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腹が減っては戦はできヌ  作者: 結野セキ
第四章:青年期

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再スタート

 組合員に通知を出し、問い合わせに対応し少しずつ祭りの準備が整ってきていた。孤児院の中はまるで文化祭のような雰囲気で、私はこの店をやりたい。僕はこれをと言った会話が飛び交っている。サンドリンのリリアンも、母に教えてもらいながら商品を作るローラも参加予定だ。リリアンが何を出品するのかまだ聞いていないが、たくさん買ってやろうと決めている。

 地震が起こってもうすぐ3週間。国王の実力のおかげか落ち着きを取り戻してはいた。だが、もとの生活にはほど遠い印象だ。きっといつの日かもとに戻る日が来る、そう誰もが信じたい。もちろん俺たちもその日を見つめ続けなければならない。

 今日は2人で、ケンさんの所へ向かっていた。アリアも一緒だ。魔石の注文が立続けに入りどうにも手が離せなくなってしまっていたが、ルツとジュリが変わってくれた。サンドリンに少しの時間立ち寄ってから、ケンさんと合流した。祭りの件はすでに通知を送り返事が来ている。もちろん参加してくれるようで、楽しい祭りになりそうだと胸がさらに高鳴った。


「ケンさん、すごですね。ここまで綺麗になるとは」

「俺もやるときはやるのさ」


 どうどうと腰に手を置いて言うケンさんは、とても清々しく、爽やかな汗で額を濡らしている。

 津波に襲われた土地は、海の近くから掃除が始められたようだ。ここから見える砂浜には、大きなごみは無く、白い。畑の天地返しも半分ほど終わっいると聞いた。普段の仕事もこなしながらの作業だ。ジンさん達の体も心配だが、ケンさんを見ていると安心できた。

 俺は鞄から亜麻布で包んだ棉の種をケンさんに手渡した。


「これは?」

「棉という植物の種です。これなら、塩が入った土でも育ちます。それに、土の塩分を減らしてくれるんです」

「本当に!? そんなものがあるのか!?」


 ケンさんは驚きのあまり声を荒らげた。ケンさんなりに塩害についていろいろと調べていたのを思い出す。

 俺もこれは経験で知っていた。あの時に知ったのだ。それが無ければ、俺もここで意気消沈していた事だろう。

 ケンさんは種を受け取って、大事そうに抱える。種の量は多くなく、ジンさんの被害の受けた土地全部には到底足りない。だけど、きっと何年も何年も積み重ねていけばここでもまた農業が出来るだろう。


「それにこれ、とてもきれいなんですよ。幻想的な世界が広がると思います!」


 俺たちは、胸を膨らます。これからは、希望を見て生きていけるのだ。


 お祭りと、収穫出来る綿の利用について考えるため家に戻る。何も変わることは無い、温かい家庭に。


「綿を問題なく収穫出来たとして、ちゃんと売れるのかなぁ?」


 ケンさんが、子供たちが見つけてきた棉を指先で撫でながら言う。


「食べ物は常に需要があるけど、これは何に使えばいいんだ?」


 それはもっともな疑問だった。これまで綿が放置されていたのも、綿の利用価値が分からないとされていたからだろう。ただ、ひとつ気になっていたのはロットが馬車の中でジュリに出してあげたブランケットだ。あれはかなり高価な物だが、俺が居た世界の物とは等に敵わない。この世界の冬は寒い。ブランケットを作ったり、シーツを作って羽毛布団なんかも良いかもしれない。


「肌着やタオルも作れますね」


 開発には時間を要するが、そこは問題ないだろう。服を作るプロとの共同開発だ。

 使い方はたくさんあるし、時間をかければ需要は十分に出てくるだろう。それにもうひとつ。俺は綿を使ってこの世界の女性を助ける事が出来るのではないかと考えている。

 椅子から立ち上がろうとしたその時、俺の前にアリアの手が差し向けられた。目が合い、アリアの意図を察した。


「私、アグリに綿の特性を聞いて作ってほしい物があるんです。それはきっと、女性ならみんなが欲しい……、いや。必要な物だと思うから」


 そこからはアリアが使用方法について話してくれた。ジンさんやケンさんは頷いたり、相槌をうってしっかり聞いてくれた。それにこの場に居たターナさんとエブリイさんも激しく同意してくれたみたいだった。

 この商品は絶対に必要だと思う一方、かなりの時間と労力、それにお金をかける必要がありそうだった。

 それで、ケンさん達が生産する綿を責任を持って買う事を約束しようとすると、ジンさんが立ち上がった。


「アグリ!」

「は、はい!」


 俺も反射的に立ち上がり、変な声で返事をする。ジンさんが隣に歩み寄って、肩を強く引き寄せた。


「提携を組もうか」

「て、提携ですか!?」


 驚いた俺は、ジンさんを見上げる。


「あぁ、提携だ。確か、役所に行くとそんな手続きがあったはずだ。認められれば、利益にもつながるし、何より助け合いがしやすい。どうだ、アグリ。やってみないか!」

「はい! やります!」


 俺は、光の速さで返事した。返事をした後に、気になる点をいくつか頭に思い浮かんだが、それは後でも問題はないはずだ。子供の頃から信頼してきた家族。俺が、いや、俺たちが力になれることがあれば何でもやってみたかった。


 その後の会議も順調に進んで行った。お祭り日にちや、どのような内容なのか、何が目的なのか。これらを鮮明にすることで、出店する側も、参加する側も楽しむことが出来るだろう。


「アリア」

「ん?」


 帰りの道中、馬に乗った俺たちはこれからの事をたくさん話した。そこでひとつ、ずっと前に話したことがある内容を聞いてみる。


「家さ、どうする?」


 馬の首の筋肉がたくましく光る。後ろのアリアは見えないが、俺の服を掴む手の力は増した。


「アグリは? どうしたいの?」


 たどたどしく返って来た返事に気付かないふりをして、俺はしばらくの間思案した。考えはずっと前から決まっているのに。


「俺は……。アリアと2人で暮らせる家が欲しい」


 声を絞り出した。言うだけでも心臓がうるさく鼓動した。


「私も、それが良い」


 俺は静かに頷いた。


 アリアの家に戻ると、マリーさんが慌てた様子でこっちに走って来る。何事かと思い俺たちも走り寄ると、マリーさんの手には便箋が握られていた。受け取り、裏表を交互に見ると賢治さんの名前があった。


「賢治さんだ!」


 2人で部屋に入り、手紙を開く。向こうに行って以来、音信不通だった賢治さんから手紙が来たという事実だけで安心できた。中には、書きなれないこの世界の文字で、こう書かれてあった。


『アグリ君、アリア君。元気にしてるかな? 手紙が届く状態なのかすらも分からないが、まずこちらの状況を報告したいと思う。こちらはかなりひどい状態だ。地震。津波。火災。土砂崩れ。それに火山の噴火まで。死者の数は数える事も不可能なくらいだろう。だが、ひとまずコールネリン君と私、それと世話になっているイーク君の家族は無事だ。アグリ君たちは無事かな? 科学者たるもの推測や想像で物を言う物でもないが、アグリ君たちならきっと何か大きな行動をして、たくさん人を救ったのだろう。私はみんなの無事を心から信じている。

 あぁ、それと。研究の成果をいくつか。嬉しい知らせだ。もうすぐそこまで肥料の完成が近づいている。さらに、前の世界で私が作っていた物と同じ効果の物もな。やはり研究というのは、1人でするものではないな。魔石、奥が深い。

 それにこっちの料理は最高だ。何より肉がうまい――』


 それからお続きは食べ物の事が淡々と、いや、長々と書かれてあった。外国の食に関して興味はあるので、後でゆっくり読むとしよう。


「賢治さん、無事みたいで良かった」

「そうね。どうしたの?」

「えっ……、いや。火山の噴火が気になって」

「心配ね」

「うん」


 この手紙の内容はロズベルトさんにも話そう。一言、コールネリンさんが無事だと伝えるだけでも安心できるだろう。

 震源はあちらの方が近かったのかもしれない。でも賢治なら大丈夫だ。あの人もこれまでたくさんの経験を積んできたんだ。賢治さんには賢治さんの出来る事でこれからも努力を続けるのだろう。

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