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腹が減っては戦はできヌ  作者: 結野セキ
第三章:成長期

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危険な物

 メリスさんにグラミーの件を話し、ロットとも相談した。グラミーの引っ越しの日時を決めて昨日の仕事は終了した。


「そろそろ行くぞー」


 妹のルツを学校に送り返すため、ロットと一緒に馬車へ荷物を積んでいた。


「ロット、ちょっと見てくる」

「あぁ、分かった」


 家に戻りルツを探す。しかし、部屋に行ってもその姿は見当たらなかった。


「ルツ?」

「お兄ちゃん、これどこから手に入れたの?」


 ルツを見つけたのは俺の部屋だった。手にしていた物は、ダリアさんから預かった謎の魔石。ルツの目には、かなり禍々しく映るようで、それは引き出しの中で保管していたとしても分かったと言う。


「ダリアさんから預かった物だ。危険な物らしいから返すんだ」


 恐る恐る言うと、ルツは魔石を握った。

 ダリアさんが扱いには気を付けてと言っていた魔石。いくら魔法が使えてもまだ半人前のルツが握った事で、心臓が大きく跳ねた。


「お、おいっ」

「お兄ちゃん。これにどんな力があるのか知ってるの?」

「いや、教えてもらえなかった。ただ、危険な物だと……」


 するとルツは静かに石の力を教えてくれた。それは、魔法使いの人生そのものを変えてしまうほどの物だった。


「これはね、体内の魔力と、紋章の繋がりを切る事が出来る物」

「って事は……」

「これが発動すれば、その人はもう一生魔法が使えなくなる」


 ルツは真剣な口調でそう言った。そんなに危険なものとは知らなかった。


「お兄ちゃん、これ無効化できるけど、私なら」

「無効化?」


 ルツのよればこの危険な魔石を壊す事が出来るようだ。もしそれを実行すれば、ダリアさんがあの4人に掛けた制限が解除される。それと同時にこの魔石の効力は消失すると言う。

 いくら俺の心のどこかに後悔が残っていようとも、その決定に責任を持っている。さらに言えば、この魔石は預かりものだ。俺が勝手に処分する事なんてできない。それにこの魔石は必ず自衛に繫がっているはずだ。ルツがこの魔石を知っていると言う事は、学校で学んだんだろう。という事は4人も知っていると考えて良い。


「お兄ちゃん。私、こんな復讐みたいな事は嫌。だからこんな物いらないと思ってる」


 たぶん、ルツは正しい。素直で、この世界の悪や憎しみ、恨みの気持ちもまだ分からないルツがそう思うのも無理は無い。でも、今の俺にはルツの意見には賛同できなかった。ルツが後悔してしまう気がしたのだ。


「ごめん、ルツ。それは俺が持っている。返してくれ」

「分かった……」


 少し、落ち込むルツだったが素直に魔石を返してくれた。


「アグリー、遅刻するぞー」


 ロットの叫びが聞こえすぐに出発したのだった。



「アグリ。ルツちゃんも。少し話したい」


 ロットが馬車を操りながら真剣な表情で声を掛けてきた。喧嘩してしまった時、話したい事があると言っていた話だそうだ。ルツにも警告になると言い、2人で話を聞く事になった。


「話す前に、この件は全部俺の責任だ」

「どういう事?」


 ロットはひとつずつ、順序だてながら話してくれた。

 ロットには兄が居る。ただ、弟や妹は居ない事で俺たち2人が少し羨ましかったのだと言う。そんなロットの思いが、今回の事を引き起こしてしまったのだと。


「率直に言うと……、俺や、アグリの家、仕事場の場所を教えちまったんだ」

「あの4人に?」

「すまん、まがいもなく事実だ」


 気付けば馬車が止まっていた。ロットは俯いてしまってそれ以上何も口にしなかった。

 ロットによると、接触してきたのはあちらからで、荷物運びの疲れを癒してくれたのだと言う。ロットが教えてしまったのは正確には2人だった。


「名前、分かるか?」

「その時に居たのはペンナとホシャトだ」


 一番行動を起こしそうなロンじゃないのが驚きだ。いや、ロンの指示の可能性もあるな。


「それから少しずつ話すようになって。俺にも妹が出来たみたいで、思いあがってしまったんだ」


 ロットは、村の行き方や場所。ペンナとは村まで来て、紹介もしたらしい。

 その4人と俺たちの関係を知ったのはその後だそうだ。ロンに伝えられたと言う。


「本当ごめん。俺が、2人を危険に晒す事に」

「いや、そんなに謝らないでくれ。知らなかったんだ、仕方ないよ」


 この件は俺にも責任がある。内密にしていた事が裏目に出てしまった。説明不足だった俺も悪い……。


「ロット、話してくれてありがとう。おかげで対策が出来るよ」


 ロットが話しにくい事を話してくれたんだ。これはしっかりち活かさないと。それに俺たちにはあの魔石がある。ルツも何とか納得してくれた物だし、あの4人に脅威としてチラつかせていれば、十分抑止力となるだろう。家に居る父が心配だが、この件をアリアやダリアさんにも伝える事で力になってくれるだろうし。


「もとはと言えば、俺が蒔いた種だ。ロットは巻き込まれただけの話。だから気に病むなよ」

「ありがとう、アグリ」


 ロットは再び馬車を走らせた。

 その後孤児院に行き、メセデとリラヤを乗せて再び出発する。



「そういえば、学校の白魔女はどんな感じだ?」

「今は、んー。普通かな」

「普段、どんな立ち位置なんだ?」

「いつもは見守ってるだけ。たまに魔力暴走しちゃう子が居るから、それを落ち着かせてる感じかな」


 制御がまだ上手く出来てない子のために重要な仕事のようだ。ただ、力があるゆえに、何でもできてしまうのだろう。


「気を付けてな、ルツ。何かあったら……」

「何かあっても、もうお兄ちゃんには言わないけどね」


 いたずらに笑うルツ。朝日の下、もう着慣れた制服を揺らしながら振り向いた。


「なっ、何で!?」

「お兄ちゃんが制御できなくなっちゃうからね」


 べーっと小さく下を出して来た。学校と言う社会に少しの期間行っただけ。それなのに、大きく成長したルツだった。それは嬉しい事で、ルツがどんな大人になるのか楽しみだ。でも、俺にとっては少し寂しくも思えた。


 だからこそ、ルツがそうやって成長するなら。俺も成長しないと、すぐに追い越されてしまう。それなら……。


「もう助けてやんないからな! 頑張って来いよ」

「そんなのいらないもんねー」


 大きな鞄を背負ったルツから目を逸らし、俺は俺のやるべきことに目を向けた。


「お兄ちゃーん! ありがとーう!」


 大きな声で後ろから聞こえるその言葉は、俺の心を突き動かす。右腕の固定を外し、腕を伸ばす。


 やるか、農業!


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