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腹が減っては戦はできヌ  作者: 結野セキ
第二章:少年期

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脱穀

 稲刈りが終わり、天気にも恵まれて米の乾燥が完了した。父の腰も徐々に回復し、今日から仕事再開できるそうだ。といっても無理は禁物だ。作業は積極的に俺がやろうと決めている。


「あぁ! いい天気だな!」


 父が外に出ると、背伸びをして笑顔で言った。

 秋は大好きな季節だ。仕事は忙しいが、働きやすいし夏より疲れにくい。何よりも食べ物が美味い。


「行くか!」

「うん!」


 少し雲が多い空の下、父と向かったのは俺が稲を干した稲架だ。父は穂を触って確認すると、嬉しそうに呟いた。


「うん、良い感じだ」


 収穫時の米には約30パーセントの水分が含まれている。それを乾燥させ、15から16パーセントにする。こうすることで、来年まで保存が出来て、米を美味く食べられる。この作業はなかなか難しく、前の世界でも乾燥機とにらめっこしながら乾燥させていたのを思い出す。

 急に乾燥を開始すると品質低下につながるが、その点稲架による乾燥は心配しなくていいのがメリットとなったりする。

 父は穂を見ただけで水分量が分かるのだろうか、俺にはまったく分からないのだが……。


「アグリがこんなに上手く掛けられるなんてびっくりしたよ」

「ジンさんに教えてもらったからね」


 得意げに言うと父は、頭を撫でながら言ってきた。


「ジンさんにお礼を言いに行かないとな」


 そんなことを喋りながら、小屋の奥に入って行き何かを取り出そうとしている。まだまだ腰に不安を残しているため、俺も後についていった。


「アグリ、これを外に出そうか」

「分かった」


 明るい場所で出してきた物を見ると、脱穀機だった。

 しかし、思っていた脱穀機とは少し違って見える。

 俺が見たこのある脱穀機は、足でペダルを踏んでその力で刃が回るものだ。だがこれには、手で回すハンドルのような物が付いていた。これは骨が折れる作業になりそうだ。そもそも魔石か魔力のエネルギーを使えないのだろうか? もし魔石を使った農機具を製品化したら……。


「よし、準備完了だ、やっていくか!」


 父を見ると脱穀機の下に茣蓙を敷いて準備が整っていた。父に合図を貰い、ハンドルを握って回した。それと同時に刃が回り出し、父がその様子を確認する。


「危ないから手を入れちゃダメだぞ」

「うん!」


 父の確認作業が終わると、稲架に掛かる稲の結び目を切っておろし、穂先を回る刃に軽く当てる。バチバチバチと音を立て、稲から外れた米は茣蓙の上に飛び散った。


「アグリ、もう少し下げてくれるか? 」

「分かった」


 そう言って父は手を止めて刃が止まってから、脱穀機を軽く持ち上げた。その隙に茣蓙を少し下げる。


「うん、良い感じだ」


 俺を聞いてから、脱穀を再開した。







「どうだアグリ、面白いか?」

「うん! でも結構大変な作業で疲れちゃった」


 前の世界では稲刈り機、いわゆるコンバインで稲刈りと脱穀を同時に出来ていた。これが今では1つの工程で何日もかかってしまう。農業の大変さを改めて感じる。ただ、違いもあった。


「でもお父さん」

「ん?」


 父は俺の顔をのぞき込む。それを見ながら笑顔で言った。


「大変だけど、この農業好きだよ」

「そうなのか? それは嬉しい事だけどどうしてだ?」


 父は俺の言葉に会った「この」に違和感を覚えたのか聞き返して来た。

 前の農業は大変でしんどいから嫌いだったのではない。それなら今の農業はもっと嫌いになっているだろう。


「大切なみんなと仕事が出来るし、何より大変な思いをして作った米をみんなが美味しいって言ってくれるのが、楽しみだから!」


 違いはここにあった。俺の気持ちだ。


 その後も作業は続いていく。稲架に掛けた稲の三分の一が終了し、今日は終わることになった。



「はっくしゅん!!!」

「おいおい、大丈夫か?」

「うん、米の埃でむずむずしただけ」


 米を収穫したり、籾を擦ったりする時の埃はどうにかならないものか。この世界に来ても苦手な物は苦手だった。


 秋の風にトンボが舞う中、父との帰り道の途中、村のおばあちゃんに呼び止められた。両手に何かを持っているようだ。


「アグリちゃん、これ知ってるかい?」


 おばあちゃんが持っていた物を前に出し、見せてくる。そこにはスタイリッシュな葉の付いたトウモロコシが3本あった。


「甘いって聞いて作ってみたんだけど虫は酷いし、硬くて食べられやしないんだよ」


 トウモロコシが硬い? 何故だ?


「見せてもらっていいですか?」


 トウモロコシを受け取り、葉を上から少し向いてみると、すぐにその理由が分かった。


「おばあちゃん、これ普通のトウモロコシじゃないよ」

「どういう事だい?」

「これ、イエローポップって硬いやつなんだ」


 おばあちゃんは不思議そうに考えていたが、よく分からないといった様子だ。


「これ、貰っていい? 食べ方知ってるから」

「あぁ、好きに使っておくれ」


 この世界にもトウモロコシがあるのかとワクワクした。イエローポップ、その名の通り使い方は……。


「おばちゃん、硬いって言ってたけど食べられるのか?」

「うん! ポップコーンにする!」


 家に戻った俺はトウモロコシを干す場所を作った。風通しが良くて、湿気が溜まらない場所を選ぶ。3本貰ったので1本は、試しにポップコーンを作ってみる事にする。残りの2本は種に残し来年植えてみる事にしようと決めた。


「となると、虫対策か……」


 おばあちゃんも言っていた虫が酷い事。中に入ってしまい薬以外での駆除や対策は難しい。


「来年は、コンパニオンプランツを使ってやってみるか!」


 楽しみになってきた! 今からいろいろ考えておこう。たくさん収穫して、子供たちにポップコーン食べさせたらきっと喜ぶぞ。



 その夜は、少しテンションが上がって眠りにつくのが苦労したのだった。

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