宴の裏
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シュラは、どこからかの喧騒に目を覚まさせられる。
意識が安定しない視界で辺りを見渡す。
雑多な窓から、月明かりが部屋を微かに照らしている。
外からは、賑やかな声があちこちで響き渡っている。
シュラは知らないだろうが、今夜は宴だ。
ドラゴンの脅威が完全に無くなり、滅亡から希望へと未来が変わった。
これからの繁栄と、今までに死んでいった同胞達の鎮魂の二つの意味を込めた盛大な祭りだ。
いつもは、日が落ちれば真っ暗になる谷底も、松明の灯りで照らされており、食糧庫に貯蓄してあった食糧と酒も無制限での解放だ。
翼人達は、酒を飲み交わし、あちこちで騒いでいる。
この様は、日が上るまで落ち着きはしないだろう。
「助かった……?」
死んだと思った。
でも、死んでないのだ。
寝台から半身を起こし、月明かりを頼りに自分の身体を触ってみる。
どこも、怪我をしていない。
「う、嘘……翼がある……?」
それどころか、ドラゴンによって奪われた両方の翼が腰からしっかり生えていた。
欠損部位を回復させる大魔法など存在するのだろうか。
いや、話には聞いたことがあるが、この国にそんな高等魔法を使える人材はいない。
その時だ。
「お、お姉ちゃん。大丈夫……?」
シュラが目を覚ましたのに気づいたリッタが、声をかけてくる。
「この状況は……?」
頭の中で、入り混じる情報を整理する。
そうすれば、真っ先に浮かんだはあの事だ。
バルサ。
そう、バルサだ。
将来を約束した彼が、ドラゴンに殺されてしまう様を。
そう、一時的に忘れていたそれが脳裏に蘇る様に焼き付いてくる。
「ね、ねぇ……バ、バルサは?」
「ごめん……ごめんね。お姉ちゃん……」
リッタは泣きそうな声色で、それだけの言葉を言った。
だが、それだけで理解するには充分以上だった。
その時、自分の中で何が崩れ去った。
「私だ……私のせいで……ぜ、全部私がっ……」
あの時バルサの誘いに乗って、リッタと共に逃げていれば、自分がこの国の全てを切り捨てる勇気さえあれば、こんな悲惨な結果にはならなかった。
涙が溢れてくる。泣いても泣いても止まりそうにもない。
後悔しかない。自分の選択する勇気がないばかりでこれだ。
「ご、ごめんっ……なさっ……」
シュラの誰に対する者かも分からない謝罪が、部屋に響き渡った。
「お、お姉ちゃん……」
リッタは、その光景を――弱みを見せることが無かった姉が泣き喚いている様に、どう声をかければ良いのか分からず、固まってしまう。




