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腹が減っては戦はできヌ  作者: 結野セキ
第二章:少年期

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心の声

「終わったー!」


 稲刈りが終了し、刈った稲を稲架にすべて掛け終えた。これでとりあえず一段落つく。あとは米が乾燥するのを待ち、脱穀する。新米があと少しで食べられる。



 夏も終わりに近づく中、俺は冬までに必ずしておきたい事があった。


「今日は何するんだ?」


 父に朝ごはんを渡すと、いつものように予定を聞いてきた。


「ローラちゃんの家に行こうと思って」

「ローラって、ロイスの家か? また急にどうして?」

「うん、ローラちゃんのお古の服を貰えないかと思って」


 それを聞いた父は、少し考えている様子だったがすぐに理解したようだった。人差し指を立て、クイズの回答を述べるように、勢いよく言ったのだ。


「あぁ、孤児院の子供たちにか」


 さすが俺の父親だ、なんて事を思いながら、朝食の片付けをして家を出た。


 

 ローラのお父さん、ロイスさんの家は少し遠くにあり、農業もしていないため、会う機会も少なかったりする。少し独特な個性を持っている人だが、良い人だ。きっと話も聞いてくれるだろう。

 ローラがいつも散歩しているであろう道を歩き、向かった。



 村の外れに、ポツンと一軒あるのがロイスさん宅だ。

 家に近づくと、庭で奥さんのルハマさんが洗濯物を干しているのが見えた。気付いたルハマさんは、珍しい来客に驚いた様子で俺を見る。ローラの事もあり少し緊張する。


「あら、アグリ君ね」

「こんにちは」

「ローラなら中に居るわよ?」


 ローラ? なぜ何も言ってないのにローラなのだろう……。ひとまず要件をルハマさんに話す。


「今日は、ロイスさんとルハマさんにお願いがあって来ました」

「私たちに?」

「お時間ありますか?」


 そう言うと、快く承諾してくれた。


 洗濯ものを干し終わったルハマさん。その後、家に招いてくれた。


「パパー、今日もアグリ兄ちゃんに会いに行ってくるー」

「ローラはアグリ君の事好きなの?」

「誰にも言わないでよ?」

「言わない言わない」

「んー、す……き……っ!」


 やっと気付いたローラちゃん。ロイスさんの膝に乗り甘えていたさっきまでの顔が、真っ赤に染まった。ロイスさんはそんなローラを見てニヤニヤしていた。


「ローラちゃん、今何を話してたのかな? よく聞こえなかったからもう一度聞かせてほしいな」


 今まで好き勝手言われてきたんだ、これくらい言っても良いだろう。俺も弱みを握ったぞとドヤ顔で言い放つ。するとローラは立ち上がって、奥の部屋に逃げて行った。ロイスさんは大笑いしている。


「すまんなアグリ君、こんな所を見せてしまって」

「いえ、俺も急に来てしまって、すみません」


 ロイスさんが指さした椅子に座り、自分を落ち着かせるように「ふぅ」と小さく息を吐く。するとすぐにお茶が目の前に置かれた。


「それで、何か用だった?」


 「はい」と緊張の面持ちで本題に入る。


「少し前、ローラちゃんに聞いたんです、着られなくなった服がたくさんあるって」

「あぁ、確かにたまって来てるな?」


 ロイスさんはルハマさんを見上げる。


「えぇ、置く場所がなくなって来てるわ」

「もし、不要であれば俺に譲ってもらえませんか?」


 そう言うと2人は不思議そうに見つめあった。


「譲るのは構わないけど、誰かにあげるのかい?」

「はい、フルトにある孤児院の子供たちにあげたくて」


 すると2人は納得したように笑みを浮かべた。


「それなら喜んで譲るよ」

「ありがとうございます!」


 良かった、これで冬までにちゃんとした服をみんなに着せてやれる。

 だが安心したのもつかの間、部屋に逃げて行ったローラが部屋から出てきて、大きな声が響いた。


「嫌よっ!」


 でも、ただ駄々おこねている訳ではなさそうだが、親から許可も貰ってしまった。しかもこの話を振って来たのはローラの方だ。何かローラを納得させる案は……。


『すぐに問題を解決しなきゃって思う癖がある』

 

 急にアリアに教えてもらった言葉が頭に浮かんだ。よくよく考えると、元々はローラの服だ。話を聞かない訳にはいかないだろう。ありがとうアリアと、心で感謝しローラに目を向けた。


「ローラちゃん、どうしてそう感じるの?」

「だって……」


 ローラは涙をぬぐい、鼻水をすすって気持ちを話してくれた。


「どれも、大切な服なんだもん……」

「でももう着られないだろう?」


 ロイスさんがそう言うと、大きく首を横に振る。


「それでも嫌!」


 ローラが頑なに嫌がる理由。大切以上の何か……。


 俺は自分だったらと、ローラの気持ちを考えてみる事にした。もう使うことは出来ない物、だけど持っていたい物ってはなんだ?

 「俺は……」と小さく呟きながら頭を巡らした。

 身の回りの大切な物を頭の中で探した。誰にも渡したくない物は。ふと胸に手を当てると硬い物が手に当たる。アリアから貰った、効果の切れた魔石だ。


 そうか!


「ローラちゃんの服には、たくさんの思い出があるからかな?」


 俺がそう言うとコクリと頷いた。

 そうだった。俺が貰おうとした服はただ買ってきた服じゃない、お父さんとお母さんに作ってもらった服だ。一着一着それぞれ思い入れがあるんだ。それがローラにとってはすごく大切で、手放したくないんだ。俺は、ローラの気持ちも考えず、悪い事をしてしまっていた。


「ローラちゃん、ごめん。俺、何も考えてなかったよ」


 ローラに近づいて謝ると「うん」と許してくれる。


「話してくれてありがとう」


 俺は椅子に戻って、ロイスさんに別のお願いをする事にした。


「お金はきちんとお支払いします。子供たちに服を作っていただけませんか?」


 すると2人は同時に言った。


「もちろん!」





 そんなこんなで服を正式に購入することになった俺は、まだまだ働かなくてはいかなくなった。それでも俺はこれからが楽しみでわくわくしている。どんな未来が待っているのか、みんなが幸せになる未来を俺は作りたい、そう願った。

Next:脱穀

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