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腹が減っては戦はできヌ  作者: 結野セキ
第三章:成長期

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引っ越し

 良い天気。朝起きて一言目にそんな事を言いたくなるような青空が広がる、清々しい朝。もうすぐ店に到着するところだ。


「お兄ちゃん、やっぱり嬉しそう」

「そうか?」

「うん!」

「まぁ、仲間は大切にしないとな」



 ――――――――――



 まだ薄暗い早朝。ルツと俺は商品の準備をして、ロットを待っていた。昨日の事を、会ったらすぐに謝ると決めて。しばらくすると、馬の足音と、車輪の回る音が聞こえてきた。朝一の心臓には悪いと思ってしまう程、緊張してしまう。少しずつ音が大きくなる。馬車が見えてきて、ロットの姿も確認出来るようになった。もう心臓が持たない。


「おはよう、ロット……」

「お、おはよう」


 少し裏返ってしまった声を誤魔化す。馬車から降りたロットに近づいて、目の前に立った。しっかり目を見るとロットも俺を見ていた。息を大きく吸って思いきり吐き出す。


「ごめん!!!」

「ごめん!!!」


「え?」


 言いたい気持ちは一緒だったようだ。ほぼ同時にお互いの声が重なったのだ。

 俺は昨日の事、これまでの身勝手な行動を謝った。ロットは言い過ぎた事、機嫌が悪かったことを謝ってきた。


 そんな様子を少し後ろで見ていた父とルツが、大笑いしているのが聞こえてきた。俺とロットは何でか気恥ずかしくなり、なんだかんだ仲直りをする事が出来たのだった。

 そんな事もあって、今日はいつもより気分が良かった。眠りに就くまで思い悩んで、重くなっていた心が嘘みたいだ。



 荷物を下ろしアリアの店に向かって歩きだすと、ロットが心を決めたように閉じていた口を開いた。


「アグリ、今度2人で話せないか? 相談したい事がある」

「うん、分かった」


 どんな話なのかは検討も付かないが、ロットが話してくれるんだ。出来るだけ早くに時間を作ろう。



 店の事はメセデとリラヤにお願いし、準備が終わったら朝ごはんを持って出かけた。

 ルツと一緒に向かったのは、グラミーの所だ。少し前に話した以来、会えずにいた。家族の事を何も聞いていなかったので顔を出す事にした。


「ちゃんとご飯食べてるのかな?」


 あくびをしながら広場に向かう。流石に朝練はしていないみたいだった。それで、部屋まで行ってみる事にした。


「おはよー、グラミー」


 日本語で呼びかけてみるも、返事が無い。耳が聞こえないとやっぱり大変だ。誰かの訪問を視覚的に気付くことが出来る何かを作っても良いな。

 ただ、ベルナムも最近は来られないので、会わない訳にも行かない。それで、大きな声で呼びかけながら部屋に入った。


「嘘だろ……」

「この人がグラミーさん?」


 グラミーと初めて会って、ベルナムと一緒に入った部屋。そこには、大量の本とノートが部屋中に転がり足の踏み場もない。猫背のまま机に向かって居るグラミーは、髪は伸び、ちょっと匂っている。

 驚かせてしまうので、姿を見せながら肩を叩くとやっと俺に気が付いてくれた。


「久しぶりグラミー。ずっと勉強してたのか?」

「うん。これ」


 グラミーは床にあるノートの一冊を拾い上げた。中を見てみると、読めない字が並んでいる。


「ルツ! これって」

「魔法……だね」

「正確なのか?」

「私にも分からない物がある。でも、理解できる範囲でなら正確」


 どんな魔法なのかも分からないが、グラミーは確実に魔法を理解し始めていたのだ。その速度は、学校に行っているルツにも分からない物があるほどだ。独学で自由に学んでいるとはいえこれほどとは。


「グラミー。欲しい魔法、作れるか?」

「たぶん、でも不完全」


 すごい。グラミーのオリジナル魔法の生成。これから行っていく農業に必要不可欠な物だ。薬や機械に頼っていた物を魔法に置き換えていく。きっと上手くいく!


「グラミー、とりあえず朝ごはん食え」


 ちょっと無理やりに作業を止めて、ご飯を食べてもらった。

 話を聞くと、グラミーは召喚された人で間違いないく、両親も居ないという。最初は仕事を探し、部屋を借りたがもうすぐ追い出されるらしい。それで、グラミーも孤児院に招待した。魔法の勉強が可能なら場所にはこだわらないと言い、承諾した。


「ルツ、荷物をまとめて……」

「いやだ」

「だよね……。しかもベルナムの両親と同時には無理だな……」


 日をずらす必要がありそうだ。荷物がすでにまとまってるベルナム家を今日引っ越しさせて、あさってにでもグラミーを……。


「いや、違うな。ロットに相談しよう」

「お兄ちゃん?」

「グラミー、引っ越しの日はまた伝える。それまで待っていてくれ。その日までに、片付けておく事!」


 伝わったのか分からないまま、グラミーの部屋を後にした。帰り際、お金を少し渡し風呂に入れとも言って来た。

 それにしてもすごい集中力だ。あのまま行けば即戦力になりそう。ダリアさんが帰ってきたらチェックしてもらい、アリアに使ってもらおう。また楽しみな事が増えてしまったな。


 次に向かったのは、ライとベルナムの両親が居る家だ。

 外で呼んでみるとすぐにライが出てきてくれた。部屋ではほとんど片付けが終わっていて、綺麗になっていた。


「ライが1人で片付けたのか?」

「はい、家の事は私が一番よく知っているので」

「お疲れ様。今日にでも孤児院に移動しようか」

「はい!」


 ライには今日の予定を伝えた。先に荷物を孤児院に運ぶ。昼から両親を運ぶ事になった。今思えば、引っ越しが決まった時から、俺たちが家に帰るたび少しずつ荷物を運べばよかったと後悔している。まぁ、今気が付いても遅いけれど……。


 ルツをライの所に置いて、店に戻った俺はみんなに今日の俺の動きを伝えた。また店を任せる事になるが、ベテランのジュリも居る事だし大丈夫だろう。


「じゃあ、行ってくる!」


 ロットと一緒に人力車を引きながらライとルツが待つ家に向かい、引っ越し作業を開始した。




「何から何まで本当に感謝します」

「良いのよ、今ご飯を用意するからそれまではゆっくりしてなさい」


 引っ越しが大体終わり、ライとメリスさんの話す声が聞こえた。ライの両親、スカインとリズも無事に移動できて安心だ。


「ロットさんも、アグリさんもありがとうございました」

「良いって。とりあえずゆっくり休みな」

「はい」


 ロットの声に少し照れながら自身の部屋に戻っていくライ。今日はロットが大活躍だったからな。


 しっかり者のライが孤児院に来てくれた事で、メリットも大きい。興味があるなら畑仕事をしてもらえたら嬉しいな。

 そして次はグラミーだ。メリスさんに、もう一人受け入れられるか相談しよう。決まったらロットと引っ越しの予定を立てる事にしよう。


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