心の声
「終わったー!」
稲刈りが終了し、刈った稲を稲架にすべて掛け終えた。これでとりあえず一段落つく。あとは米が乾燥するのを待ち、脱穀する。新米があと少しで食べられる。
夏も終わりに近づく中、俺は冬までに必ずしておきたい事があった。
「今日は何するんだ?」
父に朝ごはんを渡すと、いつものように予定を聞いてきた。
「ローラちゃんの家に行こうと思って」
「ローラって、ロイスの家か? また急にどうして?」
「うん、ローラちゃんのお古の服を貰えないかと思って」
それを聞いた父は、少し考えている様子だったがすぐに理解したようだった。人差し指を立て、クイズの回答を述べるように、勢いよく言ったのだ。
「あぁ、孤児院の子供たちにか」
さすが俺の父親だ、なんて事を思いながら、朝食の片付けをして家を出た。
ローラのお父さん、ロイスさんの家は少し遠くにあり、農業もしていないため、会う機会も少なかったりする。少し独特な個性を持っている人だが、良い人だ。きっと話も聞いてくれるだろう。
ローラがいつも散歩しているであろう道を歩き、向かった。
村の外れに、ポツンと一軒あるのがロイスさん宅だ。
家に近づくと、庭で奥さんのルハマさんが洗濯物を干しているのが見えた。気付いたルハマさんは、珍しい来客に驚いた様子で俺を見る。ローラの事もあり少し緊張する。
「あら、アグリ君ね」
「こんにちは」
「ローラなら中に居るわよ?」
ローラ? なぜ何も言ってないのにローラなのだろう……。ひとまず要件をルハマさんに話す。
「今日は、ロイスさんとルハマさんにお願いがあって来ました」
「私たちに?」
「お時間ありますか?」
そう言うと、快く承諾してくれた。
洗濯ものを干し終わったルハマさん。その後、家に招いてくれた。
「パパー、今日もアグリ兄ちゃんに会いに行ってくるー」
「ローラはアグリ君の事好きなの?」
「誰にも言わないでよ?」
「言わない言わない」
「んー、す……き……っ!」
やっと気付いたローラちゃん。ロイスさんの膝に乗り甘えていたさっきまでの顔が、真っ赤に染まった。ロイスさんはそんなローラを見てニヤニヤしていた。
「ローラちゃん、今何を話してたのかな? よく聞こえなかったからもう一度聞かせてほしいな」
今まで好き勝手言われてきたんだ、これくらい言っても良いだろう。俺も弱みを握ったぞとドヤ顔で言い放つ。するとローラは立ち上がって、奥の部屋に逃げて行った。ロイスさんは大笑いしている。
「すまんなアグリ君、こんな所を見せてしまって」
「いえ、俺も急に来てしまって、すみません」
ロイスさんが指さした椅子に座り、自分を落ち着かせるように「ふぅ」と小さく息を吐く。するとすぐにお茶が目の前に置かれた。
「それで、何か用だった?」
「はい」と緊張の面持ちで本題に入る。
「少し前、ローラちゃんに聞いたんです、着られなくなった服がたくさんあるって」
「あぁ、確かにたまって来てるな?」
ロイスさんはルハマさんを見上げる。
「えぇ、置く場所がなくなって来てるわ」
「もし、不要であれば俺に譲ってもらえませんか?」
そう言うと2人は不思議そうに見つめあった。
「譲るのは構わないけど、誰かにあげるのかい?」
「はい、フルトにある孤児院の子供たちにあげたくて」
すると2人は納得したように笑みを浮かべた。
「それなら喜んで譲るよ」
「ありがとうございます!」
良かった、これで冬までにちゃんとした服をみんなに着せてやれる。
だが安心したのもつかの間、部屋に逃げて行ったローラが部屋から出てきて、大きな声が響いた。
「嫌よっ!」
でも、ただ駄々おこねている訳ではなさそうだが、親から許可も貰ってしまった。しかもこの話を振って来たのはローラの方だ。何かローラを納得させる案は……。
『すぐに問題を解決しなきゃって思う癖がある』
急にアリアに教えてもらった言葉が頭に浮かんだ。よくよく考えると、元々はローラの服だ。話を聞かない訳にはいかないだろう。ありがとうアリアと、心で感謝しローラに目を向けた。
「ローラちゃん、どうしてそう感じるの?」
「だって……」
ローラは涙をぬぐい、鼻水をすすって気持ちを話してくれた。
「どれも、大切な服なんだもん……」
「でももう着られないだろう?」
ロイスさんがそう言うと、大きく首を横に振る。
「それでも嫌!」
ローラが頑なに嫌がる理由。大切以上の何か……。
俺は自分だったらと、ローラの気持ちを考えてみる事にした。もう使うことは出来ない物、だけど持っていたい物ってはなんだ?
「俺は……」と小さく呟きながら頭を巡らした。
身の回りの大切な物を頭の中で探した。誰にも渡したくない物は。ふと胸に手を当てると硬い物が手に当たる。アリアから貰った、効果の切れた魔石だ。
そうか!
「ローラちゃんの服には、たくさんの思い出があるからかな?」
俺がそう言うとコクリと頷いた。
そうだった。俺が貰おうとした服はただ買ってきた服じゃない、お父さんとお母さんに作ってもらった服だ。一着一着それぞれ思い入れがあるんだ。それがローラにとってはすごく大切で、手放したくないんだ。俺は、ローラの気持ちも考えず、悪い事をしてしまっていた。
「ローラちゃん、ごめん。俺、何も考えてなかったよ」
ローラに近づいて謝ると「うん」と許してくれる。
「話してくれてありがとう」
俺は椅子に戻って、ロイスさんに別のお願いをする事にした。
「お金はきちんとお支払いします。子供たちに服を作っていただけませんか?」
すると2人は同時に言った。
「もちろん!」
そんなこんなで服を正式に購入することになった俺は、まだまだ働かなくてはいかなくなった。それでも俺はこれからが楽しみでわくわくしている。どんな未来が待っているのか、みんなが幸せになる未来を俺は作りたい、そう願った。
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