Sランク冒険者
ギルドの応接室にて。
「これが約束の品だ」
リハクは、袋一杯に詰まった金貨を渡してくる。
「は、はい...ありがとうございます......」
エリシアは完全に弱りきっていた。
「あの魔法は何なんだ⁈」と多方面から質問責めにあい中々解放させて貰えなかったのだ。
魔法を使った張本人は蝙蝠の姿に化けて、何処かに飛び立っていく始末だ。
適当な嘘を言って、先程質問責めから解放されたばかりだ。
「それとこれだな」
リハクがそう言うと、二枚の金色のプレートを渡してくる。
そこには、Sランク冒険者 エリシア・エルミールと刻まれていた。
そうして、もう一枚のプレートもSランクのものであり、そこにはリアの名前が刻まれていた。
「私もSランクなのですか⁈」
エリシアの隣にいたリアは声を上げる。
「共に討伐しに行ったのだろう? ならば二人ともSランクにしなければなるまい」
「でも、私そんな強くないです......」
「君の素質は素晴らしいものがある。実力なんて後からついてくるはずだ。それに、同じランクでないとクエストを受けれないからな」
リハクはそう言うと、その場から立ち上がる。
「俺は、用事があるからもう行くぞ。エリシアの使った魔法の件でな。皇帝陛下に説明するように言われているのだ」
「やっぱり、あの魔法はいけませんでしたか?」
エリシアは恐る恐る質問する。
「まぁな。ドラゴンを倒してくれたのは有難いが......少し威力が規格外すぎる。魔法名は"死の舞踏"だったか? あれはもはや神の領域だな」
(私は魔力を貸しただけなのですが......)
魔法を使ったのは、アラストルだ。
最上位の悪魔が使ったと言うのなら、ある意味自然だ。しかし、人間が唱えたとなると余りにも規格外すぎるし不自然だ。
「エリシアが人間じゃないと言われても俺は信じるぞ。例えば神の化身とか言われてもな」
「本当に私はただの人間なんですが......」
「だとしても、エリシアは何処から来たんだ。素性が全く分からなくてな」
「他人のプライベートは気にしないし、気にしちゃいけない。それが冒険者の暗黙のルールじゃないですか?」
冒険者にはある暗黙のルールがある。
それは相手の素性を気にしていけないと言うものだ。
相手に深く詮索はしてはいけない。もしそれで殺されても文句は言えないのだ。
「そうだったな。ギルマスの俺が一番基礎的な事を忘れてしまってたよ......まぁ兎も角だ。エリシアが帝都を救った英雄には変わりはない。ギルドはあんた達を歓迎するぜ」
リハクは、そう言い残し部屋を後にした。
そこに残ったのは二枚の冒険者プレートと金貨の入った袋だ。
「つ、疲れました...暫くはもう動けないです......」
エリシアは大きなため息を吐き、ソファにもたれかかる。
「あの悪魔のせいで災難でしたね」
「本当ですよ。当の本人はどっかに行きましたしね」
エリシアは目の前に置かれた金貨に視線を向ける。
「この金貨......最初はどう使ってあげましょうかね?」
金貨が二百枚もあるのだ。いくら変に使ってもそうそうなくなる金額ではない。
「エリシアさん、家を買いましょう。良くないですか」
「家ですか...」
「そうです。安心して帰れる場所欲しくありません?」
確かに、欲しいかもしれない。
今までは安心して居られる場所がなかったのだ。せっかくなら大きな屋敷でもいいかもしれない。
「だったら早速買いに行きましょう。善は急げと言いますし」
リアはそう言い、エリシアの手を引っ張る。
「もう少しゆっくりして居たんですが......」
「ゆっくりは屋敷の中でも出来ますよ。それに夜ご飯だって洗濯だってしてあげますからね」
リアはそう言い、エリシアをぐいぐい引っ張っていく。
「私はエリシアさんに一生尽くします。尽くしてみせますからね」
リアはそう言った。
(この人自分の国に帰る気はあるんですかね......?)
エリシアはふとそのような事を思った。




