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腹が減っては戦はできヌ  作者: 結野セキ
第三章:成長期

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世界初

 清々しい朝だった。夜に軽く一雨来たのか、部屋の中が涼しくなり、寝心地もよくすっきり起きられた。午前中の作業は昨日と同じだ。魚を下処理し、潰して乾かす。梅を干すために出払っていたザルも開いたため、干せるだけ干した。

 午後になってから、ルツとアリアが孤児院に到着した。相変わらず仲の良い2人で、道中馬車の中でも喋っていただろうに、到着してもなお楽しそうに話している。ルツとアリアは本当の姉妹のように見えてきた。ただ、それを口にしようとして寸前で思いとどまったのだ。

 だって将来、義理の姉妹になるのだから。


 1人でそんな事を想像し、体温が高くなっている事に気付いた時、アリアから声がかかった。ルツの魔法使用許可が下りたらしい。

 午前中、2人は役所と学校に向かい、ルツの魔法が使えるよう特別な許可を貰いに行ったのだ。アリアの首から下がっているのは正式な許可書だ。


「ありがとう、アリア。助かるよ。期間はいつまで?」

「今日から7日間ね」


 アリアは鞄の中から紙を出して来た。そこには報告書と大きな字で書いてある。アリアによると、7日後この報告書を書くそうだ。怪我人は居ないか、破損物は無かったかなど書かなくてはいけないと言う。なかなか面倒な事もあるんだなと思いながらも国が決めた事には従っていく。


 今日、作業したかったのは、グラミーが作った魔法の発動だ。子供たちが虫を集め、ダリアさんがコードを記録し、グラミーが組み込んだ魔法。グラミーの試してみたいとの一言を聞いてから、ルツの夏休みを待っていた。楽しみに待っていたこの日、気分が上がっているグラミーが見られるのかと思っていたが、特にいつもと変わらないグラミーの姿がそこにあった。いや、よく見ると、いつもより元気が無いように見える。おそらくは暑さが原因だろう。

 グラミーを畑の隅にある木陰へ連れて行き、座らせた。


「ここなら風も通るし、まだ涼しいだろ?」


 大きな口を開けて、喋り掛けた。しかしグラミーからは「うん」と静かに帰って来るだけで、頭を膝の間に入れてしまった。相当辛そうだったため、無理もさせられない。中に入るかと聞いても、それはグラミー自身好奇心には勝てない様子だった。


 気持ちを切り替えるために、手を一発、パンと叩いた。するとアリア、ルツ。そしてダリアさんが俺を見る。


「早速やってみようか。ルツ、準備は良い?」


 ルツはグラミーが記入した魔法を注意深く読んでいる。ルツが持っているのはただの紙で、メモ用紙と言っても大差ないが、個人的に魔導書と呼んでいた。

 ルツが前髪を揺らしながら俺を見ると、自信なさげに顔を横に振った。


「やっぱり難しいのか?」

「イメージが湧かないの。魔法の力は理解してるけど……」


 なるほど、と思った。分からないのは無理もないのだ。傘も一般的ではないこの世界で、その辺にある物で例えたとて具体的なイメージを持っていないと構築出来ないのだろう。

 ただ、あれは違うこれは違うと言った所で何も作業は進展しない。とりあえず、一度やってみる事にした。

 ルツにはプレッシャーを掛けないように気を付けながら合図を出した。

 ルツは不安そうな顔を、こくりと動かし、手を前に出した。ルツの近くには念のためダリアさんが付いてくれている。安全策も十分だ。20秒ほど経った後、風が動き始め女性たちの髪が舞い始めた。それから10秒ほどで、ルツが膝を折り、地面に座った。完成したのだろうか。


「どう? アリア!」


 ルツがその状態になった時、すぐにアリアの方に向いた。しかしアリアは畑を見るのではなく、畑の上空へと顔を向けていたのだった。


「まるで天井ね」


 アリアの説明によると、畑の上空20メートルほどに、魔力の板があると言う。最初は失敗だと分かった。肩を落としながらも、物は試しとそれから二度ほど試していく。だが、どれも成功とはいえなかった。

 ルツが言うには、畑をぐるりと囲む必要があるという事に苦手意識が生まれるそうだ。それで、2枚の畑を分けて発動してみる事にした。ただこれも失敗に終わる。今度はサイズを意識しすぎたのだ。

 ただ、すべてが失敗に終わったわけではない。畑を囲んだ魔法に、害虫を1匹放してみる。すると見事に見えない壁にぶつかって、虫が去って行ったのだ。これで、グラミーとルツが失敗している訳ではない事が証明された。


 15分ほどの休憩を挟んだ後、ダリアさんが立ち上がった。このまま続けるとルツの体が持たない事を教えてくれた。魔力不足のようだ。


「それで、今日は次で終わりにしましょう」


 俺も含めて全員が賛成し、体制を整える。畑の中心に入ったルツは大きく息を吐く。休憩の時、少しでもイメージ出来るように絵を描いて説明もした。さらにもうひとつ、ルツの助けになるかもしれないと棒を持ってきた。2枚の畑の間、ど真ん中に5メートルほどの木を突き刺したのだ。これで、畑の中心が、目に見るようになって分かりやすくなるのではないかと踏んだのだ。



 それから数分後の事だ。畑から歓喜の声が孤児院の中にも響いた。すべての人の努力が功を奏し、畑の周りには見事マジックハウスが完成した。


「すごい、すごいよルツ!」

「完璧ね」


 ダリアさんとアリアが周りを歩いて確認する。虫食い穴のひとつもなく、完璧な出来だと言う。

 試行錯誤して3時間と少し、俺たちはこの世界に初めて虫よけ用ハウスを完成させたのだった。


 家に戻る1時間前にはすでにルツの体力が限界を迎えていた。作業が終わり院に入った瞬間、倒れるように寝てしまったのだ。それは馬車に乗って、家に到着し、自室のベッドに寝転がっても起きる事はなかった。


「ありがとうな、ルツ。ゆっくり休んで」


 母に似た美しい髪を整えてから、ルツの部屋を後にした。

Next:殺虫剤

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