土の上には満遍なく白色が広がり、綺麗に蒔くことが出来た。持っている種を蒔き終わり、土を掛ける作業に移る。また鍬を握って畑に向かった。


 土を掛ける時にも白色は役に立つ。土をかけた場所は黒くなり、かかっていない場所は白いままで、掛けなければならない場所が一目瞭然だ。昼休憩を挟みながら土をかけ終わり麦の種まきは終了した。


「ちゃんと育ってくれよ」


 今日蒔いた麦は雪が降る前に芽を出し、その芽は一度雪に踏まれるが、冬の寒さと雪の重さに耐える事で、春に栄養たっぷりの雪解け水を使って丈夫で大きな麦が育つ。


 この日は麦たちにエールを送り、明日出荷の野菜を収穫し仕事を終えた。

Next:旬は旬であることに意味がある

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