地下で蠢くもの
シュラミアとミリスは地下深くまで続く階段を降っていく。
ミリスはシュラミアにいつでも攻撃を加えられる用意はしてあった。この狂人はいつ何をしでかすか分からない。行動基準が常人とは全く違う――そう確信した。
暫く階段を降りると、広がった空間へと出る。
壁中に埋め尽くされた発光する魔石により、地下なのに昼間よりも明るい空間の先には、鉄製の門が佇んでいた。
「恐らくあの先に私達が求める物があります」
「そうみたいね」
恐らくあの門の先が、書庫兼宝物庫なのだろう。しかし一つ気になる点がある――。
「あんたが送り込んだって言う奴らの姿が無いみたいだけど」
「恐らく門の先で死んでるか、死体ごと消えたかなのどちらかでしょう」
一体この先になにがあるだろうか。
気を抜いたら次の瞬間に死んでる可能性もある。十分に注意を払いながら広場の中央辺りまで進む。
ミリスがふと床に目を向けると、血痕がこびりついているのを見つけた。それもかなり新しい物だ。
「血の跡……⁈」
ミリスは咄嗟に臨戦態勢に入る。この広間で何かしらあるのは間違いない。
突然、階段と繋がる入口部が結界で覆われる。みた事も無い類のものだ。
その時だった。
門が重々しい音を立てて開門する。
そこから姿を現したのは、人の顔を持ち、無数の手足が生えた異形の怪物だ。その大きさは10メートルはあるだろう。
「何あれ。あんなモンスター、見た事も聞いた事もないけど……」
「あれは魔獣でしょう。あれからは人間の気配がします」
ミリスは魔獣と言うものに聴き覚えがあったーー三千年前に失われた太古の魔法で改造された人間の事だ。
三千年前に、魔法の原理を解明し、魔族を絶滅寸前まで追い詰め、神を駆逐し、世界を統一し、数多の遺恨を残した古代帝国での話では、奴隷を魔獣に変貌させ兵士として利用させていたそうだが。
だとしても、遥か太古の遺恨がこんなところにいるのだろうか。
「見るからに私の傀儡は、アレに喰われたみたいですね」
「そうみたいね。それで魔獣がなんでこんなところに?」
「地下を守る門番みたいなものでしょうね。それより、来ますよ」
魔獣を無数にある手足を器用に動かし、此方へと飛びかかって来る。
ミリスが炎の槍で魔獣を貫こうと思いたった瞬間だった。
シュラミアが懐から宝玉を取り出し、魔獣に見せつけると動きを止める。
「先程、私が相対した神官が大事そうに持っていたものです。恐らくこれを使って書庫へと行き来していたみたいですね」
「そんなもの持ってるなら最初から出しときなさいよ?」
「私のユニークスキルで使用用途は判明していたのですが、まさか魔獣が居るとは思いませんでしたし……それから考えたら随分と迅速な行動だったと思います」
シュラミアは魔獣に宝玉を見せつけながら、奥へと進んでいく。
「先へと急ぎましょう。此処から奥が例のしょこのはずですあ。此処は恐らく一方通行でしょうし、外に出るにも先へと進まなくては行けなさそうですから」
彼女はミリスにそう話しかけた。
兎も角、二人が求めていた場所はもうすぐでたどり着けそうだ。




