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腹が減っては戦はできヌ  作者: 結野セキ
第三章:成長期

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拾われた子

 グラミーと良い友達になる事が出来た次の日。俺たちは、ベルナムに案内されながら家へ向かう事になっていた。朝早く、みんなでご飯を食べていると、外の空気と一緒に店へ足を踏み入れて来たのがベルナムだ。


「おはよう、ベルナム」

「おはよう。今日はいい天気だ」


 豪快に笑う笑顔には、悩みも苦痛も無いように感じる。それでも秘めたものがあり、苦しんでいるに違いない。


 食器を片付けて、出る準備を始める。今日のメンバーは俺とダリアさんにベルナムだ。今日はもしかしたらダリアさんに任せる場面もあるかもしれない。その時はダリアさんを信じよう。

 俺たちはそれぞれ気合を入れて、店を出た。


 まず俺たちは、賢治さんの顔を見に行く。特に深い意味は無いが、たまには様子を見ておきたい。研究に夢中でご飯をちゃんと食べているのか心配だし。



「おはようございます、賢治さん」

「おぉ、アグリ君か」

「夜なべですか? すごいクマですけど……」


 賢治さんの目の下のは、はっきりとしたクマが現れていた。それに、いかにも寝不足と言っているような立ち振る舞いで心配になる。

 でも賢治さんは意味も無く寝不足になんてならないだろうし、何か、面白い事でも見つけたのだろうか。麹菌が開発できたとか!


「アグリ君、これはこの世界にとって革命になるかもしれん」

「そんなにすごい物が!?」


 賢治さんが持ってきた物は、人ひとりで抱えてやっと持てるくらいの、大きな装置だった。賢治さんは、まだまだ試作の段階で、効率も悪いが形になって来たと自慢げに言っている。


「アグリ君、これはいわゆる発電機だ」

「発電機!? 電気を作れるんですか?」


 賢治さんが嬉しそうに大きく頷いた。


「魔石はエネルギーだ。それを電気へと変換する」

「えーっと、例えば、水の魔石を使って、水力発電をするみたいな?」

「その通りだ。話が早くて助かる。これは風の魔石を使い、風車を回すものだ」


 改めて装置を見てみると、魔石をセットする場所の先には小さな風車が付いている。魔石が動き出すとこの風車が回るようだ。


「でも、電池とか、バッテリーは無いですよね?」

「こいつだ」

「魔石?」


 賢治さんがコツンと机に置いたのは、いつも目にする魔石だった。何の変哲もないただの魔石に見えるが……。


「この世界にも電力は存在する。それが雷や静電気だ」


 確かに、使われないだけで自然界にはちゃんと電力がある。でもそれが?


「という事は、魔獣の中にも電気に対応した物が居るんじゃないかと思ってな」

「居たんですか? 」

「あぁ。不良品として扱われ、捨てられていた魔石の中にこいつを発見した」


 仮説によるとこうだった。イメージとして電気ウナギみたいなものだろうか。この世界にも電気を操る、もしくは電気を貯める魔獣が居てもおかしくはない。雷に打たれてしまう魔獣が居る可能性もある。そんな魔獣の魔石はどんな種類の魔力も貯蓄できない為、不良品として処分される。ただ、それはエネルギーを変換してやれば貯蓄できる。それがこの魔石、電気を貯められる魔石だそう。

 幸いなことに不良品なので、コスパも良い。何度も実験するには都合が良かったようだ。


「草刈り機!」

「はい?」

「草刈り機お願いします! バッテリーがあれば草刈り機や他にいろいろな便利な農機具が作れる、動かせる!」


 またまた賢治さんの仕事を増やしたのだった。


 その後は賢治さんにも、ベルナムとダリアさんを軽く紹介して部屋を後にした。

 電気かぁ、もっと研究が進めば、実用化出来る日も近いかもな。





「ここだ」


 ベルナムさんに案内されたのは、いつも寝泊まりしている家……。いや、これは。小屋……?

 想像してたいたよりはるかに酷い状態のその建物は、ある意味で風通しが良く日当たりも良かった。

 中に案内され、建物に入る。すると、一度だけ見たことがあるお姉さんの姿があった。朝ごはんの食器を片付けているようで、水の音が響いていた。


「ただいま、連れてきたよ」

「おかえり、ベルナム」


 優しく、でも真っすぐな声のお姉さんは、服で手の水分を拭きながらこちらに向かって歩いてきた。長い髪を1つに結んで、家事の邪魔にならないようにしてある。


「おはようございます。私はライです。話はベルナムから聞いています」


 礼儀正しい女の子だ。深く頭を下げてきたので、反射的に俺の頭も下がる。

 2人は両親を紹介すると言って奥に入って行く。俺は心臓の鼓動を抑えながら付いて行った。


「紹介しますね、私たちを育ててくれた親、スカインとリズです。父のスカインは、もう動けませんし喋る事も出来ません。リズは物忘れがひどくて、さっきあった事も忘れてしまいます」


 それを知った俺たちは驚いた。俺もダリアさんも、おそらくアリアも、思っていた事情とは違っていたからだ。

 紹介し終わったライは、早速本題に入るように、棚から1枚の紙を出して来た。何やら文字が書いてある、手紙のようだ。ライはそれを俺達の前に置いた。


「これは、元気だった頃、スカインとリズが書いたものです」


 メッセージを覗き込むと、ライとベルナムへの希望が書かれてあった。もし私たち2人共、子供たちの世話が出来なくなった時、2人が信頼した人の場所に行ってほしい。私たちはここに置いて行けばいい。そんな言葉が並べられていた。

 ライは俺たちが手紙を読み終わると、自分たちがどんな経緯でここに住み始めたのかを教えてくれた。


「私たち2人は、気づいたら砂浜に捨てられていたみたいなんです。それを父が拾って育ててくれました。元から高齢だったので、最後まで世話は出来ないとは聞いていました。でも、恩返しのつもりでこうして世話していたんですが……」

「君たちでは、限界があるな」

「はい……」


 金銭面はもちろん、体力や、精神面で成長途中の2人には、付きっきりでの介護は相当な苦労が想像できる。でも、これまでこうして支えてきたのは素晴らしい親孝行だ。誰にでも出来る事じゃない。そこは胸を張ってほしい、そう心から思った。


「話してくれてありがとう、ライ」

「はい……」


 気付けばライの目に涙が浮かんでいた。余程辛く、話すことで楽になったのか。自分の力なさに押しつぶされそうなのかは分からないが、これから二人の人生が幸な物となるように、俺たちは全力で協力したい。

 ダリアさんがライの傍に寄って、頭を優しく撫でながら言う。


「ライとベルナムは、お父さんお母さんを置いていく決心はついてるの?」


 2人は静かに首を横に振った。

 大切な両親の最後の願い、と言っても置いていく事なんて出来ない。極々自然な感情だ。二人にとってはスカインとリズが親で、この人が居なければ死んでいた。そんな事、2人は容易に理解しているのだろう。そんな気持ちを踏まて、ダリアさんは2人の覚悟を聞いたのだろう。返事は予想通りだったが……。


 しかしダリアさんは笑顔だった。それを聞きたかったのかもしれない。明るく二人の前に膝を付く。


「うん、分かったわ。大丈夫」


 頭を撫でられているベルナムとライは、ダリアさんの言葉が理解できず、首傾けている。


「4人とも家に住みましょうか」

「えぇ!?」


 ダリアさんは、孤児院で責任を持ってみんな世話をすると語った。

 2人とも最初は嬉しそうだったが、複雑な気持ちも垣間見られた。それでも、ダリアさんの決断と熱い気持ちを受け入れる事になったのだ。


 これで孤児院に、新しい仲間が加わる事に決まった。引っ越しは準備も含め、少しずつやっていく。高齢夫婦も居るので、慎重に行っていく必要もあるだろう。でもこれで、ライとベルナムの心配事は取り除けそうだ。




「ありがとうな」

「なんだ、改まって」

「いや、姉ちゃんも嬉しそうだったから」


 たまに口が悪いベルナムも家族思いなところが可愛いく思える。


 引っ越しのための掃除や、荷物の整頓、必要な物をまとめるための大体の時間を決めた。

 これからベルナムもサンドリンに行くため、後はライに任せる事になったが、近くにジュリや、マリーさん、ミルさんも居る事を伝え、何かあったらすぐに来るように言った。




 アリアに今日あった事を話しながら、サンドリンに向かう準備を開始しする。


「そう、良い感じにまとまったのね」

「うん、二人とも嬉しそうだったよ」


 それもこれもダリアさんの寛大な対応のお陰だ。俺も最大限協力しよう。


 お昼ご飯をみんなで食べてから、俺とアリア、ダリアさんとベルナム、リリアンの5人でサンドリンに向けて馬車を走らせた。

Next:制限

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