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百年越しの災厄



エストリア帝国の首都、アル・バレ。


その都市は大国の中心地ということもあり、非常に賑やかでその規模をかなり大きい。


更には種族差別の少ないこの国では、あらゆる種族が混じり合いながら、互いの文化を理解しながら妥協し合い生活していた。



この光景も昔からあった訳ではない。


二十年前に皇帝が代わり、現在のウェレス・エレ・ヴァルアード=エストリアに変わってからだ。



彼女も竜人族と人間のハーフだったからか、多種族に寛容な政策を取り、差別を強く禁止した。


更にその果てには、魔族とすら友好条約を結んだのだ。


彼女が国を治める様になってから、ますます帝国は発展したのだ。




そんな帝都バル・アレのメインストリートをを歩く竜人族の老人の姿があった。


そしてその隣には孫だろうか――幼い竜人と人間のハーフの少女がいる。



「にしても過ごしやすくなったな……この国も」



竜人族の老人はそう呟いた。


彼は四百年以上生きてきたが、これ程に良い時代はなかった。


どの種族もが、お互いを尊重して譲り合いながら生活している。


他の国では、絶対に見られない光景だ。



「おじいちゃんって、なんでこの国にいるの? だって竜人の国って違うところにあるんでしょー?」



孫娘が質問を投げかける。


子供らしい無邪気な表情を浮かべていた。



「それはの。昔ワシは冒険家で、竜人の国を出て旅をしててな。たまたまエストリア帝国にたどり着いたのじゃ」


「それでそれで?」



孫娘は目をキラキラと輝かせる。話の続きが気になる様だ。



「それでアララギという街に着いたのだが……その…やはりやめにしよう」



この国に来た経緯を話すと、あの恐ろしい話もしなくてはならない。


悪魔により引き起こされた災厄――こんな話しを子供にするべきではないと思い、口を閉じる。



「えー。わたし気にになるよー」



孫娘はそう言い駄々をこねる。



「そうじゃな。もう少し大きくなってから教えてあげるぞ。それより、美味しいものでも食べに行こう」





老人がそう言った時だった。



「ウォォォォ‼︎」



唸る様な咆哮、爆音と衝撃が辺りに響きわたる。



音のした方向を見てみると、そこには高さ15メートルはある二足歩行の牛と人を足して割った様な怪物がいた。



「おじいちゃん。あれなぁに?」


「や、奴だ…憤怒の悪魔じゃ……」



老人はそれを見た瞬間、全身を悪寒が走った。


老人はその怪物を見たのは初めてでは無かった。



その怪物を忘れた事は無かった。


少なくとも、未だにトラウマが残るほどには酷い惨劇と恐怖を植え付けられた。


あの日見た虐殺だけはどうやっても忘れられない。



「もうおしまいじゃぁぁ‼︎」



老人は恐怖からその場で丸くなり、ガクガクと震える。


彼の脳内にはアラストルによって引き起こされたトラウマの数々が鮮明に蘇った。

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