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腹が減っては戦はできヌ  作者: 結野セキ
第四章:青年期

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籾蒔き

 組合事業が軌道に乗り始めた。組合に名を連ねるのは、現時点で78名。内14組が農業関係者だった。フィンのアドバイスで、サンドリン在住の人は組合に入れないという条件をあらかじめ付けておいた。入れない、ではなく入れないという事にしておくことで、後で何か問題が生じても穏便に済ます事が出来るという。


 風が強く吹く日になった。春一番と言ってもいいような風だ。爽やかに感じる一方、これからする仕事には少し邪魔に感じる。


「ロット、今日は大荷物だね」

「あぁ、運びがいがあるね」


 ロットが馬車に乗せた木箱をロープで固定し、緩んでしまわないか確かめている。これから農家から集めた作物を市場とアリアの店まで運ぶ。予想より組員が増えた事から、運び役の負担が大きく、求人を出すまでに至った。まだ応募はこないが、孤児院の子供たちの教育もしているため、時期に穴は埋まる事だろう。


「気を付けてね」

「おう、行ってくる」


 いつものように左手を上げてから、馬車は進み始めた。

 ロットはいつも元気だった。あの時の寄り合いにも参加してくれて、終わった時には労ってくれた。「ありがとう」と言ってくれた。一番つらいのはロットのはずなのに、俺たちには変わらない笑顔を向けてくれていた。ジュリに話を聞くと、2人の時はよく話してくれるそうだ。ロットにとって、ジュリは心のよりどころなのかもしれない。


 仕事の準備をしてから、朝ごはんを食べるため家に戻った。風向きがちょうど家に向かっていたので、背中を支えてもらいながら歩いた。ちょっと楽しい。


「おはよう、お兄ちゃん」

「おはよう。今、ご飯作るから」


 起きていたルツはすでに寝癖を直していて、早めに目を覚ましていたことが分かった。


「手伝う」

「ありがとう」


 裸足でペタペタと歩いてきたルツと朝食を作っていった。

 ルツが帰って来て3週間ほどが経ち、3人暮らしも板についてきた。あれだけ、余裕と鼻を高くしていたルツだったが、試験当日、体調を崩し参加できなかったらしい。本来なら、試験は一度きりらしいがどういう訳か、追試という形をとってもらい満点を叩きだしたという。無事に学校を出て、同じコポーションで働けている。魔法にはもちろん制限が付いている。アリアかダリアさんが近くに居ないと、使ってはいけないらしい。さらに月に一度は学校へ顔を出し、報告書の提出を求められている。「面倒くさい」と3日で本音が漏れたルツには笑ってしまった。


「今日は何するの?」

「種まき。手伝ってくれる?」

「うん!」


 焼いた卵を頬張りながら答えたルツは、ロイスさんから買って来た作業服に着替えて小屋に向かう。その足取りは、俺がルツへのいじめを目撃した時に比べると、ずいぶん軽くなったているように感じた。


 今日する仕事は籾蒔きだ。米の苗を作るために種を蒔く。おそらくだが、この世界初の試みだろう。この世界にあるものだけを使って、前の世界と同じように作る。これはかなりの難易度で、上手くいく保証も無いが止まっていては進めない。気候に合わせ、状況に合わせ、人に合わせて成功させる。そしてみんなで美味い米を作り、笑って食べる。俺が最初に立てた目標だった。

 冬の間に作っておいた苗箱に、種を蒔くためだけに用意した土を入れる。苗箱のそこには穴が開けてあり、通気性や撥水性を確保してある。


「これ、全部入れるの?」


 ルツは手でサラサラの土をかき上げて、箱の中に入れるとポンポンと土の表面を抑えながら言った。


「最初は、半分くらいまで入れるんだけど」


 そう言ってルツに板のようなちょっとした道具を手渡した。それは、苗箱の横幅と高さに合わせて作った物だ。


「とりあえず箱に土を入れる。それからこの板を箱に当てて、右から左へ。左から右へと沿わせていく」


 これはならし板という道具だった。板が苗箱の半分ほど入り、余計な土を押し出してくれる。これにより、ちょうどいい量の土が苗箱に入れる事が出来る。さらに同時にならしてもくれる優れ物だ。

 この作業を繰り返し、これを今回は50枚用意する。前の世界では、田んぼの大きさを計り、計算してその枚数を用意した。今回も計算に優れるジュリもいるので、頼もうと思えば頼めた。しかし、苗箱の大きさや、種の量など手作業のため誤差が大きくなると予測できた。そのため、計算はせず余ってもサンドリンでの田植えの使えばいいと多めに用意したのだ。感覚を頼りにするのであれば、俺の田んぼだけなら30枚から40枚あれば事足りるとは思っている。


 ルツが最後の苗箱に土を入れ終わり、腰を伸ばした。背中を丸めての作業だ。休憩を挟みながら進めていこう。

 並べた土の入った苗箱に水をかけるため、ルツと水を持ってきた。


「箱の底から水が漏れてくるまで、たっぷりとな」


 ルツは頷き、水をゆっくりとまいた。乾いた土に水が当たる瞬間、小さな砂埃が上がる。薄い茶色から、濃い茶色に土の色が変わっていった。その数秒後には、箱の底から水が漏れだしてくる。確認するように、ルツが俺の顔を見てきたので問題ないと頷いた。

 すべての苗箱に水を撒いてしまうと、種を蒔いている間に乾いてしまう。それで半分の25枚に水をやった所でストップをかけた。


「次はこれ」


 持ってきたのは、水につけておいた籾種だ。これは十日以上前から水に浸しておいた。浸種と言われる作業だ。米にしっかりと水を浸透させ、芽を出した時のムラを無くす。普通は米を消毒して水に浸すが、この世界にはそんな物は無いので仕方がなかった。

 水を切った湿った籾種を、土の入った苗箱の近くに置いた。


「出来るだけ重ならないように、満遍なく蒔いて行こうか」


 水分を吸って一段と重くなった苗箱を自分の前に持って来て、ルツにお手本を見せる。が、俺自身も上手く出来ない。種をつまんだ手を細かく揺さぶりながら、力を緩め種を落としていく。しかし、どうしても種が重なり、厚さが変わってしまう。こうなってしまえば発芽に支障をきたしてしまうかもしれない。

 前の世界では籾蒔き機があった。水を撒き、種を蒔き、土をかける。これらすべてを自動でやってくれるものだ。そのため米の種を手作業なんかで蒔いたことは一度も無いのだ。

 俺の不器用さに見兼ねたルツは、ササっと器用な手つきで土の上に種を落していく。どこが違うのか見るだけでは分からなかったが、白い手の中から落ちる種はまんべんなく均等に箱の中に納まっていったのだった。


「はい。お兄ちゃんは土をかけてください」


 ルツが茶色い土の上に黄金色の種が光る箱を俺の前に差し出した。


「はい。承知しました」


 いつのまにか立場が逆転してしまったことに、違和感はなかった。ルツが家に帰ってきたは良いものの、父と俺よりルツの権力が強くなってきているのは薄々気が付いていた。母に似てきたといっても良いだろう。これからは徐々に俺たちの肩身は狭くなっていくのかもしれない。

 土をかける時にも最新の注意を払った。丁寧にしないと、せっかくルツが綺麗に蒔いた種が動いてしまうからだ。


「よし、こんなもんかな」


 土を入れてから約10分。やっと一枚目の種まきが完了した。


「手作業だとこんなにも大変なのか……」


 ルツにとっては何のことを言っているのか分からないだろうが、改めて米作りの大変さを知ったのであった。


 その後、2日間をかけて50枚の籾蒔きを行った。苗箱は重ねられるように作ってもらったので、小屋に運んで10枚ずつ重ねていった。

Next:発芽

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