宴の表
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宴の中心には、エリシア達の姿があった。
それの周りで、翼人達が酒や食事を堪能している。
最初エリシアがドラゴンを倒したと信じる者は居なかった。しかし、ドラゴンの死体を見させられてしまえば、信じる他ない。
「エリシア様! 遠慮せずにどうぞお好きなだけ食べてください!」
一人の翼人の女が、エリシアに更に山盛りに乗せられた猪肉の蒸し焼きを差し出した。
「あ、ありがとうございます……」
エリシアは渋々、それを受け取る。
(正直、もうお腹いっぱいで食べれないのですが……どうしましょうか)
先程から、様々な食事をあれもこれもと食べさせようとしてくる。
勿論、善意からなのだろうが、正直そこまで食べられないし、そもそもあんまり美味しくもない。
この国ではご馳走の部類なのだろうが、帝都の食事に比べれば味は何段か落ちる。
それと、エリシア"様"と呼ばれるようになった。すっかり救国の英雄扱いだ。
エリシアの隣では、アラストルとレーマが酒を飲み続けている。
その周りでは、翼人の男連中が飲み潰れて倒れ込んでいる。
悪魔は酔わないこと知らずに、飲み比べを挑まれ、敗北したようだ。
「ふふっ、楽しいねぇ」
「やはり、他者を嘲笑うのは面白いな」
潰れ倒れる翼人達を見て、楽しげな表情を浮かべる二人。
やはり、悪魔はロクでもない。性根が腐ってるとしか言いようがない。
それを横目に、エリシアは猪肉を口に運ぶ。
(獣臭い……味自体は普通なんですがっ)
別に食べれないというわけではない。少し臭いだけ、そうほんのちょっとだけ。
エリシアは近くに盛られた果物の山に手をつける。
此方は大自然の森の中で育った天然物という事もあり、水々しく甘みも強い。
正直、この中の料理ではこれが一番美味しい。
(果物は美味しいですね。帝都で食べる物より鮮度も良さそうです)
他に目がつくのは、酒だろうか。
様々な果物から作られた果実種で、独特な風味があってこれもこれで美味しい。
エリシアは基本的に飲酒はしないのだが、せっかくなので、少し頂いた。
「楽しんでくれてるか」
その時だった。
遠くで、酒を飲んでいたズディルがエリシアの眼前に立っていた。
「えぇ、お陰様で楽しくやらせてもらってます」
「がははっ!! そりゃ、結構。あんたみたいな猛者にはこの国にずっといてほしいくらいだ!!」
ズディルは、そう笑った。
恐らく、この言葉は本心なのだろう。少なくとも、エリシア程の強者を味方として、国に置きたくはなる筈だ。
だが、正直言ってこんな田舎の辺境で暮らすつもりは甚だない。
「すみません。私は帝都に帰らなければ、行けません……そこで帰りを待たなければ行けない人がいるんです」
エリシアの返答に、ズディルは再び笑みを浮かべる。
「まぁ、んだろうなっ。ダメもとで言っただけだし、当然の返答よな」
ズディルはそういうが、何処か残念そうな表情が見て取れる。やはり内心、ワンチャンあるかも――と期待していたのかもしれない。
「あぁ、そう言えば、例の報酬を渡すのを忘れていたな」
ズディルはそういうと、黄金のペンダントを渡してくる。
例の成功報酬だ。
これがあれば、理論的にはエリシアも魔法を使用できる筈だ。
「ありがとうございます。大切にさせて貰いますね」
エリシアは受け取ったペンダントを懐にしまう。
後で、ペンダントに込められた魔法を発動できるか試してみよう。
ともかくだ。
正直言って、翼人と言う種族にはとても興味があったが、彼らが住まう国自体は非常に面白味のない物だった。
ここにこれ以上居ても、やる事もないだろうし、もう少し居座ったら帝都へ帰ろう。
一つ心残りがあるとしたら、シュラの事だ。それだけ、それだけだ。
今、シュラにはリッタが付きっきりではいるのが。
少し様子でも見に行ってみるべきだろう。




