ひとつずつ
「やる事が山積みだ」
一日雨が止まない中、俺はリニューアルオープンに向けて計画をまとめてみる。書き出してみると意外にもやる事が多く、しっかり出来るのか不安になったりもしてきてしまう。店の設計なんかはリユンに任せるとして……。
たい肥も作って、商品の安定供給。市場調査。値段設定や仕入れ値の交渉。馬車から店への運搬、在庫を置く小屋のリフォーム、これは俺が借りて使っている小屋を直そう。そして、リユン達のお給料。ロットの馬車を改造して、新鮮なまま配達もしたい。何より、俺の美味しい米も作る。
いざ、書き出してみると骨が折れる作業になりそうだ。でも、ひとつずつ頑張るしかない。リニューアルオープンはまだ先になるだろうから、優先順位を付けていく。まずは、市場調査をしながら値段を見つつ、安定供給のアイディアを考える。
「頑張りますか!」
自分で自分を鼓舞し、気合を入れる。
ふと机にある魔石が目に入った。妹が入学の時アリアから買ったものだ。
「なんか……、こんなヒビあったっけ?」
良く見ると、小さいヒビにも見える、傷みたいなものが入っていた。どこかで落としてしまったかと考えたが、ほとんど持ち出した事が無いので、その可能性は低い。少し考えたが、魔石や魔法の事はよく分からない。
「今度、アリアの所に持って行くか」
次の日、昨日の雨が嘘のように晴れ、雫が葉の上で宝石のように輝いていた。
今日こそは、たい肥作りに取り掛かる。ロットたちが仕事に向かう前、野菜の皮、腐ってしまった部分。料理で出た生ごみを持ってきてくれているのだ。
「これも使えたりするかな?」
「これ、木くず?」
「そう! 家にたくさんあってこれも燃やすだけだから」
リユンが持って来てくれた、木くずもたい肥に混ぜてみよう。成功するのか自分でも分からないが……。
俺はその辺に転がっていた木を使って木箱を作り、畑から持ってきた土を二十センチほど入れる。
「水って入れた方が良いのかな?」
いろいろと迷いながら、中に生ごみと木くずを混ぜてまた土をかける。
「さて、仕上げだ」
おそらく普通は、このまま放置しながら水を撒いたり、生ごみを追加して完成を待つが、1つ試したい事を思いついた。俺は『奴』を探すため、畑に出た。
「居るのは分かってるんだ、ここは完全に包囲されている! 観念して出てこい」
そんな事を呟きながら、畑の何も植えてない場所を掘りおこしていく。
「アグリ兄ちゃん何言ってるの?」
そんな声が聞こえて振り向くと、不審者を見るような顔で女の子が立っていた。
「ロ、ローラちゃん……」
「何してるの?」
この子は、マルゴスさんの孫で5歳の女の子、お父さんとお母さんは服を作って売っているので、村の中でも目立つほどおしゃれな家族だ。ローラは今日も相変わらず、綺麗な服を身にまとっていた。
「まだ雨でドロドロだから汚れちゃうよ?」
「また作ってもらうからいいもん」
おう……。なかなか、わがま……、いや、やめておこう。
「今ミミズを探してたんだ」
「ミミズってあのニョロニョロのやつ?」
「そうだよ、土を綺麗にしてくれるんだ」
「気持ち悪い……」
「えっ……」
「その手でもう触らないでね、ミミズ兄ちゃん」
そう言うと、ローラは「逃げろー」と走ってどこかに行ってしまった。最近、晴れている日にはローラが散歩しているのを見かけて話していたが、もうそれも無理みたいだ。なかなかのダメージを心に受けながら、ミミズを十匹ほど捕まえて持ち帰った。
ミミズは土の掃除屋さんだ。土の中に潜ってご飯を食べ、出した糞が野菜にとっては良い土になる、はずだ……。
ミミズをさっきの木箱に入れると、元気に潜っていった。
「頑張ってくれよ、ご飯はあげるからな」
また変な奴と思われてしまうため、語り掛けるのはほどほどに野菜の世話に戻った。
父に買い物を頼まれ、市場調査を兼ねて町に向かう。今日はクラリネまでは行かず、フルトで済ますつもりだ。季節も秋めいてきて、馬車に乗っていても心地が良かった。絶好のドライブ日和って感じだ。そろそろ稲刈りも始まるだろう。
「ありがとうございましたー」
馬車を降りて町に向かう。
市場調査で見るべきポイントは、値段はもちろん、お客が一度に買う量だ。大根だったら、1本まるまる必要な家族世代が多いのか、それとも半分を、1人か2人で食べるのが多いか。また、お客の興味や関心意欲がどの程度なのかも知りたい。食べなれた物を好むのか、それとも、新しい美味しいを積極的に求めて、珍しい野菜なんかも買ったりしてくれるのかを知りたいのだ。
市場に到着し、父に頼まれた買い物をしながらいろんな店を回った。
「うん……、ばら売りだ」
そういえば、ビニールの袋もないしラップも無い。基本的にばら売りで、それぞれ欲しいだけ買っていく。そんな人が多く見られた。
ただ、珍しい野菜は多くなく、よく見る野菜たちが店に必ず並んでいる、といった印象を受けた。
「いらっしゃい」
「こんにちは」
いつものお店で卵を買う。ここのおじさんはいつも笑顔で、物を売っている時間よりお客さんと話してる時間の方が長いのではないかと思うほどいつも喋っている。今日も手より口が動いていて、なかなか頼んだ卵を渡してくれない。
すると少し先の店に、3人の子供がカゴを持って店主と喋っているのが目に入る。ただの買い物……、ではないようだ。
「気になるか?」
店のおじさんがそれに気づき、話しを変えて同じ方向を見る。何か知っている様子だ。
「あの子たち、何してるんですか?」
「孤児だな。物乞いしてるんだ」
「物乞い……」
「この先、少し奥まった場所に孤児院があってな、訳アリの子供たちを世話してる」
「世話しきれていないように見えますね」
「あれでも国からの援助もあるみたいだが、間に合ってないみたいだな」
この国にもそういう子供たちが居るのか……。知らなかった。でもああやって寄付を集めても、根本的解決にはならない気がする。
「お兄さん、少しだけ……、少しだけ分けてもらえませんか?」
おじさんと話している間に、順番が回ってきたみたいだ。
もちろん助けてやりたい、でも長期的に。
俺はすぐに結論を出し、擦り切れるほど着ているであろう服を着ている子供たちに、話を聞いた。
「俺はアグリ、君たち、名前は?」
「シャデラ」
「サラ」
「アルス」
「良い名前だね、みんなの家には大人の人は居るの?」
「先生がね、2人いるよ」
「そっか、ありがとう」
目線を子供たちに合わせて、話を続ける。ローラみたいに不審者と思われたらおしまいだ。
「先生に、明日俺が行くことを伝えてくれるかな?」
「何しに来るんですか?」
「うっ……、えっと、そうだな、パンでもみんなで作ろうか」
「ご飯くれるの!?」
「あぁ、だから先生に伝えておいてくれる? アグリってお兄ちゃんが来るって」
すると子供たちは「分かったー!」と元気に走り去っていった。
「近くで見ると細かったな……」
店のおじさんには「関わらない方が良い」と言われたが、話を聞かない事には分からないこともある。噂や憶測だって飛び交ってるだろう。何か助けになれればいいが……。
俺は家に戻り、明日の準備を始めた。
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