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突然美男美女、時々あなたと恋模様  作者: 柊月エミ
(裏)恋模様は突然に
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(3)

 





(ある日の某母娘+弟の会話を抜粋 ※本編12話参照) 

 



「どうしたの? そんなに落ち込んで」

 遊びに出掛けていた娘が帰って早々ソファにぐったりしな垂れガックリ落ち込む姿に、母は懸念な表情浮かべ理由を問いかけた。

 ひどく青ざめた娘は力なく顔を上げると、大きな瞳を怯えたように震わせ母を見つめた。


「……ママどうしよう。あいつ、本格的に結子さんに嫌がらせを開始したみたい」

「なんですって!?」

 旧友との10年振りの再会以降、叶わぬ恋に身を焦がしていた娘の幼馴染の彼だが、互いに想い合っている2人に嫉妬するあまり仲を引き裂こうと、とうとう彼女に攻撃の刃を向けたらしい。

 ショックで呆然とする母に、娘は再び暗く俯いた。


「……ママには心配かけると思って今まで黙ってたんだけど、実は今回が初めてじゃないんだ。あいつ、もうずっと前から毎日のように店通い始めて2人の仲を妨害してるの。いくら私が厳しく注意しても、あいつ全然聞き入れてくれなくて……」

「そんな…………凌君もうすでに毎日店通い始めてたの!?」

 いつかはと怖れていた事態がすでに現実に始まっていたことをたった今娘から知らされ、母は唖然と娘を見つめた。

 

「それでも、平日夜だけならまだ可愛かったんだ…………あいつ、休日昼間さえあの2人を2人きりにさせないために、先週結子さんを無理やりランチに連れ出したらしい。しかも、ランチだけならまだしも結子さんを家に帰らせないために、そのまま強引に映画館に引きずり込んで2時間以上結子さんを映画館に閉じ込めたんだよ」

「そんな…………あの凌君がそこまで卑怯な真似をするなんて」

 貴重な休日さえ愛する者同士を引き裂いた挙句いたいけな若い女性を暗闇密室の恐怖に陥れるなんて、男の風上にもおけない卑劣行為そのものだ。

 

「しかも2人が観た映画って、ついこの前新太が購入した漫画の実写化映画なんだって…………きっと新太、漫画好き結子さんと映画デートを楽しむために全45巻漫画一括大人買いしたんだよ。それなのに、2人で楽しむはずだった実写化映画まであいつは無残にも奪い取ったんだよ!?」

 その実写化映画に先週自分が彼に誘われたことにさえ今だまったく気付いていない娘は、激しく幼馴染の陰湿行動を罵った。


「……それで、とりあえず結子さんは無事なのね?」

 母は腹底から込み上げる怒りを必死に抑えながら、とりあえず彼女の安否を確認した。


「一応食欲はあるみたい。今日平然と和風きのこパスタ食べてたし………………あ、でもやっぱりちょっとおかしかったかも。結子さん、私は一言も聞いてないのに、自ら進んで凌に無理やりランチと映画に付き合わされたこと話し始めたんだよ。まるで言いたくてうずうずしているのをずっと我慢してたけど、とうとう我慢できずうっかり口から出ちゃったみたいな感じで」

「結子さんがあえて自分から嬉しそうに告白……」

「それだけならまだしも私が怒って凌をぶん殴りに行こうと席から立ち上がると、結子さんめずらしく大声張り上げて、ランチと映画は合意の上だから絶対に凌を責めないでくれって懇願さながらあいつのこと必死に庇うしさぁ」

「結子さんも合意の上…………あら、ママもしかして何か勘違いしてたのかしら。結子さんと凌君ってひょっとして……」

 やはり年の功、いくら超鈍感とはいえ人生経験の差から母は娘より男女の仲に敏感だったようだ。

 

 なんとなく真実に気付きかけた母が言葉を続ける前に、娘の隣からハア……と大きなため息が零れた。


「まったくこれだから超鈍感母娘は………………駆け引きだよ、駆け引き。結子さんは今、恋の駆け引き中なの」

 暇つぶしにテーブル前でひたすら1人筋トレに励んでいたはずの弟だが、しっかり聞き耳立て姉の友人の泥沼三角関係情報をゲットしていたらしい。

  突然母娘の会話に割って入ってきた。


「こいのかけひき?…………結子さんに釣りの趣味があるなんて今まで聞いたことないけど」

「もしかして結子さん、本当は映画じゃなくて凌君と鯉釣りを楽しんだんじゃない?」

「恋の駆け引きとは意中の相手の気持ちを試す恋愛テクニックのこと。つまり、結子さんは今新太さんを試してるんだよ」

 駆け引きは駆け引きでも恋ではなく何が何でも魚にこじつける母娘にほとほと呆れつつ、弟は再び口を開いた。


「休日に好きでもなんでもない凌さんと出掛けるのも、あえて姉貴に凌さんと2人で出掛けたことをうっかり口滑らせたのも、すべては新太さんに匂わせるため。結子さんはいつまでも煮え切らない新太さんへのあてつけの為にわざと凌さんの誘いに乗り、凌さんと仲良しアピールして新太さんを焦らせようとしたわけ」

 今まで家に3度しか遊びに来たことがない彼女が意外にも隠れ小悪魔女子だった本性をすでに見抜いていた弟に、母娘は白目縦線で驚愕した。


「じゃあ、やっぱり結子さんが好きなのは……」

「あのちょっと前まで確かに純粋無垢だった結子さんを恋の駆け引きに走らせるほど、新太が鈍感だったなんて……」

「姉貴、結子さんがこれ以上凌さんを利用しないように相当2人を引き離したほうが良いかもしれないよ。このままだと結子さん際限知らずに駆け引きしすぎた挙句、逆に新太さんに浮気者と勘違いされ振られるかもしれない」

 神妙な面持ちで忠告する弟にハッと反応した姉は、きゅっと硬く表情を引き締めた。


「恋愛初心者の結子さんならそんなドジもやりかねない…………今すぐ恋の駆け引きなんてやめさせなきゃ」

「こうなったら徹底的に結子さんと凌君の接触を断固阻止しましょう!」


 互いの目を合わせた母娘は強く頷き合い、2人の幸せな未来のため彼の恋の妨害に一層邁進し、これから先も共に戦うことを固く誓った。



 母娘の様子を傍で見つめた弟は、一瞬母がなんとなく真実に気付きかけた時は内心とにかく慌てふためいた。

 大のお気に入りである彼女をみすみすこのまま彼に奪われるなんて大変面白くない。

 暇つぶし材料として十分楽しませてもらっている彼だが、継続してこのまま超鈍感母娘の犠牲になってもらうことにし、再びひたすら1人筋トレに励み始めた。




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